第6話 文理選択



 体育館裏の件から一か月後。高校一年生の三学期は文理選択の時期らしい。俺は俺の家で伊集院君と相談していた。




 「伊集院君。文系か理系どっちに進むの?」


「御子柴君はどうなの。やっぱ文系?英語と国語の成績えげつないもんね。いいなあ。異世界言語(万能)

英語はおろか古文漢文そして現代文まで。あれだけできれば応仁大学とか早麦大とか。GMARCHとか楽勝で入れるよね。

僕なんて異世界では憑依した冒険者の能力で人間言語しゃべれたから不自由しなかっただけで英語とかしゃべれるようになるスキルも魔法もないし」





 そうなのだ。俺は異世界言語(万能)を用いて英語と国語で無双をかましているのだ。ちなみに如月茜さんも同様で科目別高得点者の張り出しには俺と如月さんが他を圧倒的にぶっちぎってワンツーフィニッシュしているのだ。確かに有名私立大学には英語だけで入れる学科もあるから楽勝だろう。そうでなくても英語ができるアドバンテージは計り知れないのだ。




 

「そうだね。文系の方が楽だと思うし良いんだけど、女子が多いじゃない?俺たち一部の女子(女バス)に睨まれているから居心地悪いような気がして。それに文系クラスの明るいオシャレな雰囲気は俺たちのカラーには合わないような。だから理系にしようかな」


「そうだよね。僕も文系クラスは眩しすぎて合わないと思ったんだ。女子の少ない理系クラスに行って三軍ながらも楽しくやっていこうよ。ところで如月さんって文理選択どうするのかな。下手に一緒のクラスになったらまた体育館裏に呼び出されるかも」


「それもそうだね。久しぶりにSNSで聞いてみようか。というか初SNSだね。『いや~何なのウザい~』とか言われてあちこちに晒されたり女バスの恐ろしいお姉さま方にチクられたりするのも怖いけど一回聞いてみるくらいはいいかもね。ヨシ。

『お久です。文系理系の選択ってどうするつもりですか。俺たちは理系にするつもりです。よかったら教えてね?』っと。送信ポチリ」




「ぶるるるー!!ぶるるるー!!」音声着信だ!びっくりした!



「はいはい。御子柴です」


『御子柴君!アンタたち!なんでアタシをシカトしたり避けたりするのよ! アタシを守ってくれないつもりなの?いつ吸血鬼とか宇宙人が攻めてくるかわかんないのに怖いでしょー?ちょっと今どこにいるのよ。ええ、御子柴君の家?どこよ!K駅から徒歩20分?近いわね。位置情報をすぐに送って。今から行くから!』




「だそうだよ伊集院君。大丈夫かい?」




 コワイお姉さま方に接近禁止令を出されている伊集院君は顔色が真っ白だ。



「大丈夫だよ。接近してはいけないけど如月さんから近づくのはOKだから」


「確かに。さすが勇者の御子柴君だね。頼りになるよ」


「だからその系統の話題出さないようにね。如月さんの心の傷に気をつけないと」









「ピンポーン」如月茜さんが来たようだ。あ。お母さんが出ちゃった。




「平次くん。如月茜さんって言うものすごーく綺麗なお嬢さんが貴方と平助君の友達で家に遊びに来たって言ってるけど。ホント?」


「はい。本当です。同級生の如月茜さんです。あ。茜さん。どうぞどうぞ。2階なので遠慮なくずずーとどうぞ」


「はーい。すみません。お母様。お邪魔いたしますね。どうぞお構いなく。では失礼します」







「御子柴君。名前呼びって。なんか変に思われるでしょー?」


「へへ。こんな機会滅多にないかなとおもって。同級生の女子を自宅にお迎え。いや。こんな日が来るとは。如月さんありがとうございます」


「き、き、如月さん。お久しぶり。おお元気でしたっか?」


「伊集院君あなた。なにキョドリまくってるのよ。なんかアタシしたっけ?というか。さっきも言ったけど何でシカトしたり避けたりするのよ。傷つくじゃない」


「はあ。一応口止めされているんですけど。ご本人からのご要望ということなら我々も言い訳できるというものです」


「御子柴君。あの人たちにそんな言い訳は通じないと思うよ?」


「むう。それもそうか。じゃどうしたもんかな。うー」


「ごちゃごちゃ言ってないで理由を言いなさいって。怒らないし。で。なんなの?誰かになんか言われたりしたの?」


「そのとおりです。一か月前にカラオケ屋さんに行った翌日。我ら二人は体育館の裏に呼び出されて20人に囲まれて。如月茜さんへの接近。会話。一切の接触を禁じられたのです。

特に如月さんの心を若干抉った覚えのある伊集院君は大層委縮しまして。この一か月というもの如月さんを避けるようなことと相成りました。申し訳ございません。

我々としても如月さんには体育館裏のことはしゃべるべからずと口止めもされておりましたので報告が躊躇われました。ごめんね」



 如月さんは大きく息を吸い込むと。ほっぺを膨らませて顔を赤くしてから大きく息を吐いた。可愛い。ご飯が2杯くらい行けそうです。ありがとうございます。記憶に焼き付けておくとしましょう。



「分かった。誰がーって。女バスの子たちね。ごめんね。嫌な思いさせちゃって。明日みんなに言って誤解を解いておくからね。だから元のように接してください。お願いします」


「俺たちもごめんね。如月さんに言うべきだったんだろうけど、あの人たちの剣幕からして誤解を解けるのか不安だったんだ。でも如月さんが取りなしてくれるなら俺たちも改めます。伊集院君も良かったね。これで如月さんとも普通にお喋りできるよ」


「伊集院君もお願いね」



 如月さんは実に優し気に微笑んだ。こんなの惚れてしまうでしょー!





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る