第13話人使いが荒い家系

 

 3人の暴走により、台無しとなった親睦会が終わり、知努は帰宅しようと考えていたる矢先、厄介事が起きた。


 午後6時から狂犬病の予防接種する為、病院へ飼い犬を連れて行く予定の男子中学生が急遽行けなくなったとメッセージを送る。


 『今バーニングチヌラとデストロイソメコーが隣で大暴れているから行けなくなった』


 『必要な書類は靴箱の上に置いてあるから。あと興味本位で取ってきた姉ちゃんのブラをその下へ隠しているから戻して欲しい』


 メッセージの送り主、鶴飛庄次郎は、飼い犬の予防接種と間抜けな行為の尻拭いを要求していた。


 鶴飛の人間が一体、三中家の嫡男をどのような存在だと思っているか、彼は1度訊かなければならない。


 友達と遊んで行きたくない本音を隠し、鶴飛庄次郎は不慮の事態へ巻き込まれていると自己保身に走っていた。


 姉の下着で何を企んでいるか同性の知努は分かっていたが、やはり不快に感じる。盗みを働く人間に情けなど与えないと考えていた。


 しかし、庄次郎に説教する事が出来る貞操概念や清らかな心を持っておらず、黙認するしか無い。


 染子の部屋へ下着を戻す最中に彼女が見つけてしまえば、泣くまで痛めつけられるか、身ぐるみ剝がされ、晒し物となる。


 幸い、染子は何かを買う為、コンビニへ行っており、急げば見つからず戻せるかもしれない。


 危険な橋を平気で渡らせる人使いが荒い庄次郎に、煽りのメッセージを返信する。


 『それはご愁傷様。お前が苦労している間、俺は予防接種へ行った後にリビングでお前の姉ちゃんの味見しておくぞ』


 当然、その様な事をする気力と精力は残っていない。何より女装している状態でする癖が付けば面倒だ。


 小走りになりながら知努は居酒屋から鶴飛の家まで向かい、染子が訳も無く、遠回りしてくれる事を願う。


 見慣れた庭付き和風住宅の前に到着して、緊張しながら門を開け、玄関の扉に近付いた。


 匂いと足音で分かっているのか、玄関から離れた犬小屋の鎖に繋がれているロットワイラーは吠えない。


 生きた金庫という呼ばれているロットワイラーだが、少なくともこの犬は日中、小屋に籠っている。


 欧州で飼育されている個体より大人しく、ただ威嚇吠えする位しか番犬の役割が果たせない。老犬特有の毛並みの悪さと無縁だが、既に平均寿命の8歳だった。


 鶴飛家の人間に頼まれ餌やり、散歩、予防接種へ連れて行く事をしていたせいか、すっかり家の人間と認識されている。


 玄関へ入ると、靴箱の上に書類らしき物が入ったファイルは、何かを覆い被せるような形で置かれていた。


 そのすぐ横に飼い犬用の口輪とリードがある。初めから庄次郎は、面倒事を知努へ頼む気でいたようだ。


 書類の下に庄次郎が持って来た白い下着一式を見つける。無断で女子の部屋へ入る勇気は無い。


 脱衣所の洗濯機に入れる方法が無難だ。下着を取ろうと手を伸ばし、ゆっくり玄関の扉が開く。


 「野良猫が入り込んでいるわ。それにしても随分大きいわね」


 知努は向き直り、スクールバッグを持っている染子の姿が見え、動揺した。言い訳が思い付かず、謝罪する。


 庄次郎の間抜けな行動で彼女の信用を著しく失ってしまうかもしれないが、運悪く不慮の事故は避けられなかった。


 「魔がさしてしてしまいました。ごめんにゃしゃい」


 「どうせ庄次郎が洗濯機から盗んだんでしょ? それよりさっき知努に腰へイタズラされたせいで火照っているから、したいわ」


 彼は男性物の服装でしたかったが、頬を赤らめている染子の表情は焦らされたくないと分かる。


 据え膳食わぬは男の恥と古来から言われており、熱く柔らかい肢体を受け入れる事は男の甲斐性だった。


 口付けし爪先つまさき立ちのまま、両手を首に回している染子の口内を舌で味わっていると、若いおかげか、どこからか精力が湧いてくる。


 知努を苦しませて楽しんでいる節がある彼女に、わざと相手の思惑へ従わせる事は余程惹かれていないと不可能だ。


 普段の染子の性格なら無理やり屈ませようと脛を蹴る。知努の首を支えに、両足を腰へ回してしっかり抱き締めた。


 もし、倒れた時に染子が怪我しない為、腰を落としてから重心をやや後ろへ傾ける。


 事前に計画していたのか勢いなのか分からないが、こういった男らしい事を求めていたようだ。


 敏感な上顎を舐める度、半開きとなった染子の口から熱い吐息と共に悦楽の声が出ている。


 今朝の洗面所で、口付けしている途中から見物していた妹の知羽がたじろぐ程、2人は長く重ねていた。


 しかし、積極的な染子で無いが、1時間に1回鳴る時報のような感覚で口付けしなければ、知努の体はとても満足出来ない。


 悦楽の声を漏らしながら前後へ染子の腰が動いて、知努は下部から舌の付け根を焦らすように舐める。


 素早く下半身の筋肉が伸縮し染子は、ゆっくり唇を離して甘い吐息をかけながら媚びるような細い目つきで見つめた。


 「知努は本当にスケコマシね。」


 「なぁっ!? 一番言われたくない言葉スケコマシ!」


 雰囲気を壊してしまう下品な言葉を言われた知努の顔が赤くなり、片手でスカートの上から彼女の尻を撫でる。


 床へ染子を降ろしてから首と腰を解放され、知努は次の準備に入った。


 いよいよ愛を確かめ合う作業へ入り、2時間後、ツインテールの髪形に変えられた知努がうつ伏せで倒れている。


 彼の父親から借りたストッキングの局部が何故か露出していたおかげで、台無しにならなくて済んだ。


 体勢を3回程変える度、人妻、弟、妹の演技で盛り上げるように指示され、何とか無事済ませられた。


 彼女の歪み切った嗜好の犠牲となり、知努は小さい頃以来、頑なに拒んできたツインテールを作られる。


 妹の演技をしていた時が、一番染子は嬉しそうな表情を見せており、児童性愛者なのかもしれない。


 同世代の女子を姉と呼ばなければならない状況も辛かったが、何より下着泥棒の弟や妹になっている設定が知努は苦痛だった。


 暴力と違い、本来の人格を無視して相手が好む人格へ変えさせられる調教はなじられているようで興奮している。


 染子に2回目から主導権を握られたせいで、出す量が調整されて普段より優しく甘ったるい感覚へ襲われ、しばらく動きたくなくなっている。


 他人を支配してしまう甘い毒の様な感覚に成すすべ無く、知努の精神へ更なる敗北感が植え付けられた。


 半狂乱になり、女子のような嬌声を浅ましく上げながら壊されても良いと思い、知努の脳が悦んでいる。


 鶴飛染子は、どこかで知り得た妖艶な技術と知努の慕情を利用して精神が壊れる程、徹底的に嬲っていた。


 口から舌と唾液をだらしなく出していた知努の顔が何度も染子のスマートフォンに撮られており、いずれその写真は色んな人間へ見せられる。


 無理やり精力と気力を出した代償である虚脱感も加わり、肉体から彼の魂が本当に抜けてしまいそうだ。


 小学5年生の妹設定を付けた幼馴染が放心状態の為、染子はゴミのように彼を放置してから彼女の部屋へ行った。


 徐々に落ち着いてきた知努は起き上がり、カバンの中からスマートフォンを出して庄次郎へメッセージを送信する。


 『お前のせいで俺、染子姉ちゃんから玄〇されたぞ! 俺は足利市在住の〇ロゲヒロインか? しかもツインテール作られて妹の演技もしたんだぞ!』


 鶴飛染子はごく稀でも三中知努を妹にしたいという願望があったようだ。


 いつか本気で染子が妹へしようと企てるかもしれない恐怖が頭によぎながら彼はカバンの中にファイルを入れる。


 リードと口輪も一緒に持ってから玄関の扉を開け、外へ出た。心地良い夜風が吹いている。


 底が見えない欲望を表しているかのように青かった空は、すっかり黒く染まっていた。

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