第3話 ナカハラヒロキ


 お腹すいたなぁ。

















 。*:゜☆ヽ(*’∀’*)/☆゜:。*。*:.。☆..。きらりらりらりん☆.☆.。.:*・゜゚+。:.゚.:。+゚(*´∀`*)ノ。+゜*。


「今日はちょっとパーマをかけてみたよ!」

「わーお、超おしゃんてぃー!」

「ヨシコにもしてあげるよ!」

「まじで!? レッツオシャンティ!」


 。*:゜☆ヽ(*’∀’*)/☆゜:。*。*:.。☆..。アフロがもわもわ☆.☆.。.:*・゜゚+。:.゚.:。+゚(*´∀`*)ノ。+゜*。


「わーーーーーお!!」






「アフロは嫌だ!!」


 ヨシコは目を覚ました。


「アフロにするくらいなら、あたしは坊主でいい!!」


 はっと目を見開く。そこは地下鉄の地面であった。隣にはラジカセだけが置かれている。


「……お兄さん?」


 ヨシコがあたりを見回す。


「あれ? お兄さんがいない?」


 ――いや、いないわけじゃない。


(そうだ。確か、急にビルが爆発して、崩れ落ちて……)




「来い!!」




 ヘ(*'ω'*)ノ





 カヤマがヨシコを肩に担ぎ、混乱する砂ホコリに包まれる中、地下鉄へと通じる階段に滑るように逃げ込んだ。入った瞬間瓦礫が出口を塞ぎ、カヤマは急いで無線機を口の前に構えた。


「おい、だれか! 無線が通じる者はいるか!」


 しかし返事はなかった。


「くそ!」


 カヤマは連絡を試みるが、誰一人応対する者はいなかった。


(本部にも繋がらない。くそ。完全にやられたか……)


 緊迫した空気の中、――ヨシコが嬉しそうに笑った。


「えへへ!」

「!」

「お兄さん」


 肩に担がれたヨシコが涙目でカヤマに振り返った。


「生きててよかった」


 ぐすん。


「車の中に置いてってごめんね」

「……? 人違いだ。おれは君のお兄さんではない」

「あはは! お兄さんは相変わらず冗談好きなんだから!」


 ヨシコの目は、確かにカヤマを見つめている。


「ねえ、お姉さんは? お姉さんは生きてないの?」


(……ああ)


 日本軍であるカヤマは人の死を何度も見てきた。だからこそ、――大切な人を失ったのであろうヨシコを哀れに思った。


(下手に刺激をするのも良くない。相手は子どもだぞ。香山かやま良介りょうすけ


 何も言わず、カヤマは肩からヨシコを地面におろし、優しく伝えた。


「出口を探してくる。ここにいなさい」


 ヨシコは笑顔でカヤマを見上げた。


「人造人間の気配がしたらすぐに逃げろ。なるべくすぐに戻る」

「うん。わかった」


 ヨシコは嬉しそうに頷いた。


「あたし、待ってる」



(*'ω'*)



(そうだ。待ってるの飽きて、寝たんだった)


 ヨシコがあくびをし、目を擦った。


「お兄さん、大丈夫かな……」


 出口を探しに行って、随分時間が経っているように感じる。というか、今何時なのかもヨシコにはわからない。ここに時計はない。人もいない。ヨシコは一人ぼっちだ。喋る相手もいない。


 唯一、寂しくないようにカヤマが置いていったラジカセから、突然荒いノイズの中、声が流れた。


『緊急速報です。府中刑務所の囚人たちが破壊された壁から脱獄したことが確認されました。特に、中原なかはら洋貴ひろき受刑者は非常に危険な人物であると警視庁が発表し、中原受刑者を見かけた方は近づかず、速やかに離れるようにとのことです。特徴は、身長180センチ以上。細身の黒髪。警視庁は速やかに受刑者たちを拘束すると……』


 ここで電波が途切れ、聞き取れなくなり、ノイズだけと鳴り、やがてノイズも聞こえなくなった。また地下鉄に静けさがよみがえり、放送を聞いたヨシコは一人、顔色を青くさせた。


(……さすがにここまでは来ないよね……)


 ぐー。


「お兄さん、……まだかな……」


 お腹の中で演奏が始まったようだ。ヨシコはため息を吐いた。


「お腹すいたな……」



(*'ω'*)




 一方、ヨシコのいる場所から離れた同じ地下鉄にて、モヒカン男と、リーゼント男が金属バットを振り回し、縛り上げた人造人間をサンドバッグにして下品に笑っていた。


「人造人間がなんぼのもんじゃい!!」

「おれたちがぶっ殺してくれるぜ!!」


 その端には、両手両足を縛られたカップルが座り込んでいた。男は顔中なぐられアザだらけとなり、女はそんな男を見て、ひたすら泣きじゃくっていた。


「今日からおれたちがヒーローだぜ!」

「地下鉄に逃げてきた奴らはおれたちに貢献しな!」


 男二人は人造人間の首をもいだ。二人のカップルは目をそらした。モヒカン男がにやりと笑い、女に近づき、女の髪の毛を強く引っ張った。


「おら!! 姉ちゃん、さっさと脱いでおれたちと気持ちいいことしようぜ!!」

「ぎゃはははは!!」


 口をガムテープで塞がれた女は目を見開き、必死に抵抗を始めた。しかし、男たちは彼女を馬乗りし、無理矢理犯そうと手を伸ばす。それを恋人である男が守ろうと体ごと当たってくれば、男たちが笑いながら男を金属バッドで殴り始めた。女はそれを見て塞がれた口から叫び声を出す。


「んーーーーーーー!!」

「邪魔すんじゃねえよ!!」

「彼女の前でぶっ殺してやる!!」


 モヒカン男とリーゼント男が抵抗できない男を彼女の目の前で蹴り、殴る。


「ぎゃははは! こいつミノムシみてー!」

「おら! 悔しかったら反撃してみろよ!!」

「人造人間を殺してやったおれたちはヒーローなんだぜ!? おら!」

「どうしたんだよ! ほら、早くしないと彼女がヒーローたちに犯されちまうぜー!?」


 男が白目を剥き、女がむせび泣き、涙で地面が濡れた頃――一人の男が呟いた。


「へえ。お前たちはヒーローなのか」


 モヒカン男とリーゼント男が声の持ち主に振り返った。


「じゃあ、殺さないとな」


 ――リーゼント男の首が切断され、縛られてた男が燃やされ、縛られてた女が火だるまに包まれ、悲鳴をあげながら死んでいく。モヒカン男がぎょっとし、倒れたリーゼント男の体を見て、男に振り返った。


「なんだてめえええええ!」


 金属バットを構えて走り出す。


「よくも兄ちゃんを、このやろおおおおおお!!」


 金属バットを男に振り下ろそうとした瞬間、モヒカン男は唖然とした。なぜなら、自分の顔の半分を、その男が持っていて、自分に見せびらかしていたからだ。


「……あれ……?」


 モヒカン男は半分に切断されており、そのまま自分がコロコロステーキにされていることなど気づかぬまま、地面に散らばった。


「あれぇ? ヒーローはラストまで残るはずだけど」


 男は、いやらしく口角を上げた。


「ラスボスに殺されてしまったな? いっひひひひひひ!」


 愉快そうに男が笑うと、その笑いにつられたかのように、静かな人造人間たちが現れた。


「血の匂いがするーん」

「するーん」

「!」


 男が振り返り、自分が大量の静かな人造人間たちに囲まれていることに気づいた。静かな人造人間たちはつぶらな瞳で男を見ている。


「電車の外にも人間が残ってるーん」

「まだ残ってるーん」

「全員捕まえたと思ったのにーん」

「るーん」

「あの男」

「女王さまのところに連れて行くーん」

「るーん」

「……女王さま?」


 男は首を傾げた。


「ほう。興味があるな」

「興味があるーん」

「ついてくるーん」

「危害は加えないーん」

「るーん」

「いいや、大丈夫だ。その必要はない」


 男は歩いた。


「自分で会いに行こう」


 いつの間にか、男の歩く道は赤い液体の海のようになっていた。そこには、全ての静かな人造人間たちが死体となって転がっていた。男はそれを容赦なく踏み、先を進んだ。出口を探す。しかし、いまいち方向がわからない。男は壁を見て立ち止まった。


「……行き止まりか」


 少しおかしそうに、ため息を吐く。


「まったく。都心の駅は広いな。……仕方ない。戻るか」


 男は来た道を戻ることにした。


「道を聞けばよかったな」


 ――手加減したから一人くらい残ってるかもしれない。


(道を聞いたら)


 また殺せばいい。


「いっひひひひ!!」


 男はくすくす笑いながら愉快そうに平然と来た道を戻っていく。また赤い液体だらけの場所へと戻ってくると、……違和感を感じた。


「ん?」


 男が動かなくなった静かな人造人間達を見て、眉を下げた。


「おかしいな?」


 頭が割れている。こじ開けられたように、ぱかりと。


「おれは、こいつらの頭を開けてないんだが」


 お か し い な ぁ ?


「だれが、やったんだ?」


 だれかいるな?


「だれだ?」


 ――その時、壁の奥から、咀嚼音が聞こえた。とても素晴らしいASMRだ。男は静かに、ゆっくりと、振り向いた。じいっと見ていると、壁の奥から手が伸びた。


「ふう。もう一体だけ……」


 そこから、ひょこりとヨシコが現れた。男を見て、口元が赤く染まったヨシコがぎょっと驚き、悲鳴を上げた。


「わっ」


 そして、自分を見てくる男をじっと見て、ヨシコは気まずそうな顔で黙った。


「……」


 ヨシコは、何かを背中に隠すことにした。そして、誤魔化すように言った。


「あの、別に、あたし、……拾い食いなんて、してないよ!」


 男は微笑んだ。


「へえ」


 男は脳が空っぽの人造人間を見て、言った。


「それじゃあ、どうして」


 笑顔でヨシコを見る。


「そのへんの人造人間の頭がこじ開けられて、脳だけないんだろうね?」


 ヨシコは回答した。


「なんか爆発した!」


(それは無理がある!!)


「さっきビルもいきなり爆発したの! 多分、その影響もあって、人造人間たちも爆発したんだと思います! きりっ!」

「へえ。じゃあ君はさっきのイベントの生き残りなんだ?」

「イベント?」

「あーあ」


 男は笑顔のまま、ヨシコに近づいた。


「 見 つ け ち ゃ っ た 」

「え?」


 男は手をのばす。鞭のように大きく伸びて、ヨシコに狙いを定めてその小さくか弱い魂を笑顔で潰してしまおうと企んでいる。ビルを破壊したのはまごうことなき彼である。彼はゲームをしている。破壊したビルの瓦礫で人を殺すゲームだ。そして、瓦礫に潰されなかった人間を見つけた場合には、自分の手で殺すとても楽しい殺人ゲームだ。彼は、生き残りを見つけて狂喜していた。


 生き残ったヨシコはどんどん近づいてくる男を見て――あ、と声を出した。


「そうか。なるほど」


 ヨシコが足を上げた。


「人造人間ごっこがしたいんだね!」


 笑顔のヨシコの向けた下駄が男の腹部に当たった瞬間、男の目が大きく見開かれた。


 ――!!!!!!!!???????


 次の瞬間、すさまじい力で蹴り飛ばされた。男がその言葉のとおりに吹っ飛ばされ、情けない姿で壁にめりこんだ。


「むごっ」

「あなた、人造人間役!」


 ヨシコは目を輝かせて拳を握りしめた。


「あたしは、日本軍のすっごい人の役ね! はい、始め!!」


 。*:゜☆ヽ(*’∀’*)/☆゜:。*。*:.。☆..。人造人間ごっこの始まり、始まり☆.☆.。.:*・゜゚+。:.゚.:。+゚(*´∀`*)ノ。+゜*。


「動くな! この人造人間!」

「ミッションを開始する!」

「無線どうぞ!」

「ばんばん! ばきゅーん!」

「ちゃっちゃかちゃーん!」


 ヨシコは拳を天に掲げた。


「レベル10になりました!」

「てれてれーてーてーてっててー!」


 ヨシコは実に楽しそうである。それを、目を点にさせた壁にめり込んだ男が唖然としてみていた。


(な……)


 ――何なんだ、このガキは!!!!!


(くそ! 抜けない!!)


 自分が生み出した殺人ゲームはうまく攻略できず、ヨシコからはぷぷっと笑われる。男はこの緊迫した空気に、とつぜんおかしくなり、ふっと鼻で笑った。ヨシコは首を傾げる。


「ふん。これでおれに勝ったつもりか?」


 だとしたら詰めが甘い。


「壁にめり込んだくらいで」


 男が顔を上げた。


「おれは止められない」

「え、じゃあ」


 ヨシコがチャッカマンの火をつけて男に向けた。


「燃やしてみる?」

「待て待て待て待て!! 少し話をしよう! いいか! よく見ろ! 壁にめり込んでるんだぞ!! 人が! 壁に! めりこんでる!! この無力な状況で、火をつけられるか!? よく見ろ!! クソガキ!!」

「うーん」

「いいか? 今はこんな間抜けな姿でいるが、おれの正体は大犯罪者。数多くの人の命を奪った男。おれにかかれば、壁にめりこんだくらいで、この狂気の手を止めはしないというわけだ! どうだ! おそろしいか!!」

「飽きた」


( <◉> ;益; <◉> )


「は?」

「お兄さんが心配しちゃうから帰る」

「何?」

「またね。おじちゃん」

「あ!!!!????」


 男はとうとう堪忍袋の緒が切れた。ブチギレてしまった。


「ま、待て!! クソガキ! 殺してやる!! ぐっ、抜けない!! こらお前!! この屈辱忘れねえぞ!!」


 ヨシコは思った。今何時だろう。


「テメェ!! 行く前に名前を言え!!」

「え? あたしですか?」


 名前を訊かれたヨシコは男にくるんと回って振り返った。


「あたしはヨシコ」


 アフロじゃないよ。


「好きな子と書いて、好子よしこです!」

「 ヨ シ コ ォ …… 」


 その目は怒りに充血し、ぐるんぐるんと回っている。


「この大犯罪者、中原なかはら洋貴ひろきを敵に回したこと……後悔させてやる……」


(……抜けない……)


「? ういーーーーっす」


 きちんと返事をして、ヨシコは壁にめり込んだナカハラを置いて、来た道へと戻っていった。





(*'ω'*)



「一体どこにいたんだ!!?」


 汗だくのカヤマが目を見開き、ヨシコに駆け寄った。


「怪我はないか!? 人造人間か!?」

「大丈夫だよ。お兄さんのことさがしてただけ」

「奴らに見つかったのか!?」

「ううん。寂しくなっちゃって。……」


 ヨシコは黙り、ふと、嬉しそうに、カヤマの腕にそっと手を当て、微笑んだ。


「ごめんね。お兄さん。気をつけるね」

「……うむ。……一人で行動するのは自殺行為だ。……とは言っても、置いていったおれも悪い。共に気をつけよう」

「うっす」

「出口があったからついてこい。一人にして悪かったな」

「なんも!」

「ラジオの放送から聞いた限り、人造人間以外にも囚人たちが刑務所から逃げ出し、大変なことになっているそうだ。ここは危険だ」


 カヤマがヨシコに手を差し出した。


「行こう」

「うーっす!」


 ヨシコは笑顔で、その手を握りしめた。





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