ショート物語
結城 巧
1. 影の花
彼がこの植物を見つけたのは三週間前のことであった。
下校中、電信柱のそばにそれはあった。
花は咲いておらず、つぼみの状態である。
彼はそれを引っこ抜きランドセルの中に入れた。家に着くと、それを植木鉢に入れ机の上に置いた。
彼はこれといって植物に興味はない。
そんな彼がこの植物を大事そうに育てているのには理由があった。
影だ。
バラである。
しかも五本。
影はその植物自体とは異なる形をするのである。
さらにおかしなことにその植物は影の形を変えた。
月曜日の朝であった。
次の月曜日の朝、また影の形が変わっていた。
そこで彼は学校の図書館から分厚い図鑑を借りてきた。
彼は月曜日の朝、学校に行く前、影が何の花であるかを調べることにした。
「今週は、アベリアってヤツだな」
四時間目、抜き打ちの小テストが出された。
社会、四択、十五問。
「制限時間は十分。終わったら隣と交換して採点な」
大半の生徒は文句を言った。彼もまたその一人である。
彼は社会が大の苦手であった。そのため適当に答えを選んだ。
「すごいね」
隣の女子が驚いていた。
彼は満点であった。
「今週は、ポピーってヤツだな」
彼のクラスに転校生がやってきた。
海外から来たようだ。
彼女の髪は綺麗なブロンドで人形のようにかわいらしい。
彼女は彼の後ろの席に座った。
彼と彼女は仲良くなった。
「今週は、ハナビシソウってヤツだな」
「お前、まだ逆上がりできないの?」
体育の時間、大きな体の坊主頭が彼に言った。
彼は顔をしかめた。
彼は力強く鉄棒を握り、これまた力強く地面を蹴った。
彼は坊主頭を見下ろした。
「やっと見つけた」
彼はなかなか影の花が何か、見つけることができなかった。
時刻は八時を回っている。
彼はランドセルを担ぎ、家を飛び出た。
今週は、コチョウランだよ。
「よし、掃除でもしますか」
母親が彼の部屋に入る。
「あら、咲いてる」
彼が登校した後、つぼみが花開いた。
「綺麗なゲッケイジュ」
ドーン。
赤い花が咲いた。
防犯ブザーが鳴っている。
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