その顔を見捨てないで

ちびまるフォイ

助けに来てくれる人

「おーーい。誰かーー! 助けてくれーー!」


体はコンクリートに埋められて動けない。

なのに顔だけは地面から出ている。

外から見れば地面に顔が生えているように見えるのだろう。


ここは人が通らないはずれの道。


車も自転車も入れないので、通りかかる人はいない。


「誰かぁーー。ううっ……誰かいないのかーー……」


何度声を出しても誰も来てくれなかった。


地面から出ている顔の向きは空に向いている。

周りに誰かいるかどうかもわからない。


「いったいどうしてこんな目に……。俺が一体何をしたんだ……」


叫び続けて声が枯れた頃。

ぽつぽつと、頬に水滴が当たるのがわかった。


「あ、雨だ! やった! 水が飲める!!」


雨は一気に激しくなり地面に叩きつけるように降った。

空に向かって大きく口を開けて、必死に水分補給する。


乾いていた喉がうるおっていく。

ここまでは良かったが、だんだんとアスファルトが水浸しになっていく。


「わぷっ……だ、誰かぁーー! たすけっ……助けてーー!」


雨で道路にいくつもの水たまりができあがる。

地上の人にはなんともなくても、地面に顔だけ出ていると水たまりでも十分に溺れてしまう。


なんとか空気を吸おうと必死に口をすぼめる。

道路にたまった水やじゃりが口や鼻に入り込んでいく。


雨が止むころには、水が飲めるとはしゃいでいた自分を呪った。


「うう……このままじゃいつか死んでしまう……」


顔が絶望に歪んだときだった。

遠くから人の話す声が聞こえる。


「おおい! そこに誰かいるのか!? おおーーい!!」


「うわっ! びびったぁ!」

「こいつ意識あるのかよ!」


声の主は学生たちだった。

人が通らないこの道へ面白がってやってきたのだろう。

理由はどうあれやっと巡ってきたチャンス。


「お願いだ、ここから出してくれ! 頼む!」


学生たちは何やらヒソヒソと耳打ちしている。

そしてズボンのチャックを下ろすとおしっこをかけてきた。


「うあああ! な、なにするんだ!!」


「あははは! ウケる!!」

「キモいんだよおっさん!」


その後も石を投げられたり、虫を近づけられたりと散々もてあそばれたあと放置された。

助けも呼ばれず、嫌がらせをうけただけだった。


「なんで……なんでこんな目に……ひどすぎる……」


次に人が通るのはいつだろうか。

こんな道にやってくる物好きなど誰もいないだろう。


もう叫ぶ力もなくなり、ゆるやかに死を待つだけだった。



その日の深夜。


車のエンジン音に目がさめた。

目だけを左右に動かして音の方向をさぐる。


「ああっ! 車! 車だ!!」


なんと幸運にも軽トラが道路にとまっていた。

荷台には何やら道路を掘る機械まで積んでいる。


こんなものを積んできた以上、目的はひとつだった。


「た、助かる! ついにここから抜けられるんだ!!」


運転席のドアが開く。

中からがたいの良い男が出てきた。


「おーーい! そこの人! 助けてくれ!! その機械で掘り出してくれ!!」


男は荷台の機械を下ろすと地面に向けて穴をほった。

ドリルの爆音がいつまでも響いていた。




日が昇るころ、トラックは顔だけ街道をあとに走り去った。

顔だけ街道には2人の学生が顔だけ出されて埋められていた。


「なんだよこれ! どうなってるんだ!」

「動けねぇ! なんでこんな目に合わされてるんだ!」



「……お前らが、顔を助けずに無視したからだよ。

 ここはそんな奴らが埋められている道なんだ」


俺は運転手が告げた言葉をそのまま学生たちに教えてやった。

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