第5話 ステータスは……ない

 この『暁の薔薇の伝説~光と闇の神々の聖戦~』は最後の闇の主神であるラスボスが滅茶苦茶強くて、諦めたりする人が続出したのだけど、私は魔法の裏技を使って何とかやっつけることができた。


 それを聞いた友人は何だそれはと散々文句を言ってきたものだったけれど。その攻略知識を元にどうにか滅亡を回避できないかな?


 そろそろお茶会も終わりかけたので、私はそっと一人で人の輪から外れてみた。


 いつもなら側仕えの者達が側に張りついているけれど王宮だし、お母様主催のお茶会だから参加者も厳選されているから、護衛や監視の目も緩くなっている。


 そっと私は呟いてみた。


「ステータス」


 だけどゲームのように文字が何処かに浮かんでくることはなかった。


「本当にこれから、どうしようかしら……」


「どうなされましたか? リルア様」


 ふいに背後から声をかけられてびくりとした。


「え、ああ、バルド、少し、その人に酔ってしまって」


「大丈夫でしょうか? 先程もお倒れになられましたし、少し休まれますか?」


 いつの間にか護衛騎士候補のバルドが私の背後に控えていた。


 思わずひゃあと悲鳴を上げそうになってしまった。その気配の無さはまるで忍者のよう。でも彼はいつも私の侍女よりも私の行動に良く気がついていた。私達が危険のないように気をつけてくれている。


 バルドはお兄様より一つか二つ上くらいのはず。バルドは自分のことはあまり語らないので良く分からないけれど。


 薄めの金髪に青銀色の瞳の端正な優し気な顔立ちの美少年だ。それにお兄様よりやや上背があるけれど二人並ぶと兄弟のように似ている。


 でも、それは公言してはいけないことらしい。昔、バルドにフォルティスお兄様と似ているというと酷く困った様子をして、人前では言わないように釘を刺されたことがあったからだ。今ではその理由も知っているけれど。


「ありがとう。バルド、でも、もう直ぐ終わりそうだから大丈夫です」


 私は微笑んで見せると彼も優しい笑みをみせた。彼はとても私達に対して献身的だった。お兄様や私の身に危険が及ぶと我が身を呈して庇ってくれる。私にとってはもう一人の兄のように思っている。


「バルドもフォルティスお兄様の護衛はよろしいのですか?」


「ええ、あちらはガラハド卿もいらっしゃいますし、それよりリルア様の方がお一人の方が危険です。今日は人員も厳選されていますが、会場でもこのような人気のないところにお一人でいらっしゃるのは悪意を持った者の恰好の的になりますよ」


 バルドに叱られて私はしゅんとしてしまった。でも、バルドを嫌とは思わない。それは私を心底心配しているということが分かるからだ。彼は私を置いて逃げたりしない。そんな安心感。でも、お兄様と私のどちらかを選ばなければならないとき、彼はどちらを選ぶのだろう……。


 フォルティスお兄様の方を見遣ると筆頭騎士のガラハドをはじめ、側近たちがお兄様の周囲を固めていた。魔術師見習いのマドラなんて意気揚々と隣で大きな顔をしている。お兄様の周囲には次代の国王に渡りをつけようとする大人から子どもまで群がっていた。


「そうですね。私が軽率でした」


 ―ー圧倒的に私には力が足りない。魔力の使い方も分からない。家同士の駆け引きも分からない。ましてや国同士のなんて到底。


「分かっていただけると……」


「リルア様ぁ。こちらにいらしたのですね。探しましたよぅ。はい。お菓子。生クリームたっぷりのパンケーキとビスケットをお持ちしました」


 アナベルが美味しそうなパンケーキの皿を抱えてこちらにやってきた。


「まあ、美味しそう!」


「さあさあ、姫様。バルドのお小言は置いといてふかふかのパンケーキに熱々のビスケットをいただきましょう」


「お、お小言では……」


 アナベルは侍女なので戦闘能力はない。バルドは私の側を離れず。呆れたように苦笑すると私達がパンケーキを頬張るのを眺めていた。


「バルドは?」


「甘いのは苦手ですから」


 そこへ不思議なメロディとともに空中に白煙が打ち上がった。白煙が丸い形や楕円系になる。


「マドラ様の魔術ですね!」

 

「あれは風と火の魔術を組み合わせている。流石だな」


 ――普通の打ち上げ花火より随分小さいけれどもて囃されるのね。


「バルドは何か使えるの?」


「私は水の初級と風ですね。でも、姫様。あまり人の魔術は詮索してはいけませんし、自分のも教えてはなりません」


「え? そうなの?」


「マドラ様のように魔術師の家系として有名な方は仕方ありませんが、本来は秘匿するものです。魔術の呪文や型は口伝で教えられるものですから」


 あれ? ゲームでは魔術屋で魔法を買えばセットできたよね。水晶みたいなのを売ってくれてステータス画面にセットすれば使える。


 あ、でもステータス画面は見つからなかったんだ。


「うう、じゃあ。私が魔法を使えないのって」


「それはリルア様が魔術師を怖がって授業を受けて無かったからです。我が国の筆頭魔術師のマドラ様のお父様が、お忙しい中にリルア様の個人授業をされたのに」


 ――ああ、そういえば昔そんなことがあったわね。確かに。だって、部屋を暗くして顎の下から蝋燭で自分の顔を照らして怖がらせるんだもん。にたあって笑ってね。あれは小さな子にはしてはいけない。




 ゲームの設定ではキャラによって、魔法の覚える種類が決まっていたり、経験値によるレベルの上がり方が違ったりするんだけどリルアの上がり方は割と早かったのでそれだけが取り柄だったんだけどな。


 でも覚えられるのは回復魔法中心だったし、剣も細剣とかなのよね。火力が無いから一人で戦うのは難しいキャラだったのよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る