第21話 高架



 鉄道を作るには多くの鉄が必要だ。


 しかし、鉄を作るには製鉄の労働力が必要である。


 その労働力となる人々を連れてくるために鉄道が欲しいのだけれど、とりあえず最初はみんなを『歩き』で連れてこなければならない。


 というわけで、俺はまず第三の拠点から第一の拠点への道を作ることから始めた。


「とは言え問題があるな……」


 以前、第一の拠点から第二の拠点への道ではチューブ状に魔物から防護する道を作ったが、今度の場合、のちに鉄道を敷くことを前提とするわけだからそれでは具合が悪い。


 チューブ状の道ではあまりに換気が悪いからな。


 そこで、今度の道は『高架』にすることにした。



【横図】


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 こんな感じに橋のような形で道を作り、人や鉄道はこの上を行き来するのである。


 見ているとここらのモンスターは翼を持ったものはなく高いところに登ることができないから、上下左右をすべて囲う必要もなかったのだ。


「とは言え、先は長いな……」


 ただし、さらにもう一つ問題があって、それはこの高架の道はチューブ型の道よりも作るのが大変だということである。


 その上、第三の拠点から第一の拠点までの距離は歩いて三日かかるほど長い。


 さすがの俺も、この高架の道を第一の拠点まで繋げるのには一週間ほどかかってしまった。



「あ! 領主様がおかえりだぞ!!」


「見ろ、やはりすごい勢いで橋を作っておられるのだ!」


「本当だ!! 信じられないなぁ!」


 帰ってくると拠点のみんなが口々にそう叫びながら出迎えてくれた。


 これだけデカい施設を作りながらやってきたので、遠くからでもわかったのだろう。


 俺はそんな人々の中にモンドの姿を見つける。


「よお。ただいま。また人が増えたみたいだな」


「領主様おかえりなさいませ。はい、人口は現在350人にまで達しました」


 とモンドが説明してくれる。


「ちょうどよかった。また新しく仕事ができたから、100名ほど割り当てて欲しいんだ」


「さようでございますか。おめでとうございます!」


 仕事ができたというのに『おめでとうございます』と言う感性は、元失業者特有のものかもしれない。


「じゃあポジションの割り振りの方は頼むぜ。それから思ったより留守にしちゃったけど、他に何か変わったことはなかった?」


「あ、はい。それが盗賊がやってまいりまして」


「なんだと……!?」


 モンドが言うには、3日ほど前に40名ほどから盗賊の襲撃を受けたと言う。


「ただいま奥様が聴取を行っているところです」


「そうか」


 つーか、みんなセーラのことを俺の奥さんだと勘違いしたままなんだな。


 このまま既成事実化して本当の奥さんになってくれればなあ。


「こちらでございます」


 それはそうと、その盗賊とやらを軟禁している部屋へと案内してもらう。


「シェイド! 無事だったのね?」


 部屋へ来ると、セーラが盗賊らしき男の胸ぐらを絞めあげながら、白アーマーのお尻をぷりっとさせていた。


「おう。それよりそいつらが盗賊か?」


「ええ……と言いたいところだけれど、どうやら違うようなの」


「違う?」


「ようやく白状したところなのよ」


 セーラが言うには、彼らは盗賊のふりをしたロッド地方の兵なのだそうだ。


 なぜそんなことを?


 と聞くと、なにやらウチの領地を襲撃させたうえでそれを救って優位に立とうという、くだらない自演作戦のためだという。


「ずいぶんとバカなことを考えたもんだなあ」


「いずれにせよ、彼らの処遇についてはあなたが決めるべきだわ」


「一番無難なのは都へ提出して、中央の裁きに任せることですが……」


 と横からモンド。


 中央の裁きか。


 それはちょっと事が大きくなりすぎちまうな。


「ええと、せっかくセーラが捕らえてくれたのに悪いんだけどさ」


 俺は頭をかきながら、こう続けた。


「こいつら帰してやろうぜ」


「……そう。あなたならそう言うと思ったわ」


 セーラは銀のポニーテールを揺らしてすぐに納得してくれる。


「お言葉ですが領主様」


 が、一方、目を見開いて反駁するのはモンドであった。


「それはあまりにも甘いのでは?」


「うーん、そうかな」


「そうですとも。これでなんのお咎めもなければ、ヤツらは図に乗ってまた同じことをやってきます」


「かも、な。でも、こっちが寛容な態度で出ればそんなことにはならないんじゃねーか?」


「何を根拠にそうおっしゃるのです?」


「だってさ。これが他の国との関係ならまた話は別だけど、ロッド地方は同じ旧リーネ帝国だぜ。何か鼻もちならない感情があっても、『この帝国をまた強く独立させたい』って気持ちがあるならお互い本当の殺し合いにはならないんじゃねえかって思うんだ」


「……そのような気持ちが、今の帝国の人間にあるとお思いですか?」


「気持ちの底にはまだ眠ってるって、俺は信じたいね」


「……」


 そこまで話すとモンドはもう何も言わなかった。


 客観的に見ればコイツの言ってることの方が正しいのに。


 もしかして見放されてしまったかな?


「シェイド。縄をほどくのを手伝ってちょうだい?」


「お、おう」


 しかし、こうやってセーラと俺がニセ盗賊たちの縄をほどいている時。


「私は……シェイド様のお気持ちに従います」


 モンドはそう言って一緒に縄をほどくのを手伝ってくれたのだった。

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