ラビアンローズ

裏道悪路

1-1

 只今世間を賑わせているのは、ギャラティカルセブンが南米の麻薬シンジケートを壊滅させたというニュースである。


 米国や係るいくつもの国際機関が手をこまねいていた悪の伏魔殿を、たった七人のエージェントが襲撃し、電撃的に、徹底的に、執拗に叩いて潰して一夜のうちに消し去ったというのだ。


 異星人の脅威から地球を守るために結成され、幸いにしてその圧倒的軍事力を発揮する機会に恵まれなかったギャラティカルセブンであったが、専門外でその威力を評価されることとなった。


 その日まで名前すら、その存在すら人々に知られることのなかったかの組織は、この度の活躍によって、畏怖と尊敬と喝采の中で、世界中からヒーローと称えられた。


 テレビや新聞ではギャラティカルセブンの特集が組まれ、SNSではかの組織のあることないことが、尾ひれやら背びれやらが付いて縦横無尽に泳ぎ回っていた。


 目ざとい企業は彼らの関連書籍やグッズを販売し、これがまた飛ぶように売れて大変な経済効果を生み出した。


 ギャラティカルセブンの英雄譚は、世界中を巻き込んだ一大ムーブメントとなった。


 だが、そんな熱狂も、一戸マシロの日常においては、知らぬ存ぜぬといった風である。


 彼女は新聞を購読していないし、彼女が住む1Kのアパートにはテレビやラジオも無い。外界の情報を得る手段はスマートフォンのみであるが、彼女のSNSは取るに足らないサブカルチャーや猥雑なアングラや眉唾物のゴシップばかりが流れてくるため、世の健全で快活な情報は一切遮断されている。


 ギャラティカルセブンの話題も目に付くが、彼女は努めてそれらを見ないようにした。彼女は美談が嫌いであった。


 さらに、彼女はこんなニュースで世間は持ちきりだとか、巷ではこんな物が流行っているという情報を交換するコミュニティを有していない。それどころか、コンビニエンスストアで買い物する際に、


「袋をお付けしますか?」


 と問われて、


「……っすぅ」


 と言って店員を困らせる程度のコミュニケーション能力しか有していない。彼女は情報を共有したりされたりする能力が著しく欠如していた。


 しかし当人はその事を決して問題視してはいない。マシロは自分の事を孤高で高潔であると信じてやまず、世俗に染まることを良しとせず、世俗に染まる群衆を愚かだと履き捨てている。


 ギャラティカルセブンなどというコミックから飛び出してきたような華やかでヒロイックな存在は、眩しくて鬱陶しくて、彼女の静謐なる人生においてはただのノイズに過ぎないのである。


 一戸マシロは今日も自室に引きこもり、世間の喧騒に耳をふさいで、精神宇宙に身を投じて誰に見せるでもないのに孤高で高潔な自尊心を磨くだけの虚しい日々を送っていた。

 賢明な読者諸氏の中には、すでに気づいた方もいらっしゃるでしょう。



 何を隠そう、本作の主人公はこの一戸マシロなのである。

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