第2幕:図書館での過ごし方




「断罪の焔――不定を融かすモノ。死を刻む闇。無明の果て。鉄鋼の巨人」



 幾つかの本を読んだ後で。

 私は、再び新しい本を調達しようと、複数の書架を行き来していたんだけど。


 神様の情報、少ないね。


 特に、地底の神々さん。


 現代では封印・消滅されたって聞いていて。

 伝聞やクエスト文面で出てきたから、後の助けになればと思ったんだけど。



「―――ん……んん?」

「難しい?」 

「大きくて、読みにくいぞ」

「此処のコーナーの本は、どれも、抱える程あるからね。大仰な神代関係より、もっと物語的な伝説の方が読みやすくていいかもしれないよ?」


「ん、そうする」

「私も、もう少し見たら――」



 文庫本サイズの本が収められたコーナーへ向かう少女。

 その後姿に声を掛けながら、やや疲れた目をグルグルと彷徨わせていると。



 ―――不自然な雰囲気の本に目が留まり。



 また、アレがあるね。

 遠目に見える厚い本。


 何処か、他とは質感の異なるアレは。

 

 あの本……そうだよね。

 以前、トラフィークでも同じものを見たけど。


 何処にでもあるのかな。


 何か意味があるのかな。


 ……うん、そうだ。

 此処は、ハクロちゃんにもこの情報の共有を―――



「――黄金のピート。――黄金のピート……っ?」



 偶然、なんてモノを見つけたんだろう。


 これは、読まなきゃ。


 読まなきゃダメだよ。


 羽休めと、偶々手を置いていた書架。

 指が触れた書籍に視線を向けると、そこには興味深い字が刻まれていて。


 私は迷わず本を取り。


 そそくさと席へ着く。



「ルミ。それ、何だ?」

「黄金のピートさんの伝説。世界の何処かにあるとされる、天上の果実だって」



 何という偶然、何たる僥倖だろうか。

 いま私が読むべき本が完全に決まってしまったよ。



 必要なら、借りようかな。


 

 ……………。



 ……………。



 ―――あれ……何か、忘れてる?




   ◇




「じゃあ、ハクロちゃんは一人で冒険する事が多いのかい?」

「ん。冒険、好きだ」



 図書館で時間を過ごす事暫く。


 そろそろ、読書も飽きが来て。


 カフェスペースで雑談を交えることにしたんだけど。

 中々に逞しいね、彼女は。


 こんなに小さいのに。



「一人だと、魔物に襲われて危なくなったりもするだろう?」

「大丈夫だぞ。ハクロは強いからな」



 自信たっぷりに言い放つハクロちゃん。


 余程、己の実力に自信があるようで。



「ふふふ。そうなんだね。こうして一緒に居る身としては、とても、頼もしいよ」

「……ルミは、強くないのか?」



 ハッキリ言ってね。


 そういう習性だし。


 およそ、種族的なモノなんだ。


 

「無職って言ってね? 陽の光を浴びただけで弱体化してしまうし、人前では本気を出せなくって、宵闇を好む――とてもか弱い生き物なんだ」

「……ムショク。可哀そうだ」



 もしかして。

 私、ハクロちゃんを騙してる……?


 彼女はとても純真なのかな。

 まるで疑問を持たずに、私の話を呑み込むよ。


 どう訂正するかと。


 首を捻っていると。



「―――ん……フレンドメールだ」



 小気味良い音が鳴り。

 私は、素早く自身のステータスを操作することになる。


 この作業も慣れたモノだね。



 ……………。



 ……………。



『ルミねぇ、今どこ?』



 ナナミからだね。


 こういう時は、大抵。


 何かのお誘いだけど。


 生憎、先約があるから、丁寧に返信しておくと―――んう?



「――どうかしたの……?」



 すごい前のめりで覗き込まれ。


 注意が完全にそちらへ向いて。


 覗く少女は。

 不思議そうな様子で私を見上げる。



「……………それ」

「フレンドメールだよ。お友達と連絡するための機能だね」

「どうやるんだ?」

「簡単さ。私とハクロちゃんはもうフレンドさんだから、まず、プロフィール欄を開いて。で、右上にある――」



 一通り解説をし終えたら。


 再びナナミへ返信を入れ。


 高速で帰ってくる返事に。

 じゃあ、また今度――と。


 作業を一通り終える。

 これで、ナナミたちは元気に冒険へ旅立つことが出来るだろうね。


 ………あれ。


 また連絡が。


 もしかして、食い下がりさん?

 諦めきれないってやつかな?

 もしかしたら、ユウトかエナからも援護が入って、とやらが激化……んう?




『ぶい』




「……ハクロちゃん」

「ん?」

「隣にいるのなら、直接話しても良いんじゃないかな」

「……やってみたかった」



 じゃあ、しょうがないかな。


 そういうの誰だってあるし。


 携帯を買ってもらって。

 家族と至近距離で通話したり。連絡先を交換して、すぐに何か送ったり。



「もう読書は満足した?」

「おぉ」



 満足したみたいだ。



「なら、そろそろお家に――そういえば。ハクロちゃんの普段の拠点は何処なんだい?」

「ん、古代都市だ」

「――わぉ、最前線だね。やっぱり、TPの一人なんだ」

「てぃーぴー?」 



 そうだろうとは思ってたけど。


 やっぱり、彼女も環境の覇者。


 ほんの一握りの精鋭さんで。


 しかし、古代都市。

 王国に属する地域とは聞いているけど、とても興味深い名前で……。



「古代都市って、どんな所?」

「遺跡が沢山あって、遺跡が沢山」

「ふむ……?」



 遂さっき、神話の話とか。


 歴史書とかを読んだから。


 余計に興味が掻き立てられて。

 思わず、情景が浮かんでくるようだ。


 果たして、遺跡は。

 古代という名を冠する都市は、どれ程の歴史的町並みを誇っているのか……。



「……行くか? 古代都市」



 そうだね。

 私も、いずれ行ってみたい。


 プレイヤーの最前線ともなれば、さぞ……?



「え……?」

「ハクロが、連れてってやるぞ。アンティクア」

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