幕間 貴族令嬢、その後
「お、おかしいですわ……。わたくしの成績が上がらない……それどころか下がっていく……」
赤毛の天才令嬢スカーレット。
家庭教師だったフェアトをクビにした、15歳のお嬢様だ。
今は王都の一等地にある屋敷の自室で授業を受けている最中である。
彼女は綺麗にセットされていた髪をグシャグシャに掻き回し、赤い高級ドレスの袖を噛んでいた。
「あのドジで、グズで、ノロマで、マヌケなセンセー以下の家庭教師しかいないなんて、信じられないわ……」
「い、いえ。私は魔法学園の首席を育て上げたこともあって――」
スカーレットは新顔の家庭教師に対して、ガラス製のペンを投げつけた。
小さな家なら一軒買えるそれは壁に当たって砕け、破片とインクをまき散らす。
「お黙りなさい!! 現にわたくしの成績が急激に落ちているじゃない!!」
「ひぃっ!? な、なんて乱暴なんだ!? オマケに話も聞かない! こんなの、いくら金を積まれてもこっちから願い下げだ!」
新顔の家庭教師は怒り心頭で出て行ってしまった。
むしろ、一日耐えただけで他の教師と比べて長いとも言える。
「やれやれ、また家庭教師を使い潰してしまいましたか。スカーレット」
「ウィル様……」
入れ違いで部屋に入ってきた、長く美しい金髪のスラリとした男――ウィル・コンスタギオン。
王国に名を連ねる大貴族の嫡男で医療研究に従事している。
スカーレットとは、親が決めた婚約者同士でもある。
「そ、そういえばウィル様……。センセー、じゃなくて、フェアトの奴はそろそろ音を上げて戻ってこないの?」
「戻る? あなたに無礼を働いたからクビにしたんでしょう」
スカーレットは、フェアトにされた無礼を思い出した。
それはスカーレットが告白しようとしたときのことだ。
一世一代の覚悟で想いを告げたのだが、事もあろうに本を読んでいて聞いていなかったというのだ。
そこでスカーレットは怒り狂い、フェアトをクビにした。
どうせ行く当てもなく、すぐにわたくしの元に戻ってくるはず、わたくしの大事さがわかるはず――と。
もちろん、婚約者のウィルにはそんなことを言えるはずもなく、ただの〝無礼〟として言葉を濁してあるが。
「アレはスカーレットに無礼を働いたのですから、モンスターのエサにしましたよ」
「……えっ? 嘘……でしょ……?」
「そんなことはもう、どうでもいいじゃないですか。ああ、これから勉強もしなくていいです。魔法学園の入試に合格できたという箔が付いたのですから」
「べ、勉強は大事だわ……。生きてる限り知識欲を満たせって、お父様も……」
「いいえ、必要ありません。全部、このウィルにお任せください。アナタも、アナタの家のことも……ね」
後日、スカーレットの父親である当主が謎の病気で倒れ、その財産管理をウィルが任せられるようになった。
スカーレットは余計な勉強することを許されず、ウィルに頼るしかない。
没落の始まりである。
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