夏のエトワール
Haige
第1話 序章
あややのあんぐりと開いた口が塞がらない。
一時間前の夕飯時。大好きなオムライスを食べていた時、父が今にも途切れてしまいそうな声を発した。
「大事な話がある……。実は転勤することなった」
驚いた母は目を白黒させ、言葉を失っているわたしの隣では、保育園児の弟がデザートの巨峰ゼリーを美味しそうにほおばっていた。
沈黙が流れる食卓で母が口火を切った。
「ちょっとまって!家は?単身赴任?いつから?」
矢継ぎ早に質問している母を他所に、昨年も一昨年もうちのクラスから親の仕事の都合で県外へ転校していった子がいたし、珍しいことじゃないとわたしは努めて冷静を装った。
転勤先のA市はここから車で約3時間半はかかるらしい。
「正直いつまであっちにいるかわからない。たのむ一緒についてきてほしい」
父は深々と頭を下げたが、母もパートと家のことで毎日が精一杯なのを知っている。母の口から大きな溜息が出た。
食卓の空気が重い。
「ごちそうさまでした」
わたしはそそくさと部屋に戻り、クラスで流行っているキャラの絵を描いた。
イラストを描いてる時は誰にも邪魔されない大切な時間だ。
昔から父がいつか「転勤」するかもと言っていたけど、その「いつか」はずっと未来の出来事でわたしには関係ないと思っていたのに。どこか他人事のような。
(わたしテンコーセーになるのかなあ。転勤がなくなることもあるんじゃない?
中止にならないかな。お父さんには悪いけど)
イラストの夜空を塗りながら親友二人の顔が浮かんだ。
― 二人に何て言おう ―
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