第7話:支えてくれる友達

 八十神くんが転校してきて以来、クラスの女子はみんな彼に夢中だ。授業が始まる前と休憩時間、昼休み、そして放課後。学校にいる間、八十神くんが一人になることはない。

 それなのに、あたしを見掛ける度に必ず声を掛けてくる。


「やあ榊之宮さん。昨日はありがとう」

「う、うん。どういたしまして」


 八十神くんは一軒家で一人暮らしをしてて、それを知ったお母さんが料理を多めに作って、あたしが届けに行くことになった。だから、こうしてお礼を伝えてくる。

 彼が自分から特定の子に話しかけるなんて滅多にないから、毎回取り巻きの子たちに睨まれてしまう。





「ちょっと夕月! あんた八十神くんに色目使ったの? 興味ありませんみたいな顔して、こっそり取り入ったんでしょ」

「そんなこと……家が近いだけだもん」


 一人の時を狙って空き教室に連れ込まれ、三人の女子から詰め寄られる。口々に責められるが、ただ弁解するしかない。

 学年ひとクラスしかないから、クラスメイトは全員小学校の頃から知っている。長い付き合いの中でこんな風に仲違いしたことなんてなかった。


「もう八十神くんに近付かないで!」

「痛っ」


 突き飛ばされた拍子に後ろの壁で背中を打ってしまった。よろけて座り込んだあたしを見下ろし、フンと鼻を鳴らしてみんなは空き教室から出て行った。

 これ、いじめかなあ。


 あたしを突き飛ばした子……歩香あゆかちゃんは少しキツいとこもあるけど大人しい子だ。深雪みゆきちゃんも叶恵かなえちゃんもそう。あんな風に目を吊り上げて怒るようなタイプじゃない。

 なんだか涙が出てきた。


『大丈夫か』

御水振オミフリさん」


 青い光が目の前に現れ、側に寄り添う。そして、涙を拭うように頬に触れた。あたたかさも何も感じないけど気遣う気持ちだけは伝わってくる。


「うっ、うえええん」


 堰を切ったように涙が溢れ、声をあげて泣いたら、寄り添うように周りを飛んでくれた。慰めてくれてるんだ。あたしはそれに甘えて少しの間みっともなく泣いて悲しい気持ちを吐き出した。






「夕月!」

「夕月ちゃん!」


 涙が止まり、空き教室から出たところで声を掛けられた。


「千景ちゃん、夢路ちゃん」

「どこ行ってたの夕月。探したよ」

「ご、ごめん。ちょっと」


 クラスメイトの女子にいじめられたなんて言えなくて、あたしは言葉を濁した。泣き腫らした目に気付いた夢路ちゃんが悲しそうに眉をひそめる。


「私たちじゃ頼りにならないかもしれないけど、なんでも相談して」

「そうそう! アンタはすぐ一人で抱え込むんだから」


 二人はそう言ってあたしの左右に並び、腕を組んできた。さっきまでの悲しい気持ちがどんどん薄れていく。


「ありがとう。二人とも大好き」

「なによ急に」

「私も大好きよ、夕月ちゃん」


 照れる千景ちゃんと笑顔の夢路ちゃん。

 そんな二人に挟まれて、あたしは泣いてたことなんか忘れて笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る