二人目の生徒

「もうお二人は気付いていて、敢えて気を遣って黙っているのだとはわかっていますが……」


 馬ヘッドバッドから立ち直ったパイは、数分後にシリアスさを取り戻していた。

 かなりタフなのかもしれない。


「あ、あたしは獣人の血が混じっているんです……! そのせいか次期首長の兄からも冷たくされていて……。お二人も、この獣人の耳と尻尾は変だって思いますよね……」


 星見の里では誰一人として獣人はいなかったし、人の多い王都ですら見かけることは極端に少ない。

 彼女のフードで隠されていた猫っぽい耳と、お尻の辺りから見えている尻尾。

 それを一瞥してから、フェアトとメラニは言った。


「「いや、全然」」

「えっ、そんな……ここまで来てまだ気を遣わなくても……」

「横にいる僕の生徒の方がインパクトありますから」

「私様、獣耳どころか馬そのものだしな!」


 人間、異常すぎるモノに慣れてしまえば、ちょっと珍しいことなど普通に思えてしまう。

 激辛料理を食べた後に、ピリ辛料理を食べても何も感じないのと一緒だ。


「それにこの地域では獣人が珍しいだけで、南の方だと普通に獣人の街がありますからね。そちらには実際に行って見聞を広めさせて頂いたので、飽き……もとい、気になりません」

「い、今飽きたって言いませんでしたか!?」

「気のせいです、ハハハ」

「あ、あたしがメチャクチャ悩んでいた獣人の血を、飽きたの一言……うぅぅ……」


 パイはプルプルと震えながら、俯いてしまった。

 薄暗いというのもあって、その表情は見えない。


「お、おい先生……たぶんデリケートな部分だったんだぜ……謝った方が……」

「えっ!? 世界的に見ればそんなに珍しくもない獣人の血で悩んでいたというのですか? いやぁ、僕にはまったくわかりませんでした。メラニ君の洞察力はすごいですねぇ」

「こ、コイツ……素で言ってそうだから救えねぇ……」


 そのフェアトのあっけらかんとした言葉にパイは顔をバッと上げた。

 ついにキレてしまったかとハラハラしたのだが――


「…………す、素晴らしいです! その俯瞰的なモノの見方! さすが神獣ユニコーン様の先生!」

「ハハハ、褒められると恥ずかしいですね」


 予想外の展開に、メラニは『えぇ~……』となってしまっている。

 しかし、よくよく考えれば頭がおかしい人間同士で何か通じ合うモノがあったんだろうなーと納得した。


「なので、あたしの先生になってください! フェアト様!」

「うーん、あなたの先生に……ですか……」


 フェアトとしては教えを請う者を拒むわけではないが、今はメラニの呪いを解くための旅の途中である。

 星見の里で立ち止まってしまうのは結構なロスだ。

 もしくは旅に同行することになったとしたらメラニの秘密や、〝英雄の教室〟、〝ケイローンの加護〟の事も明かさなくてはならない。

 そこを天秤にかけると、やはり生徒を受け入れるのは難しい。


「申し訳ないですが、ここは心を鬼にしてお断りし――」

「先生になってくれたら、スターゲイジー家が秘匿している星見の本を読むことができますよ!! ……たぶん」

「パイ君、今日から僕はあなたの先生です」


 掌を返す音がギュルンと聞こえた。

 ツッコミ疲れたメラニは馬特有のつぶらな瞳で諦めた。


「先生は知識欲の化身だものな~……。何か私様のときもこんな動機だったのかと思うと、やっぱつれぇわ~……」

「ハハハ、知識欲は何物にも勝りますからね。ああ、でも……僕は星見の知識がないので、それを教えるというのは難しいですよ?」


 つい星見の本が読めるというのに釣られてしまったが、冷静に考えるとどうやってパイの教師として振る舞えばいいのかがわからない。


「大丈夫です! 先生……いえ、この場合はお師匠様と呼んだ方がいいですね! お師匠様が星見の本を読んで、それをわかりやすく教えてくれればいいんです! これで落ちこぼれ星見脱出! やったー! カースト最底辺も脱出だー!」


 大丈夫だろうか……? とフェアトとメラニは真顔になる。

 主に心配しているのは頭の方でもある。

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