第2幕:生徒と教師でゲーム談義

 放課後。


 といっても、あれからすぐだけど。

 私は、可愛らしい幼馴染たちに手を引かれて教室の片隅にいた。

 少ないとはいえ。

 やるべきことはあるんだけど、退路を塞がれてしまったのだから仕方ないね。



「あぁ――良くやってくれた、優斗」

「……大人しくなってくれて何よりだ。で? 将太。教室の片隅に追いやって、何の話をするつもりなんだ?」



 ナナミとエナに挟まれ。

 三人で歓談していると。


 傍にいるユウトの声が耳に入る。

 一緒に話しているのはバイト君…ショウタ君といったかな?


 今時の男の子はどんな話をするんだろう。



「――もち、ゲームの話よ」

「新学期初日からか?」

「いやいや、だからこそ…な。鉱山とこの狩場が占領されるだろうし、今のうちに前線を進めるか、それとも森の方でやるべきか、時間がもったいない」

「……あ、確かにそうかも。もう決めておく?」



 ゲーム、良いね。


 今時の高校生だ。


 でも、ナナミも一緒?


 二人の会話に割って入り、是非を問う少女。

 よくよく見ればエナも興味がありそうで。

 そうなると、大人数で出来る物…しかも鉱山なんて聞き覚えのある単語。


 私は、以前トワと話した時の事を思い出して。



「ああ、そうだった。ユウトたちも【オルトゥス】をやっているんだったね」



 友人特権というやつで。

 三人はハードとソフトをプレゼントされたという。

 理解が追い付いて納得した私に。


 嬉しそうに寄ってくる皆。



「え!? ルミねぇもやってるの?」

「……失念してました。トワさん経由なら、ルミ姉さんが持っていないほうがおかしいですよね」



 貰ったのはつい最近だけど。

 お互いに忙しかったし、しょうがない。

 でも、三人は早い段階で手に入れることが出来たのだろう。そしてショウタ君も、販売品を運よく入手できたんだろうね。


 一つの学校にこんなにプレイヤーさんがいるなんて。


 こうなると、話題はそれ一色。


 わたしは、交互に質問を受けることになった。

 でも、困った問いもあるわけで。



「ルミねぇは何の一次職を?」

「……ははは」



 ゲーム内ならいざ知らず。

 知らないプレイヤーならまだしも。

 昔からの親交がある子供たちに【無職】だというのは、かなりアレだ。年長者として、良い所を見せたいというのは当然の欲求だから。


 答えように迷っていると。


 クラスの生徒が二人。

 こちらへと歩いてくる。

 ユウト達も和やかに歓迎しているし、気の置けない間柄というのが分かるね。



を外して会話するのは感心しないな、将太。話、入っても大丈夫?」

「私も良いかな」

「もっちろん。改めて紹介するよ」



 幼馴染というか。


 近所の姉枠と言うべきか。


 私の事を端折りながら二人の生徒に紹介するナナミ。

 先程も軽く触れていた話題だからか、すんなりと納得できたようだ。



「ルミねぇ? こっちの男子がわたるくんで、こっちが澄香すみかちゃん。澄香ちゃんは別クラスだったけど、どっちも一年生からの付き合いだよ」

「「よろしくお願いします!」」


 ああ、元気が良いね。


 聡明な印象を与える眼鏡の少年。

 そして、クラスの人気者になっていそうな優し気な少女。


 どちらも邪心の無い瞳で私を見てくれる。



「ご丁寧にありがとう。紹介していただいた月見里留美だよ。よろしくね、ワタル君とスミカちゃん」

「なんか、くすぐったいですね。…で、将太? どういう了見なのか説明を貰っても?」

「いや、すまんかった。あんまり最初からだと、関係ない連中まで来る気がしたからな。航なら自分から来ただろ?」

 


 そういう考え方もある。

 ショウタ君は開放的な性格に見えて、策士なのかもしれないね。

 彼の言葉に納得したワタル君もそれ以上は問いかけることなく、自然とゲームの話へと移行していく。


 話題というのはやはり―――



「【クロニクル・ストーリー】をやるんだよね?」

「そう、それ。ようやくの第一弾だから」

「今までにやっていたのは強化イベントとか、便利系アイテムの収集クエストばかりでしたからね。大規模イベントはとても楽しみです」


「力試しって意味合いでもな」



 皆、初期からやっているらしく。

 私はあまり詳しい訳ではないんだけど、これはアレだよね。 



「――6人は、同じギルドなんだね?」

「…あ、っと。私だけ違うんです」



 む、やってしまった。


 全員ではなかったようで。

 スミカちゃんが遠慮がちに否定する。



「妖精種スタートで【秘匿領域】にいるんだよね?」

「うん。まだクエストの進行が上手く行かなくて。ゆっくりでも進められればいいんだけどね?」



 そっか。

 異種族だと、別エリアのスタートだから。


 ―――でも。


 …ふむ?


 本当に些細な違和感。


 たちが悪いけど。

 分かってしまうものはしょうがない。

 私が黙っていれば問題が発生することは無いだろうし。


 沈黙しようか。



「そういう事なら仕方ないだろうね。合流を楽しみに出来る」

「…留美先生は何処にいるんですか?」

「私は【通商都市】だよ。まだまだ初心者でね、他の都市に行くのは、もう少し後にしようと思っていたんだ」



 トラフィークは人間種の開始地点。

 別都市にすら行ったことが無いのだから、当然初心者だ。

 


「じゃあ、しょうがないよね」

「でも、それなら迎えに行くことは出来るな。Eくらいなら片手間だ」



 イー?

 怪人の泣き声じゃないよね。


 ニュアンス的には、E…難易度?

 そういうのは、今まで気にしたこともなかったけどな。



「難易度の指標なんてあるのかい?」

「うん。【領域難度】っていうのがあってね?」

「Eから順に高くなっていって、魔物の強さとかが変わるんです。【トラフィーク】周辺は最下級のEですね。あと、初期開始地点は殆どそんな感じらしいですね

「…そうだったんだ」


 チュートリアルというものがなかったからね。

 自分で探すのが楽しいんだろうけど、知らないことだらけというのも恥ずかしい事だ。


 教えてくれる人がいるというだけでめっけもの。


 詳しく話してくれた幼馴染に謝意を示すため。

 私は、彼女の頭を撫でる。



「ありがとう。エナは本当に優しいね」

「……先生、恥ずかしいです」

「あ、他人行儀モードになっちゃった」

「レアケースだな。誰かカメラ持ってないか?」



 でも、やっぱり。

 高校生にもなると恥ずかしいようで。


 …嫌がっているようではないんだよね。

 

 手を引くと前に寄って来るし。

 


「――あれ、良いよね」

「…良い」

「何時も冷静な坂下さんが、恥ずかしそうに…でも、嬉しそうで」



 放課後にも拘わらず。

 未だに教室には多くの生徒が残って歓談していて。


 ……エナも。

 クラスに馴染んでいるみたいだね。


 三人とも、見ない間に真っ直ぐ成長していて。

 それを確認できただけでも、この職に就けて本当に良かったと思う。


 しかし。


 やるからには仕事しないと。

 初日は忙しくなるのが常なんだ。



「早速クラスの子たちとお友達になれて、とても有意義だったよ。私はそろそろ戻って打ち合わせを――ナナミ」



 腕を掴まれ…絡みつかれ。


 どうにも動くことが出来ない。

 彼女としては、まだまだお話をしたいようだね。



「…むむぅ」

「大丈夫、何時でも会えるよ。明日…はお休みだから難しいけど」



 良いとも。

 必要のない時は、子供に戻って。

 社交的な彼女は、クラスでも人気者らしくて。…でも、だからこそ気疲れもある。それを私が癒せるというのなら是非もない。


 ……けど、勤務中だから。


 ちょっと離してくれないかな。



「……ナナミちゃん? そろそろ――固ッ!」

「置きものみたいに…離れないですッ」

「こっちもこっちで珍しいな。流石幼馴染というべきか…いや、俺たちとしては眼福で良いんだけど…な。どうよ? 優斗さん」

「何がだ。俺に振らないでくれ」


「……だって。何時でも会えるなんて言って…あ――そうだ!」



 突然の事。

 思い立ったように固く結んでいた腕を解くナナミ。


 そのまま。

 彼女は思いついたように両手を広げ。


 皆の視線は、ナナミに注がれる。




「じゃあさ、今日会おうよ! ――ゲームでっ!!」

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