第2話 第1回青山支部個人杯

 大会前日の夜に、明日の日程を確認している。大会の概要としては、「予選で1本先取の試合を10回行い、そこで戦績の良かった8人が本選で勝ち抜き戦をする」というものになっている。普段の休日は午前中から対戦をしに行っているが、明日は練習場しかいていないようなので、最初の試合の1時間前に到着できるように家を出ることにする。ソワソワしながら、昨日と同じ時刻に布団に入る。


 当日、青山支部に向かう道中で、ウィザアドで見知った顔がいくつかあった。その中に、名前まではっきり覚えている人たちはまだ居ない。印象に残っているのは勝てなかった相手ばかりで、そんな彼らとは予選で当たらないことを願う。参加人数から予測している人の情報によると、9勝1敗と8勝2敗の境界近辺で本選に進めるかが分かれるらしい。負け越していそうな相手に6人ほど心当たりがある。優勝するなら本選で倒さなければならないが、とりあえず予選では当たらず、本選に進ませてほしい。



 そんな甘えた思いは、第7試合を前に捨てることになった。前半の5試合を快勝して迎えた第6試合の対戦相手は、最近のレート対戦で近い実力にいる顔見知りであった。絶対に勝てるとは言えない相手であったが、辛くも勝利することが出来た。この6連勝により、現時点で勝利数ベスト8に入ったようだ。これは、参加人数から計算した人による情報であり、6試合終了時点で全勝している人数は最大で8らしい。本選進出者8名の座に近づいて来ていることは間違いないのだが、予選はその時点で勝利数の高い者同士が対戦するため、ここから先は自分よりも強い人と戦うことになる。

 程なくして発表された第7試合の対戦相手の名は「モクレン」であった。数少ない格上との対戦に、落ち込むばかりではない感情を持って、対戦場まで移動した。


 試合が始まり、互いの距離が40mに迫る。40mからは、一撃で相手を倒せるほどの威力の射撃を3回か4回かしかできず、その回数で命中する確率は半分を下回っている。相手としても似た状況だろうから、少し待ってくるはずだ。とはいえ、30mまで近づけば6回は射撃できるため、互いに5m進むまでに決着がつくだろう。

 38mで攻撃がきた。緩めていた足が咄嗟に反応し、斜め後ろに下がる。相手の初撃を躱し、追撃もなかったので、少しだけ有利な戦況になった。

 後退する相手を追って前方に走る。相手が急に前に向かってきたのを見て、射撃に集中する。右に動いたのに合わせて1発目を撃つ。外れたのを確認する前に2発目。相手が左に動いたので3発目を照準する。相手も射撃をし始めたのを認識しながら準備していた4発目の射撃が発動する前に、試合が終わった。


 7試合目にして、一つ落としてしまった。3試合を残して、ここから3戦全勝すればほとんど予選通過が可能で、1敗までは僅かに可能性があり、それより負けたら予選敗退という状況にいる。元から全勝できるとは思っていなかったが、少し調子が良い気でいたため、反動でため息が出る。


 気持ちを切り替えて臨んだ第8試合は、相手がそこまで強くなかったこともあって、勝つことが出来た。しかし、第9試合の対戦相手を知った途端に、立て直したメンタルが揺れ動いた。8試合を終えて敗北数が1回以下の人数は約18らしく、仕方がないことではあるが、次の対戦相手である「フジ」は、俺の知る限りでは、青葉で3番目に強い人物なのである。


 早く終わってほしい気持ちのままで迎えた試合は、あっけなく、望み通りの早さで、報いを受けさせるように期待していない方の結果で終わった。互いの距離がまだ40m以上あるタイミングで仕掛けられ、それは一度外れたのだが、こちらが応戦して撃ち勝てる確率は低く、順当に負けてしまった。このような負け方を以前にも誰かにした覚えがある。それがフジだったのかは定かではないが、同じくらいの実力者であったことは間違いないだろう。強くなるためには、これくらいの距離での射撃精度を高める必要がありそうだ。


 二度の敗北を喫したが、未だに本選に進める可能性がある。10試合目に勝利することは前提であり、さらに同じ勝利数の人たちの中で対戦相手が強かった数人に含まれれば通過である。


 予選の結果を先に言ってしまうと、敗退である。最終試合は勝利できたのだが、8勝した23人の中で7番目、総合順位で言うと12位であった。本選を現地で観戦しても良かったが、直接見れる訳でもなく、人が多いところから離れたかったので、自宅に帰ってアーカイブを見ることにした。


 対戦相手が違っていたらこの画面に自分が映っていたのだろうと思いながら、今日対戦した人の試合を見た。予選を6位で通過したモクレンは準々決勝である1回戦で敗れ、4位通過のフジは2回戦の準決勝で敗れた。自分が本選に出ることが出来ていたとしても優勝が遠いことを痛感させられる。フジを倒したのは、唯一予選を全勝で終えた「ユズリハ」だ。俺に先制して射撃をしたフジを、それよりも遠くから先に攻撃し始めている。やはり遠距離での射撃精度こそが強さなのだろうか。


 決勝は、また違う展開となった。ユズリハの決勝の相手「スオウ」が先に仕掛け、それに反応して後ろに引いたユズリハにスオウが追撃をやめてすぐ、再び距離を詰めたユズリハの射撃がスオウに当たって決着した。

 初撃が外れて距離が開いたときは、互いに射撃に踏み出さずに試合が長引くこともあるのだが、今回はすぐに終わった。こういった駆け引きについて、まだ分からないところがある。次の大会までの間に少しでもユズリハに近づけるようになりたい、と漠然と感じて、第1回青山支部個人杯は過去のものになった。

 


 

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ウィザーズ・アドバンス ~魔法射撃競技、最強視点~ 焚付雨多 @Takitsu_Uta

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