71 カバヤ文庫のはなし。⑰
本稿でご紹介してきた『おまけの名作 カバヤ文庫物語』は、カバヤ文庫の歴史を扱った本であるということも貴重なのですが、著者の坪内稔典が個人史を交えて当時の実感も記しているのがとても面白いのです。
私がたまたまデジタル岡山大百科で読んだカバヤ文庫はどれも優れた読み物だったのですが、坪内によれば「いくらか杜撰」だったものもあったようです。
すばらしいリライトの例として『宝島探検』(第一巻第八号)が取り上げられています。
デジタルは便利ですね。直接リンクが貼れます。興味のある方はこちらもご覧ください。
●デジタル岡山大百科 カバヤ児童文庫『宝島探検』
http://digioka.libnet.pref.okayama.jp/web/viewer.html?file=/mmhp/kyodo/kabaya/bunko/1-8/index.pdf#zoom=page-fit&page=2
『おまけの名作』からこちらを説明した箇所を引用します。
〈これはスティーブンスンの『宝島』(Treasure Island)が原作だが、「カバヤ文庫」では次のように物語が始まる。
談話室のあかりをつけようと、私がドアーのハンドルに手をかけたとたん、ぐっと重みのある手が、私の両肩を押えつけた。
「あっ。」
思わず軽いさけび声を立ててふりむくと、いつの間に帰ってきたのか、真鍮の望遠鏡を黒いひもで首からつるした船長が、私を見つめていた。(以下略)〉
〈この『宝島』は、「翻訳は、あくまで原作の真の姿を伝えることを期すると共に、訳文は平明、どこまでも少年諸君に親しみ深いものとする」ことを目標にした「岩波少年文庫」の第一巻でもあった。今、その「岩波少年文庫」の『宝島』を見ると、「
直訳に近い形を狙っている岩波少年文庫では、カバヤ文庫版の冒頭の場面は四ページ目だそうです。(坪内p83参照)
カバヤ文庫はダイジェストですが、読みやすさ、リズム感を重視して成功していると言えます。
とはいえ坪内は、ちょっと杜撰と思われる例も取り上げています。『あかずきん』(第三巻第一号)は、丁寧な文体が最後まで保てず、時々常体の表現が混ざっているそうです。
●デジタル岡山大百科 カバヤ児童文庫『あかずきん』
http://digioka.libnet.pref.okayama.jp/web/viewer.html?file=/mmhp/kyodo/kabaya/bunko/3-1/index.pdf#zoom=page-fit&page=4
坪内はさらに、個人的に忘れがたい作品として『アンクル・トム』の次の箇所を引用します。
原作には登場していないのではないか、と思われる蚊を登場させて、殴られ血まみれで倒れているトムの苦しみに迫る描写になっていると説明されます。
〈夜がふけていく。もう真夜中もすぎたろうか……。けれども、南部の夜はむし暑い。かが血のにおいを求めて、飛んでいる。
暗やみの中にうごめく血だらけのからだ、今のトムにはかを追っぱらう力も出てこない。自分が生きているのか、死んでいるのか、それさえ考えることもない。ただいたいのである。苦しいのである。〉
●デジタル岡山大百科 カバヤ児童文庫『アンクル・トム』
http://digioka.libnet.pref.okayama.jp/web/viewer.html?file=/mmhp/kyodo/kabaya/bunko/3-11/index.pdf#zoom=page-fit&page=3
ぜひみなさんも、読み比べてみてください。
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