第4話 シュン、夜這いと間違える。視点、シュン

 目を開けるとそこは、見知らぬ天井であった。


「あ、お兄ちゃんやっと起きたぁ」


「ふぐぅ!」


 腹部に突如、大岩でも落ちたのかと一瞬間違うほどの重みが乗っかる。

思わず声を漏らしながら顔を向けると、幼女2人が俺の腹部に跨っていた。


「あのぉ、ここはどこかなぁえーっと」


 俺がこめかきを搔きながら質問すると、2人は無邪気な笑みで答える。


「ここはアイシャ村だよ。それで私はエミリー」


 そう右に髪を結った金髪の幼女がいうと、瓜二つの顔の左に髪を結った幼女が身を乗り出す。


「私はミエリー、ねぇねぇお兄ちゃんの名前は?」


「俺はシュンだよ。君たちが助けてくれたのかい?」


 2人はまったくぶれずに首を横に振った。


「ううん。お兄ちゃんを運んできたのはシュエリーお姉ちゃんだよ」


「そっか、お姉ちゃんは今どこにいるのかな。お礼言わないと」


 俺は腰を上げると身体にあまり力が入らないことに気づいた。

そうだ、あれからまったく食べ物を口にしていなかったんだ。


「お姉ちゃんはまだ帰ってこないよ。だからさ、お兄ちゃん。私たちと遊んでぇ」


 無邪気な双子は、容赦なく俺の身体を揺さぶる。

うぅ、力が入らないからやめてくれぇ。

再び倒れ込むことを覚悟しかけたその時、「バタン!」と扉が強く開く音が聞こえた。


「エミリー! ミエリー! もう暗いのにうるさいわよ! 家の外に聞こえるぐらいどたばたと」


 部屋に入ってきたのは、見覚えのある路地裏で見かけたローブの女の子だった。

彼女がシュエリーさんなのか?

彼女は山菜や魚をテーブルに置くと、ズシリズシリと接近してきて、双子を俺から引きはがした。


「ちぇっ、もう少し遊びたかったなぁ」


「ねぇー」


 シュエリーさんは腰を落として目を細め、2人を見つめる。


「じゃあ晩飯抜きでいいのね?」


 2人はまたしてもお互いの顔を合わせた。


「「それは困る」」


「じゃあ席に着いて、大人しく待っていなさいな」


「はぁーい」


「シュエリーだっけ? あの子たちに聞いたよ、君が助けてくれたんだよね。

ありがとう、お礼はまたさせてくれ。

今日はちょっと色々疲れてるから」


 俺は軽く頭を下げた後、彼女の家を出ようとゆっくりとした足取りで歩いた。

扉に手をかけようとする俺の腕は、シュエリーによって防がれる。


「今日は遅いから、泊まっていくのをお勧めするわ」


「いやぁ、流石にそこまでしてもらうのは悪いと...いてっ」


 シュエリーさんの握る手に力が入る。

一見優しそうに見える笑顔をする彼女だが、どこか邪気を帯びているように感じるのは何故だろうか...。


「じゃあ、お言葉に甘えて」


「ふふん。じゃあ、あなたも席に着いていてね」


 俺は、ステップを踏みながら台所に向かう彼女を見ながら席に着いた。

気のせいだろうか、向かう途中「よっしゃー! 計画成功!」という小声が聞こえたような。


「シュエリーお姉ちゃん、今日の晩御飯はなぁに?」


「魚の塩焼きとサラダよ!」


 集中しているのか、シュエリーさんはこちらに顔も向けず息絶え絶えで料理に取り組んでいた。


「えーまたそれ~。ぶぅーぶぅー」


 双子は頬を膨らませ、木のフォークとスプーンでテーブルを叩く。


「わがまま言わないで! あと行儀悪いから叩くのやめなさい」


 双子は不服な顔をしつつも叩くのをやめた。

ここは俺の出番かな、お礼もあるし。


「エミリーちゃん、ミエリーちゃん後で遊ぼうか?」


「お兄ちゃんほんと?」


 2人は一転して顔を光らせた。


「うんほんと。でもその代わりにさ、料理ができるまでお兄ちゃんと一緒に大人しくしてよ?」


「「うん!」」


◆◇◆◇◆


「うぅ、気持ち悪い」


 あの後、料理を食べてすぐ双子に振り回された俺は、吐き気とギリギリの格闘をしていたのであった。

子どもたちが遊び疲れて寝た数分後、胃の調子がようやく整ってきた。

これでやっと寝れる。

それは眠気がゆっくりと、増してきた最中であった。

かすかではあるが、忍び寄る足音がこちらに近づいてくるのがわかる。

もしかして、あの子たちまだ起きているのか?

流石に相手をしてやれないと思った俺は、注意しようと勢いよく起き上がった。


「きゃっ!?」


 女の人の悲鳴が一瞬聞こえると同時に、俺の身体を柔らかい何かが被さった。

この慎ましくもそれでいてしっかりと、柔らかい弾力もあるこの感触は一体...。


「ちょっと! 事故とはいえこれ以上すればただじゃ置かないわよ」


 暗闇に目が慣れると、そこにはシュエリーさんの顔があった。


「うわぁ...んぐぅ」


 思わず声を上げそうになった俺の口を、彼女は両手で塞いだ。


「しーっ! 妹たちが起きちゃうでしょ」


 近い近い!

ここ、これは夜這いってやつなのでは???

俺の脳はシュエリーさんの甘い匂いと、温かい体温によって完全に正常な判断が出来なくなっていた。

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