兄と私

バブみ道日丿宮組

お題:去年のモグラ 制限時間:15分

兄と私

 父親が死んで、それを追うように母親も首をつった。

 それを見た衝撃は未だに消えない。辛そうな顔で今すぐに泣き出してしまいそうなものだった。

 家に残ったのは、兄と私だけ。

 住んでたマンションは購入したもので、基本的には光熱費しかからない。

 だからこそ、親戚の世話になることはなく、両親の遺産だけで過ごしてた。ある程度なポジションにいたこともあって、なんとか大学まではいける採算が取れてる。

 兄は両親が死んで、引きこもりになった。引きこもりとはいっても自分の部屋からは出てくる。つまり家から出ることがないということ。

 となると、自然に家事は私の役目になった。

 はじめは苦戦したが、何度か試行錯誤の末ある程度はできるようになった。

 母親の苦労が見え隠れした。

 私は兄の面倒をしなければいけないため、修学旅行などの日にちがかかるもいけなくなった。友だちの家に泊まるということもないし、文化祭で居残りをするということもない。

 別にそれでもいいと思った。

 残されたたった一つの兄なのだ。後を追わせてはいけない。

 中学からは、きちんとくるように連絡が来て、友だちがきたり、学級委員がきたりしてた。

 それも一年が過ぎると、誰も来なくなった。

 留年したこともあって、兄と私は同じ学年になった。

 色々聞かれることはあっても、触れてはいけないオーラが出て、クラスメイトは話題にしなくなった。

 それでもやっぱり、兄には元に戻ってもらいたい。

 そう思い、いろいろな本を読んだ。

 その結果として、お風呂に一緒に入ったり、同じ布団に入ったり、食べ物をあーんしてあげたり、あれを咥えたり、あれに入れさせたり、挟んだり、上下運動させたり、たくさんを兄と過ごした。

 その結果として、今年はじめて兄が外に出てくれる決心を得た。

 それは両親のお墓にお線香をあげるというできごと。

 お墓の前で兄はたくさん泣いた。私も顔が崩れるほど、泣いた。

 その日の兄は激しかった。

 なくなったものを埋めるかのように私を求めた。

 それが妙に嬉しかった。

 元気になってくれたんだと、強く意識することができた。

 

 そうして、私が高校生になると、兄は中学に通い始めることができた。

 

 これは両親に褒められるなと、照れながら私はいつもと同じように同じことを繰り返す。

 それが日常というものなのだから。

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兄と私 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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