ダイアウルフにリベンジ

 外の森――二つの足音が聞こえた。

 一つは鋭く走る獣の音。

 もう一つは速すぎて小太鼓のような音を響かせる神速の音だ。


「いきますよ! 練習の成果――神速射術!」


 一方的に距離を離しつつ、動きながら正確に獣――ダイヤウルフの急所を三箇所同時に撃ち抜いた。

 ダイヤウルフは驚異的な生命力でしばらくはヨロヨロとしていたが、それでも倒れて命を失った。


「メラニ君、こちらへお願いします」

「は~い……うわぁ、すごい綺麗に仕留めてるなぁ……」


〝英雄の教室〟の扉を開いて、ダイアウルフの死骸を中に運び入れるためにメラニを呼んだ。

 メラニは気味の悪そうなリアクションをしている。


「ああ、すみません。死骸はあまり見慣れていませんでしたか」

「い、いや……それもあるけど、あまりに手際よく倒しすぎてる先生に引くというか……」


 普通、モンスターと戦う冒険者のようなものをイメージするとき、彼らの表情は勇ましかったり、集中していたり、慌てたりしているものだろう。

 しかし、フェアトは授業をするかのように、平時の表情でダイアウルフを撃ち抜いたのだ。

 戦闘の素人であるメラニでも、何か違和感を覚えてしまう。

 それはまるで生きて行動するすべてを授業に当てはめているような。


「さてと、肉が傷まないうちに加工を頼みましょうか。ニュム君はあそこを管理しているだけあって、非常に手際が良い」


 メラニが〝英雄の教室〟空間への扉を開き、フェアトがその中にダイアウルフの死骸を移動させた。

 あとは事前に頼んでおいたので、ニュムが加工して肉や毛皮といった素材に分けておいてくれるだろう。


「ああ、そうそう。モンスターなので魔石もあるかもしれませんね」

「魔石?」

「モンスターの第二の心臓のような物で、比較的高く取り引きされています。路銀の足しになりそうですね」

「へ~、そうなんだ」

「あとで詳しく授業をしますね。魔石というのはその歴史や、現在の取り引きされる理由、種類など面白いんですよ――……おっと、この話は迫ってきている〝群れ〟を全滅させてからですね」


 森の中で修行をしたせいか、フェアトは囲まれている気配にいち早く気付いていた。

 ようやく生命の危機だとわかったメラニは震え上がる。


「せ、先生……これはヤバいんじゃ!?」

「大丈夫です。メラニ君は〝英雄の教室〟に避難しておいてください」

「わ、私様だけ!?」

「十分……いえ、五分で充分ですね。そのくらいで出てきていいですよ」


 あまりにも確信を持って言うので、これ以上粘っても足手まといだとわかったメラニは素直に避難をした。


「うん、良い生徒です。さて――では、こちらも先生のお仕事をしましょう!」


 周囲に意識を集中させる。

 囲まれているので速さだけでは抜け出すのは難しそうだ。

 そして今まさに、数匹が同時に襲ってこようとしている。

 フェアトは星弓に番える矢を選択――


「蜘蛛射術!」


 斜め上の木に魔力ワイヤー付きの矢を撃ち込み、それを引き寄せて身体を浮かせる。

 間一髪、フェアトがいた場所に牙が突き立てられていた。


「そして、矢を切り替えて――」


 樹上で有利な場所を確保したフェアトは、ダイアウルフたちの位置を把握した。

 手に出現させたのは細めの魔力矢だ。

 これは一本しか同時に出現させられない魔力ワイヤー付きの矢と違って、複数を出すことができる。

 まさに連射のための矢だ。


「神速射撃!」


 その神速は脚だけではない。

 矢をつがえ、構えながら狙い、放つという動作すら神速になっているのだ。

 今回は走らなくて良い分、精度が上昇している。

 ダイアウルフは断末魔の叫びをあげながら、的確に処理されていく。

 逃げる個体は、匂いを覚えられていて面倒なので優先的に排除する。

 そうして群れ――十四匹を五分以内に全滅させたのであった。


「先生、すげぇぜ……」


 空間の裂け目から首を出したメラニは、唖然としていた。

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