もう遅いなんて言わせない! ~理不尽に貴族の家庭教師をクビにされたけど、仔馬を助けて神馬ケイローンの加護を授かり、スキル『超速』『星弓』『カリスマ教師』で急成長。可愛い生徒達との旅は幸せいっぱいです~

タック

一章 教師、万事塞翁が神馬

理不尽に「遅い」と言われ

「テメェは何もかも遅いだよ!」

「い、いや……そんなことを言われてもですね……」


 乱暴な物言いをされても、その気弱そうな黒髪の男は丁寧な言葉遣いを崩さなかった。

 気弱そうな黒髪の男――フェアト・プティードスは少し痩せ気味で、白いシャツの上から黒いローブを重ね着していた。

 年齢は二十代後半、身長は少しだけ高く、顔の作りは悪くない。

 そんなフェアトは貴族相手の家庭教師をしている。

 いや、していたという言葉の方が正しいだろう。


「お嬢様はなぁ、フェアト――テメェをクビにしたぜぇ!」

「い、いったいどうして……急な話しすぎて理解できませんよ」

「理由? そんなもんは、テメェがちんたらと遅いからに決まってんだろ!」

「お、遅い……?」


 フェアトには心辺りが無かった。

 手を抜いたこともないし、家庭教師として真摯に打ち込んでいたつもりだ。


「必要なことだけ教えればいいってのに、ルーン魔術とかいう聞いたことねぇ授業に時間をかけやがって! 成果も出ねぇし、本当に役立たずなんだよテメェは!」

「ま、待ってください。ルーン魔術は希少な才能で、ゼロから開花させるには時間がかかる――」

「うるせぇ! お嬢様からクビにして捨ててこいって言われたんだ!」


 フェアトは蹴飛ばされた。

 相手は王都の冒険者パーティーで、それも上位ランクに位置する存在だ。

 かなりの金を積んで依頼されたのだろう。

 この状況、疑問に思ってしまう。

 家庭教師をクビにするだけならまだしも、高い金を払って冒険者パーティーに拉致させ――


「じゃあな、この〝魔物樹海〟でモンスターに喰われておっねよ」

「ま、待ってくれ……!」


 モンスターがうろつく魔物樹海に放置して、フェアトを殺そうというのだ。

 そこまでする理由がわからない。

 ちなみに冒険者パーティーは、希少遺物――レリックを使った転移で王都に戻ってしまった。

 フェアトは衣服以外の持ち物を奪われているので、同じように戻ることもできない。


「まさか僕がこんなに嫌われていたとは……。そういえば、ルーン魔術の型を教えるために手で手を触れたら、すごい勢いではね除けられたな……。コンプラの厳しい時代だ……」


 とりあえず、気を取り直して現状を確認する。

 幸いな事に身体は傷付けられていないので、自由に歩いたりすることはできる。

 たぶんこれは、下手にフェアトを傷付けてしまうと、他殺の証拠が残ってしまうからだろう。

 無傷で魔物樹海に放置して、モンスターに殺してもらおうという意図が見える。


「魔物樹海……か……」


 フェアトは知識を蒐集しゅうしゅうすることが趣味なので、魔物樹海に関する本も何冊か読んでいる。

 その内容はどれも悲惨な死にまつわるものだ。

 生息するモンスターは数百種、広大な面積を誇り、まともな人間は一人では絶対に立ち入らない。

 植物が生い茂る樹海なので、生存確率は砂漠よりはマシかもしれないと思われがちだが、冒険者パーティーでもない限りはモンスターに食い散らかされて白骨死体になるのが関の山だ。


「うーん、参りましたね……」


 今この瞬間も、フェアトの死を待つ小型の鳥モンスターが目を光らせている。

 中型、大型のモンスターに嗅ぎ付けられたら一巻の終わりだろう。


「通常のサバイバル知識なら、まずは飲み水の確保などからですが……。魔物樹海だと安全の確保が最優先ですね」


 フェアトは冷静に分析した。

 肝が据わっていると言うより、この場で騒いでもモンスターを呼び寄せてしまうので、冷静さを保たなければいけないというだけなのだ。

 出来ることなら、理不尽さに対して大声をあげてストレスを発散したい。


「とある冒険者の記録によると、木の上に避難するのがいいと書かれていましたが……この魔物樹海は鳥型のモンスターも複数いるはずです。これでは避難場所が難しい……」


 陸上のモンスターだけなら木の上に避難するのは定石だが、空を飛ぶモンスターもいるため、現状が許してくれない。

 変わり種としては、地面を掘って空気穴を開けて潜むというのもあるが、臭いを嗅ぎ付けたモンスターに掘り起こされるだろう。

 また、一から頑丈な家を作るというのも机上の空論だ。


「かなりの大ばくちですが、岩場に沿って進みましょう。警戒するのが片側で済みますし、運が良ければ入り口の狭い洞窟で一休みすることもできます」


 狭い入り口の洞窟なら中型のモンスターは入ってこられないし、入り口を木などで一時的に塞げば小型モンスターも突破できない。

 どちらにしても、そんなものが都合良くあるのか微妙なので分の悪い賭けだ。


「見える場所に岩場があるのだけが救いですね……」


 今は魔物樹海からの脱出のための方角や、飲み水確保は後回しだ。

 急いで岩場に移動して、なるべく大きな音を立てないようにする。

 移動方向は風下。

 これなら臭いを嗅ぎ付けたモンスターが、いきなり背後から襲ってくるリスクを軽減できる。

 そうしてしばらく歩いていたのだが――


「まぁ、そういうパターンもありますね」


 前方から臭いを嗅ぎ付けた、狼型モンスターが現れた。





――――


あとがき


面白い!

続きが気になる……。

作者がんばれー。

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