第3話 チートとは真逆

「……ルア、リルア、大丈夫?」


 フォルティスお兄様の声に目を開けるとそこは自分の寝台の上だった。

 周囲は美しい光で溢れていて眩しくて自然と涙が溢れそうになってしまった。だから、再び瞼を閉じてしまった。

 ……現在、私、リルア王女は十三歳になったところ。今日はお城でちょっとしたお茶会が開かれる日だった。会場の準備ができるまで時間潰しに書庫で本を探してとしていたのだった。


 そして、私は思い出してしまった。


 多分、あの落ちていた本が引き金になったと思う。私はそれに躓いて倒れてしまったみたいだけど。


 あれに触ったから、あんなものが見えたのだし。でもあんなところに落ちているなんて掃除の者に注意しておかないといけないわね。


 あの複雑な薔薇の模様の入った表紙に触れてみようとしたら、本が勝手に開いたのが始まりだ。


 もしかしたら、あれは国宝級の魔導書、俗に言うグリモワールの一つだったのかもしれない。


 近くにいたお兄様達はどうなったのだろう。あれを見たのだろうか?


 オープニングムービーのようなものは私一人で見ていたはずだけど……。


 

「リルア、目を覚ましたんだね。良かった」


「お兄様。私は一体……」


 お兄様と呼ぶのに少し抵抗があったの。どこのお嬢様よ? あ、ああ、王女様だったんだ。


「かくれんぼをしようとしてリルアが突然倒れたんだよ。これからなのに、こんなことになるなんて」


「本につま……、いえ、お茶会はどうなりましたか?」


「まだ始まるまでには時間はあるよ。体の調子はどう? 僕達が担いでここまで戻ってきたからまだ大人にはバレてはないけれど……」


 私はお兄様や側仕え達に担がれて部屋まで戻ってきたみたい。幸い書庫に入ったのは見咎められなかったよう。お茶会が始まるまでこっそり遊んでいたのを知られると怒られるものね。


 私は思わず目覚めたくなかったと言いそうになった。


 そもそも私は亡国の悲劇の姫って柄じゃない。私は他のキャラ、別のヒロイン枠の湿原のアマゾナス国を追放された女将軍のフリーニャを使っていたんだから。


 彼女は居合の達人で刀使いだったから、滅茶苦茶強くて使い易かったのよね。


 それに引き換えリルアは担当の神絵師様のイラストが美しいけれど弱い。そもそも細剣使いだから火力が全然足りない。だから私には使えないキャラと認定されていた。


 見た目が可憐で美しいので控えのパーティには入れて育てていたけどね。


 公式の初期設定ではリルアは魔法剣士になると書かれていた。でも魔法剣士と言いつつ肝心の魔法も水魔法の初期の治癒魔法と光の魔法の初級しか使えない詐欺のようなものだった。どこが魔法剣士よと言いたかった。


 魔法剣士なら、ほら流星群を纏った技とか、太陽の光を宿した大技とかあっても良いじゃない?


 それに水も光も治癒系統の魔法なので被ってるから、ソロで戦闘となるとリルアは使いどころがかなり難しかった。


 せめて違う系統の攻撃魔法とか使えたら良かったのにといつも思ってたのよね。


 派手な炎の爆炎魔法とか、風の爆裂魔法とか使えたら良かったのに。


 リルアの初期設定にされている光魔法は初級ということもあって、ライトボールという小さな光の玉を放つという弱っちいのしかできないなかった。これで魔法剣士と名乗っていいほどじゃないと思うのよ。せめて剣に魔法を乗せることができればもう少しどうにか戦えたのに。


 最初は大体初級だけしか会得出来ないけど、レベルが上がれば他のキャラは上級を覚えていく。


 でも、リルアは最終のラスボスまでいってもせいぜい中級くらいまでしか使えないし成長もしない。剣だって片手剣か細剣のみ。双剣や斧、大剣とかからすれば弱っちいとしか思えなかった。事実戦闘中にモンスターにタゲられると死んでばかりいた。そう、直ぐ死ぬ。ここではリセットとか復活とかやり直しができるのかな。

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