第4幕:街道渡りて鉱山へ上る
「…皆、強いんだねぇ。とても真似できる気がしないよ」
目の前で次々に倒れる魔物。
4人は、本当に強いらしく。
頼もしさを覚える。
「馬鹿の一つ覚えで、戦闘ばっかりしてるから」
「あまり二次職は育ててませんけど」
「中堅上位くらいの実力はあるんじゃないか? 数で不利だから、ギルドランク的には下から数えた方が早いけどな」
それでも、凄いよ。
一人一人の戦力は負けてないって事だし。
……私に比べたら。
大抵のプレイヤーは強いだろうけどね。
既に、都市周辺にある安全圏は出てしまっているので、街道でもお構いなしに魔物が出る。
私達は、歩きだけど。
もしも、私一人でここを歩こうものなら。
それこそ、道半ばで彼らのおやつになっていただろう。
ユウトたちが護衛してくれているからこそ、憂いなく進めるんだね。
……でも。
それが良いことなのかは分からない。
―――なんせ、これは。
「パワーレベリングみたいだよね」
「気にしなくて良いでしょ。私達も、最初の方はショウタ君キャリーでやっててね? 本当に大変だったんだよ?」
「いやー、その節はどうも」
「ルミ姉さんは無職ですからね。私たちが守ります」
ああ、お構いなく。
究極のヒモじゃないか。
穴抜けは好きだけど。
この糸は……ね。
楽しむ間もなく、早々に抜けないと。
―――ところで。
普通に互いを現実と同じ名で呼んでいるけど。
これは、仲間内で始めようとした時、分かりやすいようにと自身の名を文字ってプレイヤー名を付けたらしい。
だから、そのままでも良い訳だ。
私としても楽で良いね。
全員の職業。
一次職は、完全な戦闘向けで。
ユウトは戦士の上位である2ndの【剣士】
近接に特化していて、同じ2ndの【軽戦士】と並んで扱いやすい基本職。
エナリアは狩人の上位職【狙撃士】
遠距離からでも対象を射抜ける長所があるけど、扱いが難しく、コツがいるらしい。
ナナミンは盗賊の2nd【暗殺者】
なんでも、盗賊と狩人どちらからも派生する可能性があるらしく、単発火力の高いロマン砲。
ショウタくんは意外にも術士の上位である【魔術師】
近接は不得手だけど、高火力の遠距離攻撃が出来て、補助もこなせる優秀な役職。
「凄くバランスの取れたパーティーだよね。皆で選んだのかい?」
「いや、偶然こうなった」
「将太君が術士で始めたのが一番意外だったよね」
「いかにも近接戦闘しそうな感じでしたからね」
その予測は。
普段の彼の行動からなのかな。
まだそれほど親しくなったわけではないけど。確かに、ショウタくんは修学旅行で木刀を買いそうなタイプ…率直に言って、戦士よりに感じるけど。
口々に呟く皆の言葉に。
彼は、余裕の表情を見せ。
したり顔で、その理由について語る。
「まあ、そこはな。俺はパーティーの火力要因として守られる権利を手に入れて、しかも回復系の力を手に入れれば合法的にお触りが出来るってわけよ」
「らしいよ、優斗」
「――あ、ナナミンさん? 野郎はパスなんで」
「…お触りはともかく。もう一人の前衛をやってる
うん、まさしくね。
もしかしたら、全員同じ職業なんて可能性も存在していたんだから。
こうまで綺麗に分散したのは、とても良い事なんだろう。
その皆のおかげで。
こうして、不安なく進めるんだからね。
◇
―――順調に進んだおかげで。
山の色合いが強く。
高低差が
完全な平地が多かった南側とは、全く異なる景色だ。
「あれが【鉱山都市フォディーナ】だね?」
「はい。今回のクロニクルが行われる舞台の一つらしくて、都市の東側には大陸最大の【大迷宮】があるんです」
「――ルミねぇ、大迷宮知っている?」
そんな名前を図書館で目にしたね。
確か…この【帝国】の資金源だとか。
私が知っている情報はその程度のものだし、詳しく聞いてみたいな。
「いや、概要までは聞いてないね」
「じゃあ、解説を――頼んだ優斗!」
ある種、無茶ぶり。
ナナミの信頼に満ちた言葉が彼に飛び。
ユウトは、小さくため息をつきながらも説明してくれる。
「この世界にはいくつかの【迷宮】ってダンジョンがあるんだけど、どれも高難易度で有名らしいんだ。地上よりも強力な魔物がいて、その分報酬も大きいけど、その中でも階層数が最も多くて攻略が難しいのがフォディーナにある【大迷宮プレゲトン】ってことらしい」
「私たちが文献を見た限りでは――」
ユウトの説明を。
今度はナナミが引き継ぐ。
それらの話は、ワタル君に聞いたらしい。
彼の二次職は【翻訳家】らしく。
そういった、古い文献を調べるのが趣味だとか。
……その情報曰く。
かの大迷宮は、今まで一度も完全攻略されたことがなく。その最深部には神話の神々が残した秘宝が眠っているらしい。
もしも、富を独占出来れば。
最強のプレイヤーになれるかもね。
まぁ、私は。
恐らく深部に行くのも不可能だと思うけど。
考えている間にも。
皆は、手慣れた連携を披露してくれる。
「……恵那」
「了解です――ヒット。
「あぁ、またポップ狩りを……むむ」
自己紹介と変身中はダメなんだよ?
出現した途端に。
目の前で砕け散る
合わせるように。
遠くで
狼君にコボルド君、大蛇君など。
これまでに出てきた魔物は
「――キュ!! キュキュ!」
強そう…ではないね。
どちらかと言うと、可愛い系。
真っ白なふわふわさんだ。
「…見たこと無いのが来たね」
「アレは、ラース・ラビットさん。この一帯は【周辺難度D】だから、トラフィークよりも強力な魔物が出るんだって」
一見すれば。
それは大きいだけのウサギ。
でも、その瞳は燃えるように赤く。
名前に違わず。
可愛らしい顔を怒りに染めて突撃してくる。
「――そら、来たぜ?」
「では、私が狙いますね」
今回も、恐らく。
エナの一撃で終わってしまうだろうね。
……そう言えば。
ファンタジーではお決まりのモンスターがいないんだよね。
ゴブリンとか。
スライムとか?
両方とも、最初の方で出てくるような敵だと思っていたんだけど。
全然、それに該当する魔物に会ったことがない。
予測もできないけど。
どういう意図があるのだろう。
―――考えている矢先で。
矢が違わず額に突き刺さり。
加えて、小さな火球がその身に当たったことで、ウサギは完全に沈黙。
同じ動きを幾度となく繰り返したであろうことが伺える、洗練と効率化を経た連携で。それも、【鑑定家】という相手の情報を読み取れる二次職なら易いのだろう。
このパーティの内。
何と2人もが【鑑定家】らしく。
皆は、とても効率的に戦闘を楽しめる力を模索したのだろうね。
詰まる所…ガチ勢さんというやつだ。
「一丁上がり…だな」
「焼きウサギ、何度見てもちょっと思う所があるね」
「……そうですね」
女の子だから。
やっぱり、かわいいものが大好きなんだね。
悲しそうな顔で跡地を見るエナとナナミ。
そんな中でも。
残された尻尾のようなものを、いそいそと回収するユウトは流石だね。
ちょっと。
デリカシーに欠けるけど。
「――ねぇ、ショウタ君? 気になっていたんだけど、その魔法はどういう仕組みなんだい?」
彼の放つ火球。
それは、とても不思議なもので。
まるで本物。
グラフィックもさることながら、実際に敵を燃やす一撃は、実に興味深い。
「ええと、最初に幾つかの属性の中から好きなのを選ぶんです。で、その属性を集中的に上げたり、スキルポイント使って別の属性も習得したり…。まあ、本当に沢山あるんで大変っすね」
「今のところ、大きく威力の違いはないみたいだし、こういうのはネットで調べたりして自分の気に入ったのを選ぶのが良いらしい。モチベーションが違うからな」
地・水・火・風の四大元素。
そして、闇や光。
運営が公開している情報では。
属性魔法は、全16種もあるとか。
全部は未だに分からないけど。
各属性の上位派性以外もあったり、一般的では無かったり……上位職や、特別な職に就く必要があるモノもあるらしい。
とても楽しそうだね。
……聞き入りながら進んでいると。
新たに発生した情報体は二つ。
どちらも、もこもこだ。
二匹のラースラビットにも動揺することなく。遠距離職のエナとショウタ君が冷静に攻撃を放つ……が。
―――ミスディレクション。
何と、重なるようにして三匹目がポップしていたようで。
意表を突かれた彼等の動きが固まる。
「しまっ!? そっちは――」
「ルミ姉さん……ッ!」
攻撃を抜けたみたいだね。
二人は勿論。
警戒のために。
後ろを固めていたユウトも間に合わないから…。
あぁ、やっぱり。
こっちへ来る。
AIで、私が一番倒しやすいと判断したのかな。
「――キュー!!」
「……っと。やっぱりダメか」
倒そうとするも。
私では、やはり難しいみたいで。
短剣【白爛】はウサギくんの胴を掠め。
代わりとばかりに放たれる前蹴り。
ウサギがドロップキックをしてくるなんて、何とも珍妙な光景だけど、まともに喰らえばただでは済まないだろう。
私は、身体を一回転させ。
何とか攻撃を受け流す…けど。
「――ッツ!! ルミねぇ、大丈夫?」
「……4か。うん、問題ないよ。でも、やっぱり戦闘は難しいみたいだね。練習していないから攻撃も当たらないし、掠っただけで大ダメージさ」
私の体力は10。
それが6まで減っていて。
とても、ただ掠っただけの攻撃とは思えないね。
攻撃してきたうさぎ君は。
ナナミの一撃で倒れ。
目の前にはドロップ品のポンポン尻尾が残り。
心配した様子の皆が集まってくる。
「――ルミねぇ。遊び人…じゃなくて、【無職】って適正値どうなっているの?」
「全部Eだね」
「…その能力で、あの動きできるのかよ」
「ちょっとずつだけど順応しているんだろうね。それでも、私一人じゃ、すぐにやられちゃうと思うけど」
身のこなしには自信があるんだけど。
やはり、能力値という存在が占めるものは大きいようで。
「補正無しで、良くやるよねー」
ナナミの言う通り。
……適正。
ステータス欄のアレが重要だとか。
「やっぱり、あると強いのかい?」
能力とは別に存在する適正値。
私の場合。
白兵は最低値のEだから、全くないに等しい。
「差は大きいと思う。俺の白兵適性がBだから、その分攻撃も防御も高くなっているだろうし、何より相手の動きが追えるんだよ」
「私も、射撃の適性が高いので。対象に当てやすいですね」
ふむ、ふむ。
無職って本当に。
戦いが事が不得手なんだね。
どうしたものかと首を捻り。
前方不注意のまま歩いていると、急に裾を引っ張られ。
「――着いたよ? ルミねぇ。ようこそフォディーナへ」
ナナミの言葉に。
皆が前方を空けてくれて。
私に、新鮮な景色が飛び込んでくる。
―――ここが、鉱山都市。
トラフィークのレンガ造りだった街並みとは。
まるで、対照的。
向こうは色々とカラフルな家々が揃っていたけど、こちらは木造の建築が多く、全体的に街並みは茶色系統で。
素朴ながら良い雰囲気だ。
山々が周りを囲んでいる影響で、天然の要塞みたくなってるし。
山登りが好きなプレイヤーには。
きっと、たまらない都市なんだろうね。
「今日は遅いし、ギルドホームに着いたら、一時解散だな。ルミねぇは、良い感じの宿を紹介するよ」
「おもてなし第一のとこ!」
「次は、案内もしてあげたいですね」
「うん、ありがとう。次は、ワタルくんも一緒に遊べると良いんだけど」
皆に迎えられるまま。
私は、新しい都市へと足を踏み入れていった。
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