12 ……愛は私のことを、ちゃんと救ってくれますか?

 雪の降る街の中で道の横に倒れている人がいる。

 その人に手を差し伸べる人は誰もいない。

 私はその人の隣で立ち止まり、ふとその人の顔を見る。

 するとその人は私とそっくりの顔をしていた。

 道端に倒れている人は私だった。

 そこにはもう一人の私がいた。

 偽物の私。

 ……ううん。あるいはそこに倒れている人が本物の私が、私が偽物なのかもしれない。

 私は思う。

 私は偽物であり、きっとこの倒れている本物の私が見ている夢に過ぎないのかもしれないと思う。

 私はいつの間にか幽霊になっていたのだ。

 その証拠に、私のことを見てくれる人は世界のどこにも、いなかった。

 

 ……愛は私のことを、ちゃんと救ってくれますか?


 幽霊 ホロウ 二人目 三日月よぞら(頭の悪い子)


「僕は本当に頭が悪いんだ」とよぞらは言った。

 僕は頭が悪い。

 それはよぞらの口癖のようなものだった。

「そんなことないよ。だって、よぞらくん。僕たち『三人』の中で一番成績がいいじゃないか。そんなよぞらくんが頭が悪いなんてそんなこと絶対ないよ」かげろうは言った。

「……うん。でも、そうかな?」

 もじもじしてよぞらは言う。

 よぞらはとても頭がいいのだけど、なんていうか、すごく自分に自信を持っていない子供だった。

 かげろうからみれば、よぞらの頭はとてもよくて、いろんなアイデアや技術を持っていて、もっと堂々としていればいいのに、と思うのだけど、当の本人であるよぞらは本当に自分は頭が悪い子なのだと、そう思い込んでいるようだった。

 少しでもテストの点数が下がると(それでもかげろうよりはずっといい成績だったのだけど)よぞらは世界が終わったような顔をしてテスト用紙を見つめていた。

 今も、よぞらの体は小さくぷるぷると震えている。

 きっと、ひまわり先生のお仕置きに怯えているのだろうと、かげろうは思った。

「テストの結果、よくなかったの?」

 かげろうの言葉に、「……うん」と小さくうなずいてよぞらは答えた。

「そっか」

 かげろうは言った。

 それからかげろうはよぞらと話して、僕もたぶんお仕置きを受けるから一緒にお仕置きを受けてなんとか二人で頑張って、ひまわり先生の(とても厳しい)お仕置きを乗り切ろう、と話をした。

 するとようやくよぞらは少し笑顔になった。

 それから二人は朝の授業を受けるために、かげろうの部屋を出て、幽霊の学校にある自分たちの教室に向かった。

 かげろうはよぞらと一緒に寄宿舎の廊下(幽霊の学校と同じ建物の中にある)を歩きながら、自分のコートのポケットの中の隠したねじを手で触って、その存在を確認していた。

 そして今朝の出来事を思い出していた。

 ……朝、目を覚ますと枕元に一つの青白く光る小さなねじが落ちていた。

(さっき、ちらっと確認してみたら、そのねじは今は青白い輝きを失って、ただの銀色に輝くねじに変わっていた)

 始め、寝起きのぼんやりとする頭でそれを認識したとき、かげろうにはそれがいったいなんのためのねじなのか理解することができなかった。

 枕元にはねじが一つ、転がっている。見たことのない青白く光る小さなねじだ。しかし、かげろうはそのあとすぐにそのねじが自分の頭の中にあったはずのねじだということを直感した。

 このねじは僕の頭の中にあって、寝ている間になにかしらの理由で僕の頭の中から外れて外に転がりだしてしまったのだ。

 そのねじを触りながら、本当に頭が悪いのは、頭のねじが外れてしまったこの僕に違いない、とかげろうはそんなことを思ったりした。

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