第4話 カラオケ


 如月茜さんと伊集院君と俺の三人でカラオケ屋さんに向かう。高校の最寄り駅の近辺には2~3店舗あるので店選びには困らない。





「二人とも行きたい店とかある?なければアタシの行きつけの店行くよ。いいよね」


 伊集院君は如月茜さんに鷹揚にうなずく。しかし伊集院君のコミュニケーション能力は侮れないね。


 やはり一年間の異世界における俺Tueee生活が彼をワンランク上のコミュニケーション上級者へとレベルアップさせたのだろうか。如月さんが受付を済ませて部屋に入る。






「さて。二人とも。ちゃんと説明してくれる?」


「もちろんだよ。如月茜さん。あなたが異世界において『女盗賊』であり。得意技が『死んだふり』であったことも知っているこの御子柴君が説明しますよ」


「いい? 最初に言っとくけど。アタシが異世界で女盗賊だったとか! 死んだふりが得意技だとか! 二度と人前で言ったら許さないからね!」





 如月茜さんはもの凄い剣幕でブチ切れだした。おおお。美少女はブチ切れても美少女であったのか。





「分かったの? 伊集院君。御子柴君!」


「はい。分かりました。二度と言いません。この伊集院もしっかりと理解したと思います。すみませんでした」


「分かれば良いけどね。それで伊集院君のステータスって見覚えないっていうか。初めて見るタイプね。

御子柴君はもしかして第2王子だった? ぷぷぷ。『聖女は俺が守るから安心してくれ』とか。カッコよかったなあ。いよっ勇者様!」


「あうう。申し訳ない。如月さん。勇者っていうのも勘弁してもらえないでしょうか。この地球。日本においてはあまり相応しくないっていうか」




「いいでしょう。アタシも鬼じゃないからね。で。伊集院君は何だったの? 魔王ってあるけど私と御子柴君が討伐した魔王じゃないよね。そんなヘンテコなステータスじゃなかったと思うし」


「そうなんだよ。僕だけ違うタイプの異世界だったらしいんだ。

称号に『魔王』ってあるけど僕は普通の冒険者として圧倒的なチートステータスと『魔物調教』っていうチート魔法を持ってただけで。

魔物調教を使って魔物を片っ端から調教して支配下に置いてダンジョンを踏破してダンジョンマスターになっただけの善良な冒険者だったのに。

領主に暗殺されて死んでしまった瞬間に謎の女に地球に戻されたんだ。領主はダンジョンマスターのダンジョン管理権が目当てだったんだと思う」




 伊集院君は悔しそうに唇を噛みながら語ってくれた。




「うん。そうなんだね。私と御子柴君が討伐した奴じゃなくて良かったよ。

ところで二人とも。私に声をかけるの掛けにくかったでしょ? 声をかけてくれてありがとうね。

私、昨日の始業式の時に突然異世界に放り込まれて1年間も不潔で危険な最悪の異世界でびくびくしながら生きてたのよ。

なぜかアタシが憑依していた女盗賊のステータスがバレていて勇者パーティーにぶち込まれてしまったけど。ホント嫌だった。日本に戻れてほっとしたんだけどね。

あの白い世界の女?

地球にも人類の敵がいるからそいつ等から地球を守れって言われて怖かったんだよ。一応あなた達が仲間って思っていいんでしょう?よろしくね」




 如月茜さんは心の底から安心したように。そして親しげに美少女スマイルを発動してくれた。第2王子に憑依している時とは違う! この俺自身が美少女に感謝されて頼りにされている! これは異世界と違って大変に良いものだ。ありがとうございます。



「こちらこそ。俺と伊集院君も困ってたんだ。この三人で協力しながら切り抜けていこうよ。俺は異世界にいたころとほぼ戦闘力は変わっていないしアイテムボックスにもアイテムは全部残っているし。

伊集院君は地球に戻ってからは魔法が自分から半径20mの範囲でしか使えなくなっちゃったんだって。だから攻撃魔法の射程が20mに短縮してしまって大幅に弱体化したって言ってるけど。

でも話を聞くと伊集院君の攻撃魔法の威力は俺の魔法に比べても数段上の強さだから十分に強いと思うよ。

如月さんのユニークスキルも使いどころで凄く役に立って強力だし。うまく協力できると思うよ」





 俺たちはカラオケ屋さんを出て最寄駅の反対側の海岸にある公園に行くことにした。スキルや魔法の使用感を確認するためである。


 この公園は南北100m、東西200mくらいの広場が海岸に接する様に四方を海に囲まれた公園だ。芝生広場も広い。今の季節は日没が早いのですぐに暗くなるし寒い。そして公園は24時間営業。平日はそんなに人もいないから人目も少なくて好都合なのだ。






 いろいろと試した結果。伊集院君の攻撃魔法はホントにシャレにならない強さだった。特に火弾と闇弾。人類の持つ攻撃手段としては破格もいいところ。これで本来なら射程が軽く500mあるっていうからどんな恐ろしい世界だったんだか。




 伊集院君が言うには彼のレベルで攻撃魔法が使える人間はほとんどいなかったから無双出来たんだとか。彼が我々の異世界の魔王じゃなくて良かった。俺と如月さんは顔を見合わせて心底安堵した。




 伊集院君はそのほかにも暗視、隠密、遠視、反応速度、飛行、そして各種耐性と身体強化。戦闘に使える魔法や身体強化を多数持っていて。俺や如月さんに比べて恐らく頭2つ3つ抜けて強いという気がした。ホント良かった。敵じゃなくて。




「でも僕の魔法のうち最強の魔物調教が地球では使えないんだよ。魔物が居ないから」


「そうは言ってもね。アタシなんかほとんど攻撃力無いから。アイテムボックスに入ってる短剣使って隙を見て刺すか。アイテムボックスに入っている投擲用のタガーを投げるか。変なイマイチ威力無くて扱いずらい鞭をふるうか。全然勝てる気しないし。

隠密と加速と気配察知あるから逃げ足は早いけど伊集院君の身体強化の方が多分かなり強いよね。頼りにしているよ魔王様と勇者様」




 如月さんは爽やかに微笑みながら俺たちに依存してくれた。素晴らしい。美少女に心の底から頼りにされるってこんなに気持ちのよいものだったのか。


 あの異世界において清純そうに見えた聖女。今から考えれば第2王子というスペックしか見ていない邪な欲に塗れた薄っぺらな女だったように思える。まあいい。今や俺は地球に戻っていて如月茜さんに依存される立場なのだから。





 俺たちは三人とも充実した有意義な一日を過ごしたねと心の底から満足して帰宅したのだった。



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