第4話 - 落ちる感覚?
「さて、もう1つ体験してもらおうかしら。次は、意識が落ちる感覚を味わってもらうわ。」
「い、意識が落ちる……?」
「そう、意識が落ちるの。それも催眠で出来ることよ。それじゃ城山さん、椅子に深く腰掛けて。」
「わ、分かった……。」
私はその言葉の通り、ゆっくりと椅子に深く座る。
「そのまま、そのまま目を瞑って。そうしたら、ゆーっくりと、吸って吐いてを繰り返して……。」
すーっ……はーっ……。私のゆったりとした呼吸音が、教室に渡る。
「少し、体に触るわよ。」
そっと、町田さんの手が、私の肩を掴む。直後、優しく体がゆらゆらしていく。
「貴方の頭の中はゆっくりと……ゆっくりと……少しずつ、フワフワしていく……そして貴方の意識は、少しずつ落ちていく……。」
「でも大丈夫……怖がることはないわ……。」
私の頭の中は、ぽやーっとしてくる。息も少しずつ、浅くなっていっているような気がするが、不思議と息苦しさはない。それに、この人は一体……今、何を言っているんだろう……?私は一体、今……何を……?
「……すれば、貴方の意識…………どんどん落ちて…………そう、1つ・2つ・3…………。」
「……?」
真っ暗な闇の中、私はそこに1人で居た。何も聞こえない、何も見えない、何も感じない、それはまるで、無の世界。
「(え?わ、私……一体どうなってるの?)」
意識だけは、何故かハッキリとしている。体も何も動かない、そんな状態の中、私は今、一体どうなっているのか、分かっているようで、分かっていないような。
「(城山さん、聞こえるかしら。)」
ふと、何処からか、声が聞こえる。その声に、私は聞き覚えがある。というよりも、さっき聞いていたその声そのものだった。
「(今から5つ数えると、貴方の意識はゆっくりと戻っていくわ。)」
直後、ゆっくりと始まっていくカウントダウン。それと同時に、私の視界は、ゆっくりと光り始め……。
「……?」
すうっと、どこかしらから冷たい風が頭の中に入ってくるような感覚に、私の意識は若干の混乱から舞い戻ってくる。
「お目覚めかしら、城山さん。」
「え、あれ?わ、私……いつの間に?」
「今はまだ立ち上がらないほうがいいわ。まだ混乱から、完全に戻ったとは言えないから。」
町田さんが、すっとコップに入った水を差し出してくる。私はそれをゆっくりと、ゆっくりと喉に流していく。
「……冷たい。」
「そう感じられるなら、大分戻ってきたかしら。」
一瞬のうちに、私は一体何をしていたのだろうか。
「……城山さん、貴方が落ちたときから、もう15分は経っていたわ。」
「えっ!?」
「入れ始めてから、3分も経たないうちに、ね。やっぱり貴方は適正が高いのかしら。」
一瞬だと思っていた時間が、実はそこまで経っていたなんて……。
よく見たら、外の景色もさっきより若干暗くなっていた。
「どうだったかしら、落ちる瞬間は。」
「え、いや……その……私、何か、落ちたって感じが全くしなかったというか……。」
「そうね。私もビックリするぐらい、スッと行ってくれたわね。」
たった2つ、この日のうちに受けた初めての催眠術……それは、余りにも大きなインパクトを残して、私に強烈な体験を刻み込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます