幕間:王の元へ集いて




「――ロッカからの報告書見たよ。トラフィークの牙兵団、やっぱり強いらしいね」

「然り。現手勢での勝利は至難だろうよ」

「……老師は厳しいなぁ」

「事実を言ったまで」

「――じゃ、古代都市の方はどう?」

「其方も、同じ。騎士団の警備が強固すぎるわ」



 巨大な回廊を渡る影。


 一人は、蒼の鎧を着こんだ少年で。


 一人は、黒衣を纏った術士風の男。


 正反対の特徴を持った二人であるが。

 両者は、とても親し気な――対等な様子で並んで行く。


 

「――お! 副団長と参謀さんや?」



 そして、その足は。


 対面から歩いてきた大男の声と巨躯に止まり。



「……何とも邪魔な壁よ」


「壁って言わんでくれます? 老師さん。俺も老害って呼びまっせ」

「ん、何かあったの?」



 合流した大男も。


 また、親し気に。


 三者はその場で立ち話を始めるが。

 広い回廊には、彼ら以外の人影は現れないようで。

 


「号外だ。例の候の側近――12聖天の能力判明だってよ」

「……おぉ?」

「なに――? 何処で、そのような――ッ」



 より興味を示したのは。


 参謀と呼ばれた黒衣だ。 


 それは知識欲によるものか。

 多少語気を強くして問う姿にたじろぎながら、大柄な戦士は情報の続きを綴り始める。



「【採掘天国】ってイベントを鉱山がやってな。そこにノコノコ来やがったんだと」

「……鉱山都市……あのイベントか」

「ノーマークだったね。四貴族の出資イベントなんて沢山あるから、一々行くわけにもいかないし…今の僕たちには激レアでもない限り旨味はないし」



 現最上位の素材ともなれば。


 A級のアイテムなら欲しい。


 喉から手が出る程に。


 だが、手に入るかも分からぬ物の為に、態々数十人しか居ない戦力を裂くのも馬鹿馬鹿しく。


 今の彼等にとっては。


 特段利益のない話だ。


 何せ、彼らは現環境の頂点。

 ギルドランキングGR一位――【円卓の盃】


 飽和する財を持ち。

 希少アイテムを数多く保有する一大勢力で。



「何より、現在は経営に掛かりきりよ」

「そう、それ」

「……だよなぁ」

 


 三者は、共に嘆息しつつ。

 回廊から広がる景色を望み、息を吐く。


 円形に広がる都市。


 先に広がる大森林。


 この回廊が位置するは。

 都市の中心……居城。

 そのほんの一部であり、定員僅か50名の彼等がギルドには、余りに広い本拠地だ。




 【幻想都市:アヴァロン】




 現在、プレイヤーが治める都市の一角。

 それこそが、【秘匿領域】に存在するこの地であった。



「ともあれ、情報が公開されたのは朗報だね。PLが沢山いただろうし、ある程度信頼できる筋の物なんだろう?」

「あぁ、もっちもち。【紅蓮の戦鎚】タウラスは、火属性……或いは地属性上位派生の大鎚使い。最大捕捉数は不明だが、広範囲の精密魔法攻撃も可能な戦士職――らしいな」


「……うっへェ」

「何と、もはや」



 大男の言葉に顔を顰め。

 共に空を仰ぐ二人だか、仕方なきこと。


 彼等の言葉で表すのなら。


 それはぶっ壊れといえた。


 戦士系、術士系。

 戦闘における主力の役職には偏りがある。


 近接・射撃が高ければ魔法系は低く、逆も然り。

 故のパーティーであり。

 ゆえのギルドシステム。


 如何に【魔剣士】や【精霊弓士】などの上位職であっても。

 その鉄則が齎す影響は無視できず、一方を極めるよりも決定打に欠ける事は否めない。


 双方を高レベルで扱う存在は。


 脅威、と呼ぶほかないだろう。

 


 あぁ、流石は―――

 


「同じ戦士として張りあうかい? ゴードン」

「……冗談。相手が悪ィや」 



 ―――流石は12聖天。



 かつて行われた対魔族の戦争において、人界三国が指定した最高戦力12人の総称。


 現代では、武の頂点。

 人界の守護者そのものと言える。


 代替わりこそあれど。


 個人個人が決戦兵器。


 その情報は間違いなく。

 国家のパワーバランスすら左右する存在。

 現在は人界三国にそれぞれ4人ずつ存在することから、危うい地盤の上に均衡が保たれているとさえ言われる怪物中の怪物。


 如何に、最強PLの彼等でも。


 今の戦力では。


 敗色が濃厚か。



「……んっとによ。海洋の支配者さんと言い、最前線の老騎士と言い、怖いったらありゃしねぇ……」

「げに恐ろしき者たちよなぁ」

「でも、まぁ。いずれはね?」




「――彼らをも超えて、僕たちが頂点になる――ッ!」



 

「……んじゃ。行くか」

「……あぁ、思えば、急ぎであったのよ」


 

「――おーい。なんで無視するの――?」



 大きく両手を広げて。


 彼は回廊より叫ぶが。


 付き合いきれぬと歩き出す二人。

 その姿はやがて遠くなっていき。


 一人残された少年騎士も。

 意味が分からないとばかりに肩をすくめつつ、同一の向きへと歩き出す。



 彼等が一堂に会すのは。



 主要メンバーの招集によるものだった。




  ◇




 実の所、円卓の盃は。

 彼等団員同士は、現実の友と言える間柄ではない。


 彼等は互いの本当の顔を知らない者が殆どであり。


 それ故に仕事上の関係ビジネスパートナー

 

 私情を挟まない団結力。


 ある種、この世界に生きるというべきか……アバターの互いしか知らぬ故に、互いに騎士としての敬意を持ち、彼らは友人関係以上の信頼を構築していた。


 戦友、僚友りょうゆう、盟友。


 ゲームだけの関係。


 その関係の結果に存在しているのが最強の地位と冠だ。

 


「――んで。最初の議題は――魔族側の四騎士……だよな?」


「そそ。参謀、頼める?」

「……承った」



 始まる会議。


 進行役は副団長である少年騎士。

 彼は資料を纏めている黒衣の男へと提示を求め、配布されたものを各自が検分する。


 それは、先のクロニクルの一件。

 彼等が初めてと言える大敗北を刻まれた戦。

 

 襲われたのは。


 帝国と王国で。


 帝国

 【鉱山都市】へ暗黒騎士アリギエリ・スム

 【要塞都市】へ暗黒騎士ガラティア・コギト

 

 王国

 【海岸都市】へ暗黒騎士エルゴ・ラース



「そして、我らの最前線だった王国が【古代都市】に暗黒騎士ヴァディス・クォ。いずれの大将首も強力無比――現戦力での討伐は不可と断じられたわ」

「……負けイベずりィ」



 不鮮明な時期を終え。


 完全に固まった情報。


 確実な資料を基に。

 彼等は、今後の対策、及び反省会と呼べるものを行う。



「……へへへッ……酷かったねぇ、アレは」

「でも、収穫も多かったでしょ?」



 確かに敗北を喫しはしたが。

 その分、彼等のギルドが得られたものも大きかった。


 第一に、希少な装備や武器。


 潤沢な戦果ポイント。

 並びに討伐ポイント。

 報酬は獲れるだけ取り、ギルドとしてのポイントも稼げた。


 敗北こそ喫しはしたが。


 結果を見れば悪くない。


 もとより、バランス崩壊の負けイベントだ。



「何より、敵方の大将にPLがいるのも分かった。初期ロット――ずっと姿を見せなかった半魔連中が何をやってたのかも……ね?」

「情報完全遮断だもんな」

「そのような規約であろう」


「――んじゃ、やっぱり?」


「エンカするかもなぁ……」

「また、すぐに会うかもね」

「つうことは、うちの王様に勝ったアイツとまた――あ、やべっ」



 ……………。


 ……………。



「………はぁ」

「王様? 溜息つかないでくれ。あんたのそれは心臓に悪いんだ」

「――イエス、禿同」

「というか、負けてはいないでしょ。うちの王様が死んだのって、魔物の波に飲まれちゃったのが原因だったらしいし?」

「個人としては決着ならず、であろうな」



 彼等を束ねるギルド長は。


 PL最強と呼ばれる存在で。


 広く知れた噂話は。

 剣を抜いて全てを手に入れたという噂は、決して嘘偽りなどではなく、全てがそこから始まったというのも真実だ。


 ……だが、しかし。

 その職は、狙って手に入るものでなく。


 だからこそ、彼は。


 なるべくして王になった。

 そう言わざるを得ない豪運と知識、確かなカリスマの持ち主。

 

 少なくとも、卓を囲む者は。

 誰一人として、彼が自分たちを束ねる存在に足るのかという疑問を抱きはしない。


 この結果だけが真実だ。

 


「纏めが終わったなら、次は今後だよ。出来る限りの意見を頼むね?」

「「はいはい」」

「よく言えたの」

「……なんか、腹立つ」



 また、話は移り変わる。



 ……………。



 ……………。



「――特異種族への進化は模索中」

「限定クエストも同様」

「団員は現状維持です」

「小僧、お主は……?」

「うぅ~~ん。……やっぱり、もっともっと【ユニーク】が欲しいってのはあるね。その有用性は、僕たちが一番よく知っているんだから」


「戦闘系も良いけど、みたいなのも良いよな」

「……あいつらか」

「戦闘以外なぁ?」

「それは、当然――で、あるが」



「そも、我らが王も、であろう?」

「「……………」」

「――はははッ――違ぇねぇ!」

「……まぁ、そうだけどね。それ言っちゃお終いでしょ」



 ユニーク【騎士王】

 

 その最大スキルは、

 戦士系に属する職業に多大な補正をかける強力な物。


 ……で、あるが。


 本人への補正は

 騎士王が現環境最強とされるのは。

 あくまで本人のプレイヤースキルPSと、ユニーク故の早熟な適正値の高さにある。


 したがって。



「――いずれ、キングは切迫される」

「ゆえに。我らが突き放さなければならぬ」



 有利なうちに。


 出来うる策を。


 暫定の勝者ではなく、未来の勝者になるべく。

 

 騎士達は動き続けなければならない。



「取り敢えずは、進むしかないという事で……終わり!」

「「よく出来ました」」

「頑張ったのう、小僧」

「……やっぱり、なんか腹立つよね」


「ではでは、俺っちたちが王の有難い言葉をどうぞ?」

「――話は纏まったか?」

「そりゃあ、もう完璧に」



 ここまでの会議の全て。

 男は、完全に聞き手へ回っていたが。遂に団員の言葉を受け。


 「ならば良し」……と。


 彼等が王は立ち上がる。




「領の運営は良好だ。資金も、展望も、忠誠度も安定している。NPCの守衛も、黒騎士も。悪くない程度に増えつつある」




「……ゆえに、今が大規模に動くとき」




「これより、我ら円卓の盃は、第二次クロニクル及び【薄明領域】攻略に注視することとする。――起源を、解き明かさん為に」


「――御意ィ―――ッ!!」



 最早ゲームは第二の現実。



 彼等、円卓の猛者たちは。



 およそ騎士らしからぬ、獰猛な笑みを浮かべた。

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