第50話叔母の亡霊
演奏を終えた知努も先程の試合で溜まっていた疲労のせいか、ストロベリー・ワッフルと同じ布団に横たわり、寝てしまった。
先程、武器や素手で傷つけ合っていた2人の仲睦まじい光景を3人は見守っている。同じ服装のため兄妹に見えた。
規則正しい呼吸の音を聴きながら染子は彼の手を握っている。彼女の父親と喧嘩した時より酷く、顔へ痣が浮かんでいた。
試合が終わったにも関わらず着けていた白いゴムマスクをようやく文月は脱いだ。覆面プロレスラーの苦労がよく理解出来た。
就寝している今の状況を見計らったのかレモンジュースことユーディットはストロベリー・ワッフルの処遇について訊く。
本来の予定は知努がレモンジュースとコアントローに試合して終わりだった。しかし、ストロベリー・ワッフルの乱入が起きる。
文月は彼女が同じ服装をしている事から想定されていた出来事ではなかったかという可能性を示唆した。
三中知努が鶴飛の家にいる事は知羽と彼女たちの知り合いしか把握していない。そう考えると答えが見えてくる。
「うちらが監視する。大丈夫だし、こうなる事はうちらに伝えてなかっただけで多分、想定内だったと思う」
「分かったわ。チー坊があんなに頑張って戦った相手だから信じるわ」
起きているのか寝ているのか分からないストロベリー・ワッフルは彼の腕を取り、枕にした。興味本位で染子は豚の面をめくる。
すると見られないように顔の左胸へ顔を埋めた。起きている事が分かった彼女は立ち上がり、後頭部を踏み付ける。
約5キロの頭部と片足の重みを受けた知努は目覚めた。必死にストロベリー・ワッフルが助けを求めている。
独占欲が強いせいか知努を殺しかけた相手にすら遠慮なく暴力を振るっていた。彼は苦笑していた。
「良い匂いするせいでつい寝てしまった。染子にも胸枕するからおいで」
掛け布団の中に入ると頭を彼の右胸へ預けてから癖なのか履いていた靴下を脱ぐ。掛け布団の中は数枚の靴下が脱ぎ捨てられている。
ストロベリー・ワッフルにその事をからかわれ、染子は黙らせるため彼が穿いているスカートの中へ手を入れた。
彼女も同じように手を入れて2人は隠し持っている武器を取ろうとするが留めているバンドの取り外しに苦戦する。
互いにバンドの取り外しを妨害していた。彼が2人の尻を何度も叩いた事で武器の強奪は止まる。
しかし、すぐストロベリー・ワッフルが彼の指に絡め合わせた事で脱ぎ捨てられた靴下の投げ合いへ移行した。
数分後、鶴飛庄次郎は扉を開け、姉がシャーマンの散歩当番である事を伝える。運悪く、2人がタンスから出した下着を投げ合っていた。
「庄次郎、これが女子の正体だぞ。清廉の欠片もない奴らばかりだから女子校に幻想は持つな」
2人が投げた下着を頭にぶつけられていた知努は争いの傍ら後片付けしている。彼の従弟2人が部屋の隅で染子のアルバムを見ていた。
「お前ら、大胸筋矯正サポーターを投げ合うんじゃねぇよ。修学旅行の枕投げかよ」
注意している矢先、明らかにどこかから持ってきたであろう灰色の男性物下着が彼の顔へ直撃する。
脊髄反射で投げつけたストロベリー・ワッフルはどこか白けているような声を出した。
庄次郎も姉が幼馴染の下着を盗んでいた事実に驚いている。しかし、1番驚いていた人物は盗まれた被害者だ。
「鶴飛さん!? ちょっと、まずいですよ! 俺のおパンツ返して、どうぞ」
「おう、考えてやるよ。女子のパンツより穿きやすくていいから多少はね?」
知努は投げ散らかしている女性物下着を畳み、タンスへ片付けた後、強制的に盗まれた下着を抜き取る。
部屋の引き出しから5枚も盗み出されていたと思っていなかった彼は染子に冷淡していた。
3人の女子と男子中学生も彼女の行動を軽蔑するように無言で見つめている。それに対抗し彼女が床へ落ちていた彼の下着を被った。
「そうか、そうか、つまり君はそんな奴なんだな」
国語の授業で読んだ小説から台詞を引用し、彼がシャーマンの散歩へ向かう。帽子のように下着を被っている染子は呆然と立ち尽くしていた。
30分後、彼が散歩から戻ると女子達はアルバムを見て盛り上がっている。未だ文月とストロベリー・ワッフルはふざけた面を外していない。
何故か鶴飛家のアルバムに出産されたばかりの三中知努の写真が収められていた。小学生の楠本夏鈴に抱き上げられている。
ストロベリー・ワッフルの目線は写真の左端に映っていた微笑んでいる黒髪の長い女性へ向いていた。
それに気づいた時、彼の中で抱えていた謎が解けていく。ポーに紹介された謎の女、ストロベリー・ワッフルと再会、2つの出来事は繋がっていた。
ストロベリー・ワッフルが言ったように同じ伯母を持つ甥と姪の再会は避けられない運命だ。
血の繋がり自体がないため、1人の友人としてこれから付き合っていける。だが、再会を嫌がる人間もまたいた。
3人は娘と同じく金髪に染めている女性が生まれたばかりの知努を抱き上げている写真を見ている。
彼女は白木姉妹の母親だった。三中忠文が息子に執着している理由の1つは妹の面影を感じるからだ。
意図せず叔母と父親へ似ている事は彼自身、薄々気付いていた。三中の血がどこまでも付いて来る。
「チー坊にとってうちのママはどういう人だった?」
「厳しくて乱暴な人だったな。でも、あの人がいたからこそ今の俺はいる。感謝している反面、2度と同じ道を歩めない」
彼女の教え通り、後ろへ下がらなかった結果、三中知努は道を外してしまった。染子が彼の手を握る。
「みんな、知努を支えてくれている。それでいいじゃない。ユーディットはともかく色んな人間に迫られるなんてそうそうない人生よ」
励ましている彼女は懲りず頭に彼の下着を被っているため、せっかくの言葉が台無しだった。
辺りがすでに暗くなっており、彼は急いで一旦、帰宅し子犬のクーちゃんを妹から戻して貰う。
鶴飛の家の門の前でユーディットへ渡して文月と共に2人が帰って行く。ようやく彼は安息を得られる。
日本刀、短刀を所持していたストロベリー・ワッフルもいつの間にか帰っている。途中で職務質問を受けると厄介だった。
2度目の帰宅をして直後、彼がまた厄介事に巻き込まれてしまう。いつも知らないところで事は進んでいた。
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