閑話ホテル街へGO!前編



 彼女が立ち寄ったと思われるコンビニは、商業施設から少なくとも2キロメートル以上離れており、まだ着けない。



 左右の視力が顕著に違えば自転車の運転はし辛いとコンタクトレンズを普段着けない彼も理解している。しかし、前方の彼女は難なく運転していた。



 繁華街の外れへ来ると景色が一変し、とても未成年者は気兼ねなく立ち寄って良い場所で無くなっている。



 ラブホテルが数軒見えるだけでコンビニはおろか店すら見当たらなかった。ホテル『トンキン』の駐輪場に久遠が駐輪する。



 自動二輪車や原動機付自転車が並んでいる中、中高校生と分かってしまう自転車は悪目立ちしていた。



 彼も隣に駐輪しながら悪態を吐く。コンタクトレンズの左片方を忘れた話から薄々予想していた。



 「右目のコンタクトもコンビニで忘れているでしょ、あんた。これがどこからどう見たらコンビニなんだ、ええ?」



 白く洗練された外装と派手な色遣いの料金表看板が、どこか大人の領域である事を主張している。



 ゴールデンウィークの朝から集魚灯で人間の思惑通り、船体へ寄せられるイカの如く、人々はこのホテルを利用していた。



 彼の質問に答えず、久遠は自転車のかごに入れていた茶色のカバンと服らしきものが収納している袋を持ち、歩き出す。



 人差し指以外を曲げて、知努は過去に見たSFアニメで登場する機械の声真似をした。



 「携帯型心理診断鎮圧執行システム、ドミネーター、起動しました」



 「ユーザー認証、三中知努みなかつぐゆめ執行官、公安局刑事課所属、適正ユーザーです」



 日頃、援助交際のため頻繁にラブホテルへ訪れていないか心配になる程、彼女は堂々としている。



 「現在の執行モードは、デストロイ・デコンポーザーです。対象を完全排除します。ご注意下さい」



 思春期の中学生のように騒いでしまった事を自省した彼が手提げカバンを持ち、建物内へ入った。



 受付の中年女性に未成年者と見抜かれないか内心、彼は心配していたが、大人びた顔立ちの久遠のおかげで杞憂に終わる。



 部屋の鍵を渡され、2人は部屋がある階まで階段を使って上がっていく。まだ彼が何の承諾も出していなかった。



 ワインレッドの床、ダブルサイズのベッドが部屋に入った彼らの視界へ入る。浴室は奥だった。



 知努が靴を脱いでいる様子を土足のまま彼女は尻目に見ている。敢えて彼が注意せず彼女の自由に振舞わせていた。



 知努が久遠に接近する事は、恐らく彼の叔父が快く思わない。倉持家を4姉妹と仮定し、その中で1番、彼女は危険だ。



 しかし、性的虐待を受け続けた久遠が持っている性癖について彼は好奇心を抱いた。ゆっくりとベッドへ近づき、2人は座った。



 話題を切り出せない彼が黒い壁ばかり見ている。この色のおかげで照明に照らされた状態の行為も萎えずに済みそうだ。



 彼女と体を重ねてしまえば、後戻り出来なくなる。かつて彼女が恐れていた忌々しい父親に近づいてしまう。



 全く彼女の意図を汲めない知努は、彼女が膝に置いている手の甲に手を重ねた。



 すぐそばで見える彼女の首へ巻かれていた包帯が彼の情欲を掻き立てる。良い具合で傷付いている久遠は彼の好みだ。



 「やろう、傷や虐待なんて知った事か。俺に体を委ねるか、俺が委ねるか選んで欲しい」



 手を重ねられたまま久遠は向き直り、彼の膝へ座ってから愛らしく目を細めて囁いた。



 「いつも冷たい風に吹かれている私の体を捧げます。お願い、苦痛じゃなく快楽を下さい」

 


 まるでイギリスの長寿スパイ映画のように口付けし、舌を絡み合わせながら服を脱がし合っていく。



 一糸纏わぬ姿になった彼は、久遠の黒一色の服装で隠されている秘密を目の当たりにした。



 体の至る箇所に鞭で叩かれたような痕、縄を強く絞め付けて作ったような痕が付いている。



 内側に2ヵ所の留め具がある包帯のチョーカーを外すと慧沙が語った内容通りの傷を見つけた。



 背中を見ると左右の肩甲骨に小さい翼が生えているような火傷の痕が刻まれている。体の傷は彼の想定内だ。



 久遠は海外セレブ女優が夏場、プライベートで披露する様な水着を着ていた。



 季節外れの水着は、彼を誘惑するためだけに着ているようだ。すぐ知努の淫茎が硬くなる。



 胸元は大きく2又に開き、露出している腰から鼠径部にかけ無数のたわんだ黒い紐が伸びていた。



 彼女が穿いている美白と称するパンストは、煽情的な黒をより魅力的に引き立てていた。



 周りの女子の発育を気にする必要がない豊かな胸は、体の傷さえなければ様々な男から迫られる。



 「裸よりエロいぞ。じっとしていたら乱暴に犯してしまいそうだ。お〇んちんに悪い女だな」



 靴とパンストを脱がし、2人が浴室へ向かう。石造りの段の上に丸形の浴槽が備え付けられている。



 女子に体を洗って貰うと時間がかかってしまうため、彼は向かい合って2人の体を洗っていく。



 絹のように透き通った彼の白い肌、硬く割れていなくとも引き締まっている腹部を彼女は吟味している。



 少年らしさや女性らしさを感じられる顔立ちと高身長の彼が、密かに女子生徒の注目を集めている。



 二田部慧沙が太陽のような明るく格好良い男子生徒ならば三中知努は対なる存在だった。



 行動も対極的であり、能動的に女子へ挨拶する慧沙と違い、彼は友人以外に挨拶しない。



 互いの存在が魅力を引き立たせているため、女子生徒からすれば差別化されており、非常に満足していた。



 当然のようにこのような彼が野放しとなっておらず、従姉、幼馴染、彼の姉と宣う女性教諭などが管理している。



 尤もそれは身体的な意味合いであり、特別管理産業廃棄物のように扱いが難しい精神的な管理は他の人間がしていた。



 ボディーソープを付けた両手で彼女の上半身が洗われる。肌の上を彼の細い指は滑り、体の底に少しずつ熱が籠っていく。



 彼の異様に慣れた手つきを堪能している久遠が赤面しながら質問した。



 「三中くんは鶴飛さんの事が好きみたいですが、同じような洗い方しています?」



 「最初はそうだったけど、最近だと胸も使って洗う。その方が興奮するって染子曰く」



 真剣に交際を考えている相手とその他の女子で洗い方を変えている。それでも久遠にとって理想的な洗い方だ。



 横から水着の中や紐の下に指を入れられ洗われる心地よさに耐えきれず彼女は抱き締めてしまう。



 水着の生地を押し上げる様に乳首が硬くなり、口から熱い吐息が漏れ出している。



 爪先立ちとなり、右足を後ろへ上げながら伸ばし、彼女は無意識で体を押し付けていた。



 その様子を見た彼が撫でるように背中を洗いながら驚いている。彼女の股へ硬く長い淫茎が挟まった。



 「ヤバッ! 下手なスポーツより練習が大変なバレエ経験者かよ。嬉しすぎて俺の運気、使い果たしたかも」



 体中の無数に刻み込まれている生々しい傷ですら態度を変えなかった彼は理性が崩れ、押し倒しかける。



 相手を怖がらせたくないと思う知努の理性はすぐ戻り、一気に引き寄せた。唐突な出来事で彼女は目を見開いている。



 椅子へ座らされ、しゃがんでいる彼に下半身を洗って貰っていた時、ようやく出来事の意図を理解した。



 「あっ私、さっき、三中くんに力で無理やり組み伏せられ、犯されかけたのですね。それにしても凄い力でした。アレが男の子の力…」



 悲鳴すら上げる事が出来なかった刹那の身体的危機を反芻していると彼が謝罪する。



 「許してくれないと思うけど、ごめん。プライド高くて、別世界に生きているような美しいバレエ経験者とエッチ出来る事が嬉しいあまり、犯しかけた」



 色んな女体に慣れているような彼が男のどす黒い感情を見せた事はとても貴重だった。



 一瞬だけでも彼の生殖本能を暴走させた彼女は勝ち誇るように舌なめずりし、左足で彼の髪を撫でる。



 

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