第8話 沼の水ぜんぶ抜く
「よし、行くか」
「ええ」
そんなふうに門を開け、俺とセーラは第一の拠点から東へ探索へ出かけた。
ひゅるるるる……
拠点から一歩外へ出ると、やはりそこは岩と土ばかりの荒野である。
でこぼこして足場は悪いし、セーラの言う通り最初のポイントからしばらく行くと魔獣があらわれるようになった。
キシャー! ギャース!! グルルル……
ゴブリン・メイジ(E級)。
オーク(D級)
ポイズン・スライム(E級)。
ファイアー・ボア(D級)。
どいつも恐ろしい姿をして、人間を見るやものすごい勢いで襲いかかってくる魔的な凶暴性を持っていた。
ビシュ、ビシュ……ビシュ!
しかし、俺もすでにレベル13なので、これらの敵ならば打撃の一撃で倒すことができる。
「へえ、やるじゃない」
「まあ、まだまだお前ほどじゃないけどな」
とは言え、十分な経験値ためにより道中にはずいぶん余裕があった。
ゆえに、光る岩を発見すると【黄金のつるはし】で岩を掘削し、素材を回収しながら進むことすらできる。
つまり、もしも作業中にモンスターに襲いかかられても片手で撃退できる……そう判断できたのだった。
ポコッ、ポコッ、ポコ……
○鉄鉱石 13
○古代魔獣の化石 1
○魔石 2
○銀 3
「うーん、鉄鉱石が結構出るんだよな。こいつが使えるようになるといいんだけど……」
「何か問題でもあるの? 銅は使っているみたいだけど」
「ああ、
「ふぅん」
さて、そう話しながら荒野を進んでいくと、ふいにセーラが足を止めた。
「着いたわ。やっぱりだいぶ汚れているけれど……」
そうつぶやく彼女の目の前には、水場が広がっていた。
うん。
たしかに水質はよくない。
ただし、大きさは沼と言うには大きすぎるほど大きかった。
サイズで言えば『湖』と言ってよいくらいだが、汚濁しているから『沼』という印象を与える。
そんな水場だった。
「こんなに汚れた水が農業地に使えるかしら?」
「問題ない。大丈夫だよ」
そこで俺は呪文を唱えて【黄金のつるはし】を取り出す。
「どうするの?」
「まあ見てろって」
俺はおもむろにつるはしで沼の水を“掘削”した。
パシャ、パシャ、パシャ……
つるはしの先端で水をかくようにする俺。
しばらくは見た目に何をしているのかわからなかっただろうが、やがて一目にして
「す、水位が……」
そう。
沼の水位が下がっていっているのだ。
つまり俺は、黄金のつるはしで素材:『水(汚)』を回収しているのである。
「お前の言う通り水質に不安があるからな。とにかく沼の水をぜんぶ抜くから」
そして、回収した素材:『水(汚)』を工作BOXの≪3.素材の編集≫で純粋な『水』へと編集するというワケ。
ただし、この沼は大きい。
さすがの俺もこの作業には2時間ほどを要した。
「はぁはぁはぁ……」
「し、信じられないわ」
空っぽになった沼のくぼ地を前に、セーラは
「びっくりしているヒマはねーぞ」
「え?」
俺はくぼ地を指さした。
そこには泥の中で魚と魔魚がピチャピチャと音を立てている。
「これからこの沼の底を綺麗にするんだ。汚くて悪いけど、手伝ってくれ」
「え、ええ……」
こうして俺たちは靴を脱ぎ、沼底の泥をかき分け、魔性を帯びた魚や藻を探し始めた。
黄金のつるはしでは、魔物や動物を回収することはできないからな。
水質を汚す『魔魚』の駆除は手作業なのである。
「きゃ、きゃあ!!」
「どうした?」
「な……何か足に、ヌルッとしたの」
などと最初は騒いでいたインテリ女だったが、次第に裸足で泥に浸かるのになれていったようだ。
そうなると泥だらけになるのは意外に楽しいものである。
「シェイド! また見つけたわよ! うふふ……」
1時間もたつと、泥んこで泥を探り魔魚を喜々として撃ち滅ぼしていく女の姿があった。
一方、フツーの魚や池の生物は土を掘って作った『生け
これらは後ほど水場へ還す予定だ。
ちゃぷん……
やがて、おおよその魔魚を駆除し、フツーの魚を避難させると、最後に黄金のつるはしで泥を回収していく。
こうして、沼底のくぼ地は完全に浄化されたのだった。
「こんなものかな……」
さて、作業が終わり、ふと正気に戻ると、美女がその顔やら純白のレオタードアーマーやら銀髪やらを『泥んこ』にして立っているのにギョッとさせられる。
だが、それはおそらく俺も泥だらけで、その証拠にセーラはこちらの顔を見るや愉快そうに笑い始めた。
「クスクス……」
「……あはははは!」
しばらく俺たちは互いの顔を見てしばらくケタケタ笑っていたが、やがて≪素材『水』の編集が完了しました≫と工作BOXが言うので、俺は天へ手をかかげて呪文を唱えた。
「Evenire(出でよ)」
すると、くぼ地の青空の上に大きな水のブロックが生じる。
もちろん重力により水のブロックは瞬く間に崩壊。
どしゃあああああああああ……!!
大量の水が滝のようにくぼ地へ降り注いで、俺たちの泥をみごと洗い流していったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます