第26話 わたしをもらって


「きょうはね、どうしても、センセーに、すきな気持ちをつたえたかったの」


 イリアの声が、上ずる。唾液たっぷりの口の中が、のどにひっかかったようだ。


 嗚咽ににた声が何回か漏れる。その最中、イリアはその手を、俺の顔に触れさせた。


 ぷにぷに、とした柔らかさが、顔に触れる。


「わたし、センセーのこと、さいしょは好きじゃなかったの……」


「知っているよ。伝わってた」


「なまいきな子で、ごめんなさい……でもでも、いまは、ね……」


 イリアは、切なそうな瞳を、泣きだしそうに潤ませながら、俺の目の前に顔を寄せる。


 人形のように整った顔が、白くぼんやりと暗闇に浮かぶ。


 美しすぎる。少女特有のクリーミーな香りとまって、イリアのふんわりとした青々しいフェロモンが俺の鼻腔に届く。


「ちゅ……」


 気付いたら、イリアの小ぶりな唇が、俺の唇に重なっていた。

 薄い胸、膨らみのないまな板のような胸部が、短い呼吸と合わせて上下している。


 信じられなかった。

 俺のことを嫌っていて、避けていた少女が、キスをしてくれるだなんて。


「センセー、わたしのことを、もらって」


「そ、それは……」


「わたし、センセーのこと、とっても好き。がまん、できないのぉ」


「い、イリア、まずいんだよ、それは」


「センセ、と、アニメみたいな恋、したい。アニメの子みたいにかわいくなって、センセに、わたしのこと、好きになってもらいたいの」


「それは錯覚だよ、イリア。君には俺なんかよりも、もっと似合う男と出会える。俺なんかに傾いちゃ、だめだ」


「やだやだ、わたし、センセじゃなきゃ、いや」


 頭をしきりに横にふり、イリアは俺をひたすらに求める。


「センセ。わたしのこと、かわいいっていってくれた……あれ、うそなの?」


「うそじゃないよ。イリアはかわいい」


「よかった。わたし、センセーをあいしてる」


「イ、イリア。まずいって」


「わたしを、彼女にして」


 肌着がずり上がっていき、露になっていく。

 下腹部の白い肌が全部見えて、へこんだ下腹部、そしておへそが見える。


 すぼまったおへそは小さい。おへそ、そしてウエストにかけてのラインは、ほっそりとしている。乱暴につかむと折れてしまいそうだ。


 まだまだこれから成長の余地がたっぷりの、未熟さがにじみ出ている美少女だ。


「ね、おねがい。わたしのいちばんのねがいごと、きいて?」


 そぅっと、イリアの手が俺の背中に回り、背筋をなぞる。

 細長い指先が、俺の背中に食い込む。

 ふっくらとした唇が、顎を伝い、喉へと降りる。


「イリアのおねがい、聞いて。センセーが好き、大好き」


「お、俺は」


「センセーの彼女になるの。これ、ぜったいなの」


 イリアは俺の喉に吸い付く。まるでそれは、男の性を吸い取ろうとするサキュバスのようだ。


 胸は薄く、腰回りの肉付きも二人の姉に比べればまだまだだ。言ってみれば幼女そのもののイリアは、それでもなお、自分の知識をフルに活用して、俺に迫っている。


 俺は、十歳以上も年下の少女に、翻弄されていた。


 声よりも、唇が震えるような音、響きの方が強くなっている。俺は喉を晒し、甘い少女の愉悦にしばし酔いしれていた。


 イリアは顔にかかる髪をかきあげつつ、俺の顔を上目遣いに見上げる。


「く、あ」


 小悪魔めいた表情に、目が移ろう。うろうろと視線が変わり、居心地の悪さと気持ちよさの入り混じった中、イリアは、性の喜びを熟知しているかのような技巧で俺を追い込もうとしていた。


「わたし、センセに、はじめてをあげたいの」



◇◇◇



「あぁ、ん……くぅん……くうぅ、ん、ン……」


 イリアは、口元に指をあて、艶めいた喘ぎをこぼす。


「わたし、おとなになったら、センセのおよめさんになる」


 イリアは、俺の肩に腕を回し、すべすべの肌を俺に密着させる。

 うつろに開く唇から、よだれの筋が流れ落ちている。


 俺は指でそれを掬い取る。

 すると、イリアは、くすくすと笑った。


「しっかりつかまえててね、センセー。だいすきだよ」


 俺の胸に顔を埋めながら、イリアがいじらしく微笑む。俺はその小さな体を抱き寄せながら、この子を守り抜かなければいけないと、強い思いを抱いていた。

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