100%外れる占い
料理屋のテントを離れた三人。
そのあとも占いを何回か試してみた。
コインの裏表、次に目の前に通るのは男か女どちらか、フェアトに恋人がいたことがあるかどうか。
結果、全部外れである。
「へぇ~……先生って恋人が……ふぅ~ん……」
「さて、さすがにこれは妙ですね」
フェアトは意味深に見つめてくるメラニをスルーして、自らの細いアゴに手をやって考え出した。
不安になってきたパイが質問をする。
「あ、あの、でも、お師匠様……占いなんて基本的に外れるものなのでは……」
「そうではないです。今日、パイ君に頼んだのはすべて二択ですから。当てずっぽうだとしても、いくつかは当たる方が自然と考えられます」
「た、たしかに……」
最初の料理は口に〝合う〟か〝合わない〟かの二択。
続いて、コインの裏表、歩いてくるのが男女どちらか、フェアトに恋人がいたことがあるかどうか――これらもすべて二分の一だ。
それらを連続で外すとなると6.25%となる。
これだけ見ると運が悪ければありえるかもしれないが、パイの今までの占いも外れているという情報も加味すると何かがおかしいのだ。
「パイ君の過去の実績でおかしいとは思っていたのですが、実際に自分の目で確かめた方が早いと思って試してみました。これは逆にすごいですね。占いの外れとは反対の方を行動すれば
「あ、あはは……でも現実は選択肢が沢山あることを占わないといけないし、逆に反対の方を意識的に行動して良い思いをしようとすると悪いことになるんです……」
「ふむ、なるほど……なるほど。それは面白い。調べがいがありそうですね。では、さっそく星見の秘伝書を読みに――もとい、パイ君のお兄さんのところへご挨拶に行きましょうか!」
メラニは『秘伝書を読みに行くのがメインの目的かよ……』とツッコミを入れそうになったが我慢しておいた。
奥に進むと大きなテントがいくつも並ぶ場所があった。
外からやって来た人間が訪れる場所とは違い、何か厳かな雰囲気を感じる。
「お師匠様、ここが星見たちのテントです」
「何か魔素の濃度が高い気がしますね。地脈などの理由もあって、ここにテントを張っているのでしょうか」
「ど、どうなんでしょうかね……。とりあえず、この先にある兄のテントへ――あっ」
パイが先に進もうとしたところ、見知らぬ男に道を塞がれた。
男の服装は民族衣装ではないので、星見の里の外の人間なのだろう。
「ぐふふ、猫ちゃ~ん。こんなところに何の用? 星見を諦め、お兄ちゃんに泣きついて家出終了だどぉ~?」
「ひっ、あの……!? ガラクさん……そこを通していただけませんか……?」
「ぐっひっひ、どうしよっかな~。オラの雇い主である〝期待の最優秀星見〟を、一週間後の試練まで守らなきゃいけないし。怪しい奴らを通すのはなぁ~」
ガラクと呼ばれた男は非常に大柄で、腰に曲刀を二本帯びている。
そのために威圧感はかなりのものだ。
厚ぼったい唇から出る低い声も相まって、パイは猫耳をペタンとしながら縮こまってしまっている。
「パイちゃんがオラの恋人になってくれたら考えなくもないでぇ~」
「ひぃっ」
ガラクが手を伸ばそうとしたところで、様子を見ていたフェアトが止めに入った。
「お、お師匠様!!」
「パイ君、この方は?」
「も、もう一人の星見見習いの方の護衛でガラクさんと言います。なんでも、王都の地下闘技場で相手の手足を握り潰し、骨折させてガラクタにするから、骨折りのガラクと呼ばれているとか……」
「なるほど」
ガラクは小山のような筋肉をしていて、腕も丸太のように太い。
たしかにアレに掴まれたら骨くらい簡単に折れるだろう。
「失礼、ガラクさん。私の生徒に手を出さないで頂きたい。もちろん、合意の上なら止めませんが、明らかにパイ君が嫌がっているように見えますね?」
怯えきっていたパイは、フェアトの背後にピョイッと隠れてしまった。
それを見たガラクはこめかみに青筋を浮かべて怒りを露わにする。
「生徒だぁ~!? つーことは、テメェはパイちゃんの先生ってことか!」
「はい、その通りです」
ガラクはなめ回すように見てくる。
「極太のオラと違って、そんな細っこい身体で何が出来る! すぐに握り潰せそうだどぉ!」
「そうですね……弓を少々……」
「弓ぃ!? ダッハハハハ! 弓なんて野生動物の狩猟くらいにしか役に立たないゴミだどぉ! 先生って言われてるけど大したことないな!」
大笑いするガラクに対して、フェアトは何も言わずにいつもの笑みを浮かべたままだった。
「ヒーッヒヒヒ、心底笑わせてもらった礼だ。今日は見逃してやるぞぉ! いや~、腰抜け弓使いが先生とは、パイちゃんの将来も安泰だどぉ!」
ガラクは嫌味を言って、機嫌が良さそうに立ち去っていった。
今まで黙っていたメラニが口を開く。
「先生、なんで戦わないんだぜ!? あんなにバカにされたのに!! 星弓を使えばあんな奴なんて――」
「メラニ君、僕という存在は生徒を高めるためだけにあり、自分自身を大きく見せるために何かをするというのに意味を見いだせないんですよ。それこそ何一つね」
「で、でも……先生がバカにされたら私様は悔しいぜ……」
「アハハ、ありがとうございます。私のために怒ってくれたんですね。本当に優しい子です」
「そっ、そんなんじゃねぇよ、バーカ!」
フェアトは、メラニの頭を優しく撫でてから先に進んだ。
その途中、パイは『ごめんなさい、ごめんなさい』と謝ってばかりだった。
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