星弓と超速
(この弓の上達速度、あまりにも異常ですね……)
フェアトは三日間、弓を放ち続けていた。
指の痛みはジクジクと響くが、この痛みがあるからこそ神経が正常だと認識させてくれる。
いくつか〝星弓〟に関して分かったことがある。
まず、魔力の消費だ。
フェアトは魔術を使わないため、魔力に関しては本の知識のみだが、人体の魔素に働きかけて精製されるのが魔力というのは知っている。
その魔力が、〝星弓〟を使うと消費されていく。
弓部分を出現させた瞬間から消費されていき、矢を作るとさらに消費量が上がるイメージだ。
(最初はたしか……二射で疲労を感じましたね)
初日に二射放って、しばらく寝たら魔力は回復した。
次は三射放って疲れて倒れ、四射放って疲れて倒れ……を繰り返して今では十射くらいなら連続で放つことができる。
それと同時に、繰り返すことによって放たれる矢の射程も増大していく。
射手や魔術師関連の本も読んでいるが、この射程と魔力量の上昇速度は異常だ。
特殊な〝星弓〟だからというのもあるかもしれないが、何か別のスキルが絡んでいる気がする。
神馬ケイローンの加護とは、もしかして――
「んー、メラニ君。質問よろしいでしょうか?」
ゴロンと寝転んでこちらを眺めていた仔馬に、フェアトは話しかけた。
仔馬はアクビをしようとしていたのだが、ハッとしてフェアトに向き直る。
「し、質問!? ついに私様に質問か!? だけど、私様も安い私様ではない……! プライベートなことは小出しで答え――」
「ケイローン様の加護は、もしかして複合スキルというやつでしょうか?」
「……なーんだ。先生がもらった加護の質問か……。はいはい、お爺様から先に言われてるよ。聞かれたら教えてやれって。聞かれなかったから教えなかったけどな」
なぜかメラニが不機嫌になってしまったが、フェアトは思い当たる節がない。
理由がわからないものは仕方がないので、話を続ける。
「では、加護の説明をお願いします」
「んーっと、ケイローンの加護は複合スキルで、三つのスキルが集まっている。まずは今使ってるスキル〝星弓〟。これは説明不要だから飛ばす。次にスキル〝超速〟。お爺様が言うには、何か色々と〝はやく〟なるということらしい」
「〝はやく〟ですか」
魔力量や、弓の上達の仕方が〝はやい〟のは、そのせいかもしれない。
〝色々〟と含みのある言い方なので、他にもまだ効果がありそうだ。
「んで、最後の。スキル〝カリスマ教師〟なんだけど~……何か教える力がすごくなるらしいぞ」
「すごくなる?」
「それは見てのお楽しみ、とお爺様がはぐらかしていた」
「なるほど、ケイローン様はお茶目なんですね。質問に答えて頂きありがとうございます」
「お、おう。もっと頼っても……いや、なんでもねぇ」
メラニが何か言いたそうだったが、フェアトは練習を再開した。
しばらく時間が経ち、メラニは昼寝をしてしまった。
今なら見られていない。
そこでフェアトはとあることを試すことにした。
「本当は命綱が欲しいですが、そうもいきませんね」
いつもの真上では無く、斜め上に向かって魔力ワイヤー付きの矢を放つ。
慣れたもので飛距離を伸ばしすぎなければ狙いは正確になってきた。
10メートルくらい上の岩壁に突き刺さり、上手く固定された。
「よし」
魔力ワイヤーを身体の中に引っ込めるイメージをすると、実際にそうなって岩壁の方にたぐり寄せられていく。
蜘蛛のワイヤーアクションに近いだろうか。
これで10メートル上の岩壁に到着。
次に狙える岩壁の斜め上、また10メートル程度上を矢で狙う。
命中、たぐり寄せ。
これを繰り返して、半分くらいまで難なく昇れてしまった。
「意外といけますね、一人なら脱出できそうです。でも――」
フェアトは魔力ワイヤーを伸ばして、再び大穴の底へと下りてしまった。
そこで待っていたのは、目を覚ましていたメラニだ。
「……どうしてそのまま逃げ出さないんだよ」
「ああ、起こしてしまいましたか。すみません。理由としては、メラニさんの重量を抱えていると魔力ワイヤーが上手く引っ張れなくて安定せずに――」
「違う! どうして私様を放っておいてここから逃げないんだよ! 今のだって、先生一人なら楽勝だっただろ! こんな死を願われるような、呪われた仔馬なんてほっといて逃げちま――」
「生徒を見捨てる先生がどこにいますか……!」
珍しく強い言葉で言い切ったフェアト。
顔は岩肌で擦りむき、服は泥で汚れ、手は血だらけだ。
それを見たメラニは涙を流した。
「……そんな先生、いるはずないだろ。いるはずないんだよぉ……」
「いいえ、ここにいます。まぁ、以前の生徒は僕をクビにしたので、逆に見捨てられた形ですが。ハハハ!」
フェアトはメラニの頭を撫でようとしたが、すんでのところで止まった。
「おっと、血で汚れてしまいますね。それと生徒の身体に触れるとまたコンプラ違反でクビにされてしまいます」
「……ったく、本当に泥だらけ、傷だらけで汚れきっているな。ついてこいよ、少しはマシにしてやるぜ」
「ついてこいとは、この大穴の中でどこへですか……?」
メラニが一歩前に進むと、まるで水鏡に入るように姿が空間に消えていった。
驚きながらも『生徒が招待してくれたのだから』とフェアトも入ることにした。
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