桃太郎が桃から生まれてたとしても鬼を倒せる理由にはならないでしょ
左 ネコ助
第1話 それはまるで桃に見えた
時は江戸時代の初期ごろか。
鉄心(てっしん)という老人は語る。
「都から離れて20年程が過ぎた、鬼と呼ばれる異形の化け物は、どこからともなく現れた。子供の頃から危機察知だけは早かったから婆さんと二人で逃げ出してきた、今の都の様子は解らない」
鉄心の妻、りょうは語る
「今は人里離れたところに、小屋を建て暮らしている。山や獣、川や魚もあるので生活には困らない。たまに鬼の話を聞く。私は運が良い、楽しく暮らせているのだから」
鉄心はこの生活の中で、山の猪や熊などを狩る方法を編み出していた。平たく言えば罠であるが、持ち前の危機察知能力と相まって実に有能だ
川からより効率的に水を引くにはどうすればいいかを考え、竹を筒状に加工して、ホースのようにしようかと考えており、生活を豊かにしようという思いが感じられる
りょうは昨年採れた猪の肉を乾燥させ、干し肉にするなど、二人きりでも知恵を出し合い暮らしていた
二人に子供はいない。理由は明確ではないが、試みても子宝には恵まれなかった
りょうは自分を責めた
鉄心が都から離れたのも、そうした理由がなかったか?
鉄心は何も言わないが、りょうは自分のためにそうしてくれたと思っている
夏も半ば、畑と狩りとで、鉄心は日が暮れるまで動き回っていた
りょうは水を汲みに川へと向かっていた。小屋を作るときに川から近いところに作ったのは、この水を汲みに行く作業がとても重労働だったからである
せっかくなので、りょうは川へ着くと、布を濡らし体を拭いた。汗もさることながら、少しでも女として綺麗にしておくことが鉄心の為だという思いもあった
ひとしきり終わった後あとで水を組もうとすると、何か、大きなものが流れてくるのが見える。淡い桃色の何かが川の流れの速度より少し遅く
どんどん近づいてくるそれを、りょうは待った。好奇心もあるが、なにか、動いてはいけない気がしたのだ。
それが近くに流れてきて、なおそれが何か解らない
桃のように淡い桃色、形も近いが、大きさがまずおかしい。
スイカ?いやそれよりも少し大きい
りょうは川に入りそれを持ち上げようとした
重い。大きめのスイカ、いやそれよりもズシっとくるような感じがある。
落としてはいけない、迫られるようにそう思い、りょうはそれを小屋に持ち帰った
運びながら違和感を感じた
(これは・・・・鼓動?)
運んでいる桃のような何かから確かに心臓の鼓動のようなリズムが刻んでいるのを感じた。
これが何か解らない、りょうは鉄心が帰ってくるのを待ち、とにかく食事の支度をすることにした
日が沈み行く前に、鉄心は獲物となる野うさぎを抱えて帰ってきた
「今日はなかなかの大物・・・ってなんじゃこりゃ?桃?え、いや何?」
「川から流れてきたんだよ、何か解ります?いや、解らないから驚いているのか」
「奇妙奇天烈過ぎだな、こんなもの生まれて初めて見る」
おもむろに鉄心は桃らしきものに近付き手でそれに触れてみた
「・・・・・・おい、中に何かいるんじゃないのか?」
「やっぱりそう思います?何か、心臓のような音が聞こえてきてて・・・」
「・・・これ、人間じゃないか?」
「・・・・え?いやそれはなんでも」
「獣のそれとは違う、わしらに近い感じを受ける、包丁を貸してみてくれ」
りょうから包丁を受け取ると、鉄心は注意深く包丁を桃のような物に入れていった
切ってもやはり果肉は出てこない、感触で言えば布を何枚も重ねてそれを切っているような
中心部に差し掛かり、鉄心はさらに注意深く包丁を入れた
何か膜のような物に切れ込みを入れた時に、中から明らかに果汁とは違うような水分が流れた
そこからは手で切れ込みを広げる
開き切ると
やはりそこには、人間の赤ん坊がいたのだ
外は暗く、風の音が聞こえる
そんなことをりょうが思ってしまうくらいには、言葉が出ず
短かったような、長かったような
沈黙の時間が流れた
「・・・息してない」
りょうが口を開いた
「え?」
「赤ちゃんなら泣かないとおかしい。その子泣いてない」
「とにかく、布やお湯を沸かすんだ」
早送りをしているかのように急ぎ動き出す時間と二人
赤ん坊を布に包み、体を拭く
確かに心臓は動いている、だが一向に泣く様子がない
「どうしよう・・・生きてるよね?・・・どうしよう」
「落ち着くんだ、とにもかく・・・」
「あー、おぎゃー」
鉄心がりょうを落ち着かせるのとほぼ同時に、その子は産声をあげた
桃太郎が桃から生まれてたとしても鬼を倒せる理由にはならないでしょ 左 ネコ助 @tokiwanekosuke
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