130話 魔力圧縮

 シエラ視点


 アキトがかつて修行した場所に着いた頃、シエラたちはシンドール家の庭掃除をしていた。二日目で二人でも期限内に終わらせる余裕が十分ある。


 だがトラブルがなかったわけでもない。レイがアクアショットを真似しようとして魔力切れを起こしたのだ。魔力量が少ないので練習しようにも魔力量が足りない。回復して再チャレンジするもまた魔力切れ。フェリスに使い方を教えてもらうが下ネタで意味が全く伝わってなかった。体感しているのでなんとなくはわかるがうまく出来ないでいた。諦めの悪いレイにシエラが魔力が切れそうになったら箒での掃除を指示していた。上を目指そうとする姿勢はいいのだが、いちいち作業が止まってしまうのは良くないと判断したのだ。こっそりやろうとして叱られたのを機に大人しく掃除するようになった。


 そして二日目の夕方前くらいにシンドール家の主人であるシンドール伯爵からお茶会に誘われた。今はお茶会をするために屋敷の一室でシンドール伯爵と話すところだ。アキトがいないのでさすがに断りきれなかったのだ。


 シンドール伯爵と話すのは主にシエラだ。フェリスは黙々とお茶請けのお菓子を頬張っており、レイはこういうときは喋らないからだ。シエラにとっては気が気でない時間だった。


「彼がいないから大丈夫かと思ったがいらない心配だったな」

「はい。一度経験してますから。何日かはかかりますが二人でも十分です」

「期限内に終わるのなら何の問題もないさ。それにしても彼がいないのは珍しいね」

「別件で動いてまして……」


 話しにくい………どこまで話していいものか。この伯爵からどれだけ情報が漏れるかと考えると話しにくくて仕方ない。アキトがどこに行ってるかは別に答える必要はないかしら。とういうか知らないのよね。できれば雑談で済ませて欲しいのだけど………


「彼なら別に個人で依頼を受けることもあるだろうからね。それにしても前に見たときも美人だとは思ったが本当に美人だね。王妃様と良い勝負かもしれないね。ハハハッ」

「ありがとうございます」


 褒められるのはいいのだけど、何を狙っているのかさっぱりわからない。周りにも執事が二人いるし………しかも一人は人族で私たちをいやらしい目で見てきている。嫌という程浴びた目線だからよくわかる。特にレイなんてスカートが短く太ももを出してるから余計に視線を集めてる。


「………そんなに警戒しないでくれ。何も狙いはないよ。打算がないと言えば嘘になってしまうがね。個人的に君たちとは仲良くなっておきたいだけだ。いつか何かあった時に手を借りられればと思っている程度だよ」

「申し訳ございません。いつもはアキトがこういう時に対応をするものでして、慣れてないんです」

「まあ狙いはそのくらいだから安心してくれ。むしろ私に何かあれば何でも言ってくれ。彼と君たちにはできるだけ力を貸そう」


 アキトだけと言ってくれた方が楽なのだけどね。結局この人はアキトの力が狙いなんだ。私たちは橋渡しにしか過ぎない。そう考えると気楽になってくるわね。何でもって言ってるから言わせてもらおうかしら。アキトが後ろ盾になってくれるし。


「では、さっそく1ついいですか?」

「おお。もう何かあるとは思わなかったよ。何でも言ってくれ」


 確認も取れたし言ってしまおう。あまり貴族の家の者を悪く言うのも気が引けるけど………


 私は横に控えている人族の執事を指差して言う。


「あそこの人族の執事ですけど、下げていただけますか? いやらしい目で見られてとても不快です」


 私がそう伝えるとシンドール伯爵は彼を睨み、執事はシエラの発言に驚き心外だと言わんばかりに表情を変えて焦ったように言い訳を始めた。


「そんな失礼なことはしておりません! 濡れ衣です!」

「……君、これほどの美人だ。気持ちはわからんでもない。だがここは大人しく下がりなさい。これは命令だ」

「そんな! 私はただ職務を「これ以上私に恥をかかせるな!」……っ! 失礼します」


 シンドール伯爵に叱られ彼は頭を下げて部屋を出て行った。シンドール伯爵は頭を下げて謝罪してきた。この対応も私たちの後ろにアキトがいるからでしょうね。


「不快な思いをさせてしまいすまなかった」

「いえ……ああいう視線には慣れてますから。ですが、貴族様のお屋敷であの視線を感じるとは思いませんでした」


 私の後ろ盾にアキトがいるのだからこのくらい言っても問題ないわよね。せっかくだから存分にアキトを利用させてもらいましょう。アキトならきっとそう言うだろうし。それどころかさらに文句を言いそうだわ。


「すまないね。彼は人族だから……どうしても欲が出てしまうんだろう。もっとも一概に人族全員がそうとは言えないが、そういった我欲が強い者は多い」

「全員がそうでないこともわかっていますから……」

「だが、それが人族の良いところでもあるんだ。『欲』があるからこそ行動する。寿命が短いからこそ必死に行動する。何かを成すための行動力はずば抜けているよ。これは私たちエルフ等といった長命種にはあまり見られないものだ」

「そうですね……最近私もそういう人族には会いましたしわかります」


 王女リリィ王子ルーカスたちがまさにそうだった。やりたいことのために行動する人族だったし、王子ルーカスも気弱だったがアキトと話すことで吹っ切れて行動を起こすようになった。王族だからというのもあったかもしれないが、そんな彼らを見ているからシンドール伯爵のいうこともわかる。


「といっても、悪い方向に傾いてる者が多いがね。犯罪に走るものもいれば善行をする者もいる。種族ゆえの特徴みたいなものだからね」

「種族の特徴だといえばそれまでです」

「とにかくすまなかったね。そちらの二人もお菓子をもっと食べたかったら言ってくれ」

「む。じゃあおかわり」

「私もお願いします」


 私の気も知らずに二人はお菓子に夢中のようだ。いつの間にかレイもお菓子を食べている。早くお茶会終わらないかしら………。













 一方のアキトは墓の前で少しボーッとしていた。師匠であるキサラと過ごした日々を思い出し感傷に浸っていた。アキトにとっては父や母よりもキサラのほうが大きな存在だった。自分がどうやって拾われたかを聞いたときよりも今の方が感情に来るものがある。村では仕事の手伝いと同年代の子供たちと遊んだことと魔法の練習だった。ここでの出来事に比べると内容の濃さが違いすぎる。辛いことも楽しいことも嬉しいことも悲しいこともあった。アキトにとってこの小屋は思い出が多すぎるのだ。


 アキトはふと周りを見渡し辺りが暗くなり始めていることに気づいた。


「いけねぇ。ボーッとし過ぎた。今日は………軽く墓の周り掃除して………中も軽く掃除しないといけないか。飯も作らないといけないし…風呂も入りたい」


 やることが意外とあって焦る。師匠には悪いけど雑に済ませてしまおう。文句言われそうだけど許してくれ。雑に掃除して小屋の中に入る。


「思えば何にもせずに出てきたんだったな。でも荷物はだいたいアイテムボックスの中だったし問題はないか」


 とりあえず最低限で済まそう。テーブルと床を濡らした布で軽く拭いて終わりだ。ベッドは埃っぽいから野営で使うテントを小屋の中に出そう。拭いたテーブルで簡単に飯作って風呂だ。いちいち中級土魔法ストーンウォールで浴槽作ってたんだったな。しかも師匠の墓がある位置に。


 飯を食って外に出て風呂にしようと思ったのだが………


「いやー………俺がここに墓作ったとはいえな~………邪魔っすわ師匠。風呂いつもここだったじゃん」


 物凄く文句言われてる気がする。『アキトが作ったんじゃないか!』とか『私にどうやって移動しろって言うんだよ!』とか簡単に予想つくよね。『おっぱい揉ませてやるから許して』もありそうだな。


 仕方ないから墓の前に浴槽を作る。思えば器用に使えるようになったもんだ。シエラにも言われたけど便利だな。それにしても墓の前で風呂に入るという絵面はシュールだな。俺と師匠だから出来ることだな。

 ここでまともに夜空を見上げるなんてなかったけど、この時期は夜空が綺麗だな。雲1つないから星がよく見える。どうせなら師匠とゆっくり眺めたかったなと思う。修行に必死だったしそういうことを考える時間もなかったからな。仕方ないか。


 いろいろ頭に考えがよぎるが、今更だなと思うような内容ばかりだ。もっと師匠と遊びたかった。師匠といろんな場所に行ってみたかった。願っても叶わないとわかっている。考えても仕方ないと思い風呂から上がり体を拭いて髪を乾かしすぐ寝ることにした。


 翌朝。小屋の中にテントという変わった環境で一晩過ごした俺は師匠に狩り忘れたやつらを狩りに行ってくると言ってから出る。しばらく気配を探っていたのだが見つからないのでさらに奥に行くと知らない気配を察知。そこに行ってみるとトカゲがいた。いたのだが………


(え? なにあいつ? 俺あんなやつ知らん。いや…でもあいつだよな?)


 アキトは木の枝に乗り気配を殺して知らないトカゲを見ていた。記憶にあるトカゲと色も違えば大きさも違う。黒っぽかったのに赤色になってるし10メートルくらいだったやつが20メートルくらいになってる。明らかに違うのだが、一点だけアキトを混乱させる特徴があった。


(……昔俺が追いかけ回されてる時に師匠が蹴り飛ばした時の足跡残ってるしなぁ……首の方の皮? 鱗? にちゃんと残ってるんだよなぁ)


 師匠が蹴り飛ばした時に着いた後がしっかりと残っていた。なのであのデカくて赤いトカゲは俺の記憶にあるあのトカゲが進化したやつなんだろうか? たしか魔物って長い間生きてると進化するって言われてるよな………


 魔物は長い時間生きていると進化すると言われている。わかりやすい例がゴブリンやオークの上位種である。ゴブリンやオークは上位種が多いことから進化しやすい魔物だと言われている。他にも魔力を取り込むことで進化するとも言われている。つまりは種族の争いなどによって、倒した相手から魔石を取り込むことで進化するという説だ。魔物の生態はよくわかっていないため、この2つの説が有力だと言われている。


 そこで今目の前にいるトカゲだが、前者は普通に考えられるのだが後者だった場合、アキトはミスったなと思った。この山を出る時にアキトは追いかけ回された黒い虎を倒している。その際に魔石はおろか死体をそのまま放置したのだ。あの虎も高ランクの魔物なだけあって魔石は結構大きかっただろう。その魔石をあのトカゲが取り込んで進化したのでは? という考えがアキトの中にあった。


(俺のせいか? ………馬も鹿もいないってことは逃げたか……あいつにやられたかってことかぁ……)


 修行時のアキトを追いかけ回した魔物は主に黒い虎、トカゲ、黒い馬、角がえぐい鹿の4種類だ。このうちの馬と鹿はまだ見つけていない。以前なら結構すぐ見つかったはずなのだがいないということはそういうことだろう。


 アキトは気を取り直してまずはあいつに”簡易鑑定”をかけてみることにした。


 サラマンダー


(え? あいつサラマンダーなん? もっと小さいイメージだったけどデカイな!)


 ファンタジー生物の名前にテンションが上がるアキト。前世でも小さいのがいたような気がしないでもないが……だが今はどうやってこいつを狩るかが問題だ。以前のトカゲに比べて明らかに強くなっているのがわかる。速さと機動力で負ける気はしないが攻撃が通るかが問題だ。以前のトカゲなら1発で首を切り落としていただろう。強くなっているのがわかるサラマンダーに自分の攻撃が通じるかどうか自信がなかった。


(とりあえず一発やってみるか。あいつがどれほどの硬さかわからん。いつも通りやって斬れるといいんだけどな。斬れなかったら……2・3個策はあるけど………どれもやりたくねぇなぁ)


 サラマンダーを倒すのに考えた手はある。1つは中級土魔法ストーンウォールで囲っての水攻め。これはかなり広い範囲に頑丈なストーンウォールを出さないといけないのと、水魔法による大量の水が必要になるため魔力の消費が激しすぎる。

 もう1つはこれもストーンウォールを使用するのだが、ストーンウォールでサラマンダーを空高くまで打ち上げて一気にストーンウォールを消して高所からの落下の力で尖らせたストーンウォールに串刺しにする方法だ。これは魔力の消費はもちろんのこと、まず持ち上げられるかもわからない。


 出来ればこの二手は使いたくない。魔力消費も激しいし成功するかもわからないし失敗したときのリスクが大きすぎる。最後の一つも出来ればやりたくない。


 考えても仕方ないので普段通りのやり方で狩ることにした。


 気配を殺して接近しての不意打ち。シンプルで一番手っ取り早い。まずは気配を殺して接近する。木々の間を縫って移動しサラマンダーの首を狙える位置にまで来た。いつでも斬り掛かれる。刀を取り出し一度深呼吸してアキトは一気に距離を詰め首元を狙う。


(よし! もらった!)


 刀に中級風魔法のウインドスラッシュを纏わせ勢いよく斬り抜ける気で刀を振るアキト。この時点でアキトは勝ったと思ったが予想外の出来事が起きる。


 ガギィン!


「かってぇ!」


 アキトの予想に反してサラマンダーの首を斬ることはできなかった。ウインドスラッシュを纏わせた刀を弾かれ驚くアキト。ウインドスラッシュを纏わせていなければ刀が折れていたかもと思うとゾッとする。サラマンダーも突然の襲撃に驚いているが襲撃者のアキトを認識し攻撃に移る。


「ちぃ!」


 一撃で仕留める気でいたアキトにとっては予想外だった。こうなるとサラマンダーを狩るのは苦戦することが決定したようなものだ。むしろ狩れるかどうかすら怪しい。だがすぐに諦めるアキトではない。他にも攻撃の手段がないわけではない。さっき考えた使いたくない手を使うのはそれからだ。


 サラマンダーがアキトに噛みつこうと頭を振りながら接近する。その接近の速さはアキトの予想よりも速かった。


(意外と速いな。だがスピードで負けるわけにはいかねぇ。俺がどれだけテメェから逃げ回ったと思ってんだよ! 進化したのか知らんが今なら攻撃避けるのなんざ余裕だっつの!)


 余裕で避けるアキト。スピードはアキトが圧倒し、なおかつ小回りが利くためサラマンダーの噛み付き攻撃は喰らわない。サラマンダーも何度か噛み付き攻撃を繰り出すがアキトには通用しないと悟ったのか今度は尻尾によるなぎ払い攻撃を繰り出し始める。横からのなぎはらいは広範囲を巻き込む。森の中のため、周りの木々をなぎ倒しながら攻撃してくる。尻尾によるなぎ払いはアキトにとってはなんともないが、巻き込んだ木々が厄介だった。広範囲に散らばるためどうしても尻尾だけを避けるというわけには行かずに大きく動かなければならなかった。


 そしてアキトが取った選択は飛行魔法による上空への非難だった。飛び上がったアキトに対してサラマンダーは口を開けている。


「どうせ火吹いてくるんだろ?」


 予想した通りサラマンダーは勢いよく火を吹いてきた。吹いてくるのを読んでいたアキトは空から地面に素早く降り、火を吹いて上を向いているサラマンダーの顎を捕らえる。ウインドスラッシュを纏わせた刀をガラ空きの顎を斬りつけようとしたが、サラマンダーも反応が鈍いわけではなくアキトに対応してきた。素早く首を動かし、火を拭くのをやめてアキトに噛みつこうとする。素早く避けて仕切り直す。


(さすがに弱点のガードは硬いか……師匠みたいに蹴り飛ばして体制崩すか)


 アキトはサラマンダーの側面に回り込む。さすがに腹を蹴っても意味はないと思い首元を蹴ることにする。速さではアキトが圧倒しているため側面を取ることは容易い。


「どぉーーーらぁあああああ!!」


 アキトが全力でサラマンダーに飛び蹴りをお見舞いするが、サラマンダーは体制を若干崩した程度で、アキトが隙を狙って攻撃できるほどではなかった。


「ちぃ! 重すぎる。進化前だったら吹っ飛んでたはずなんだけどなぁ!」


 サラマンダーはちょこまか避けるアキトが鬱陶しくなってきたのか暴れ始めた。足や尻尾で周りの木々をなぎ倒して暴れている。好機だが現状アキトの攻撃は通じないし、隙を狙い急所を攻撃するのも飛ばされている木々が邪魔で難しい。


 攻撃の当たらないアキトと攻撃が通らないサラマンダー。一見互角かと思うが長期戦になればアキトが負けるのは必然だ。アキトは覚悟を決めてやりたくない手を使うことにした。ストーンウォールで囲んで水攻めは暴れているサラマンダーにはストーンウォールを壊されてしまうためなし。ストーンウォールで持ち上げるのも重すぎて無理だ。アキトが得意で便利なストーンウォールはサラマンダーに通用しない。だから一番やりたくない3つ目をやることにした。


 一旦、暴れているサラマンダーから距離をとった。


(武器への負担が大きいからやりたくないんだよなぁ)


 アキトがやるのは”魔力の圧縮”だ。









 ー ー ー ー ー ー


 アキトは武器を使うときは基本的に魔鉄製を使う。始めに師匠であるキサラから渡された剣が魔鉄だったということもあるが、それは魔力を通すことが出来るという点と比較的入手がしやすい材質だからだ。キサラがアキトに教えた戦い方は基本的に魔力有りきの戦い方だ。魔力がないアキトは一般人と変わらないだろう。むしろまだ子供な分一般人よりも劣るだろう。それは師匠であるキサラも似たようなものだった。


 この”魔力圧縮”をアキトはキサラに教えて貰わずに発見していた。剣に魔力を通すことは習ったが、その後のアキトがよく使用する通した魔力を使って魔法を発動し、剣に魔法を纏わせるということは自分で色々試した結果だった。のちにキサラから教える気ではいたと言われたが自分で気づいてくれてよかったとキサラは喜んだ。考える力を養うことは重要だったからだ。キサラにとって意外だったのはその先にある”魔力圧縮”をアキトが自分で発見したことだった。


 剣にウインドスラッシュを纏わせることができたアキトが思ったことは『どうすればもっと威力が出るようになるかな?』だった。ただ魔力を通すだけではダメ。魔力の量を増やすと威力は上がったが魔法が大きくなっただけだった。当時の修行中のアキトでは魔法を大きくなることを制御することは出来なかったのだ。そこでそれをなんとか小さく”圧縮”出来ないかと考えた。当時初級土魔法のストーンショットをアレンジして弾丸のようになる魔法を開発していたアキトはここにヒントがないかと考えた。ストーンショットの一つを小さく圧縮することで硬くし形を整えて回転を加えて打ち出すというのがアキトのストーンショットだ。魔力でできていることは変わらないと思いこれが出来るなら”圧縮した魔力”も出来るのではないかと考えた。


 アキトは”魔力の圧縮”をどうにかして出来ないかと考えた。キサラを頼ろうとも思ったが生粋の感覚派のため理解してもらえないだろうと思って話さなかった。キサラは考えているアキトの集中をどう乱そうか考えているだけだった。


 上手くいかず何かヒントがないかと思って色々考えたが手詰まりだった。キサラは何かを察したのかニヤニヤして見ていた。腹が立ったので何も聞かなかった。クソサイコパスババアめ!


 悩みに悩んでそれっぽいことは出来たが上手く制御できない。ただ圧縮するだけではダメだと気付き、形を整えることにした。その際にヒントになったのが持っている武器だった。キサラに貰った剣がどのようにして作られたものかはわからないが、いつか欲しいと思っていた刀の作り方は素人知識でどんなことをするか知っていたアキトは刀の製造工程にある折り返し鍛錬を参考にした。ただ漠然と魔力を圧縮のではなく魔力の板のようなものを複数重ねて厚みを増すイメージで圧縮すると上手く制御できるようになった。


 その段階までできるようになったからか師匠であるキサラが声をかけてきた。


「魔力の濃度変えられるようになったんだな!」

「あ~そっか! 濃度で考えれば良かったかぁ~」

「なんだよ~どんな考えしてたんだよ?」

「圧縮っすわ」

「あ~………アキトにはその考えの方が合ってるかもなぁ。私は料理の味の濃さとかで考えたりするからなぁ」

「魔力の板を何枚圧縮するかみたいな考えでやってるっす」

「それならアキトにはその考えの方が合ってると思う。どのくらいの板を何枚分圧縮するみたいな感じだな。もしくは一定の大きさの塊を圧縮かな」


 俺の考えと師匠の考え方が違うのがよくわかる。だけど考えやすい方でやるほうがいいらしい。


「ちなみに師匠……わかってたのに何も言わなかったっすよね?」

「うん! だって考えるのは大事だからな!」

「………それで? どうしたんすか?」

「そんな不貞腐れるなよ~おっぱい揉んでいいから機嫌直せ」


 遠慮せずに両手で揉む。この時すでに何度も夜這いをかけられていたので師匠であるキサラにセクハラするのに遠慮なんてしない。ショタの味を覚えたクソサイコパスババアにいいようにされてるのだから俺も好きにセクハラするのだ。この400歳越えババアの見た目が20台前半で男の欲望を体現するかのような体で顔が絶世の美女なのだから手に負えない。股間が言うことを聞かないのだ。聞かせる気もないのだが…まったくエロフは最高だぜ! だけど修行で疲れ果てている時に夜這いをかけられる身にもなって欲しいものだ。


 師匠のおっぱいを揉みながら話を聞く。


「それでなー。アキトの言い方で言う”魔力圧縮”出来るようになったんだろ?」

「これがそうなのかわかんないすけど……まあ出来るっす」

「武器に通す前に、それで魔法を使ってみろ。武器に通すのは圧縮した魔力で加減ができるようになってからだ」

「何か理由あるんすか?」

「魔力を通せる素材には魔力に対する耐性というか許容量みたいなものがあってな。いきなり加減出来てない圧縮された魔力を通すと武器が壊れるかもしれないんだ。魔鉄やミスリルとかだが魔鉄はその耐性が低いんだ」

「いつも魔力通して使ってるじゃん」

「普通に通す分ならよっぽどの量を込めない限り壊れない。だが圧縮された魔力は違う。圧縮されてるから魔力の濃度が違う」

「ちょっと待った!」

「なんだよー説明の途中だぞ! あとおっぱいに顔を押し付けながら言うんじゃない! 絶対集中できてないだろ! 今度からは説明の時におっぱい揉むの禁止な!」


 揉んでいるうちにいつのまにか師匠のおっぱいに顔を埋めていたようだ。おっぱいの魅力に抗えなかった。だが今はそうじゃないんだ。おっぱいから顔を離して俺は話し出す。


「理屈になってきたけど説明できるの?」

「ほぼ終わりだからいいんだよ! その濃い魔力に魔鉄が耐えられないんだよ。だから魔力の圧縮量を制御できるようにならないといけない。どれだけ圧縮するとどのくらいの威力の魔法になるかしっかり把握する必要がある」

「あーなるほど。でも俺どのくらいなら魔鉄に込めていいかわかんないっすよ」

「ある程度は私が教えてやるが、あとは実際に試すしかないな」

「魔鉄の剣これしかないっすよ」

「私が持ってる魔鉄のナイフが何本かあるからそれで実験しろ。全部壊れたら私が買ってきてやる」

「ういっす」


 それから”魔力圧縮”の練習を始めた。実際に魔法で試してみると威力が何倍にもなった。師匠曰く威力だけなら俺たちのウインドスラッシュの使い方だと普通に魔法で使うより武器に通して使う方が威力が出るとのこと。ウインドスラッシュの中に芯があるようなものだそうだ。普通の使い手は魔鉄の武器などに魔力を流すだけで切れ味が上がるのと同じだそうだ。俺や師匠がよく使う武器にウインドスラッシュを纏わせるのもかなり威力が上がるそうだ。


 どの程度の魔力を圧縮するかの感覚をつかむのに時間はかかったが、ある程度魔力制御は出来ていたので魔法の威力調整はすぐに終わった。だが慣れるまでは練習だと師匠に言われた。実験用の魔鉄のナイフをこわすわけにもいかないからな。慣れてからでも十分だし、急ぐ必要もなかったから3ヶ月くらいは練習し続けた。


 初めて圧縮した魔力を魔鉄のナイフに通した時は上手くいったのだが、何回も練習していたらいきなりダメにしてしまった。ナイフがボロボロと崩れていくのは驚いた。やりすぎるとこうなるそうだ。つまり魔力圧縮を使えば使うほど魔鉄の寿命は減っていくということだ。なのでよく使う武器には使わずにナイフとかで使うのがいいらしい。つまりは使い捨てできる武器と相性はいいがコストはバカにならない。その分の攻撃力はあるものの使い所は限られるだろう。


 だが師匠曰くミスリルになるとあまり気にしなくていいそうだ。ミスリルは魔鉄の何十倍も耐性が高いそうだ。なので武器は最低限魔鉄だけど長く使うのならミスリルやヒヒイロカネ、アダマンタイトがいいと教えてもらった。ヒヒイロカネやアダマンタイトはかなり耐性が高いからほぼ気にしなくていいらしい。


 やり方はマスターしたが武器が魔鉄の時は出来るだけ武器には通してはやらないようにと言われた。使うなら普通に魔法でやるようにと。武器を壊さないためだそうだ。使う時はしっかりと武器のことを把握するようにとしつこく言われた。


 ー ー ー ー ー ー










 目の前のサラマンダーには魔法で魔力圧縮をやってもおそらく通じないだろう。刀に通して直接斬るしかない。というよりそれが一番威力が高い。刀でやるのは初めてだがこればっかりは試してみるしかない。この魔鉄でできた刀は魔力の通りが良すぎるから注意が必要だ。今の俺が本気で”魔力圧縮”をすれば壊れてしまうだろう。だが本気でやる必要もないと思っている。全力でやる時は魔力の板を20枚分圧縮する。それが今のアキトの限界だ。


(じゃあ、とっととやるかぁ………)


 アキトは魔力の板を5枚分圧縮し刀に流す。流すと刀が青く光り出す。これは魔力の色と言われている。濃い魔力は視認することが可能だ。色は人によって違い、アキトは青色で、キサラは白色だった。師匠が俺が”魔力圧縮”を出来るようになったとわかったのはこれが要因だ。


 圧縮した魔力を刀に流し、その魔力を使ってウインドスラッシュを纏わせる。圧縮し普段の5倍も濃い魔力で生成されたウインドスラッシュを纏った刀は青く光り輝いた。


(これならいけるな)


 刀の魔力の通りがいいからか圧縮した魔力が扱いやすい。だが込めた魔力量は変えられない。いささか魔力が多すぎた。刀でやるのは初めてだから仕方ない。


 準備のできたアキトは暴れているサラマンダーの首目掛けて駆け出す。暴れているからアキトに意識がいっておらず狙いやすいはずなのだが、周りの木々がサラマンダーによって壊され細かい木の枝や破片で近づきにくい。横から近づくのはやめて真上から一気に首を斬り落とす作戦に変える。飛び上がりサラマンダーを捉え急降下する。


「せいっ!」


 上空からサラマンダーの首目掛けて圧縮された魔力で生成されたウインドスラッシュを纏った刀を振り下ろす。速さで圧倒しているアキトの攻撃はあっさりと巨大なサラマンダーの首に通った。太い首は一刀両断されサラマンダーは命を落とした。アキトが刀を振り下ろした先の木々と大地がアキトの斬撃によって裂けていた。ここまでの威力が出る理由は圧縮した魔力でウインドスラッシュを使ったのもあるが、普段からウインドスラッシュを研鑽しているアキトのウインドスラッシュだからという理由もあった。


(刀だからか加減がわからん。というか刀だとこんな威力になんのかよ。魔力の通りが良すぎると加減が難しいな)


 アキト自身も予想の遥か上の威力に驚いていた。刀でやるのは今回が初めてだったので加減がわからず、キサラに貰った剣でやる感覚で試してみたが結果は威力が出すぎてしまった。もっとも、キサラに貰った剣でも一度しか試したことがない。理由は魔鉄が魔力に対する耐性が低く何度も試せなかったからだ。武器の作り手や、使った魔鉄の純度によって変わるため実際に試すしかないのだ。だからアキト自身も加減ができないでいる。


(慣れるしかないが………無理だな。多分だけど…慣れる前に刀が壊れるなこりゃ)


 魔力の通りが良すぎるせいか今使っている魔鉄の刀はおそらくあと一回しか圧縮魔力に耐えられないだろう。きっと魔力の通りが良いから魔力への耐性が下がっているんだろう。アキトは予想だにしない出来事に少し困惑した。


(普通に魔力を通して使う分にはかなり扱いやすいんだけどな……仕方ないか。予備の剣を買っておいてもいいのかもしれないな。もしくは国王オヤジにミスリルの刀貰うかだな。国王オヤジを頼るのは気がひけるな。何を要求されるかわからん。それより、今はこいつをアイテムボックスに入れて移動しよう)


 思考を切り替えてアイテムボックスにサラマンダーを入れる。大きいから入れるのも一苦労だ。


 その後一度小屋に戻って一休みしてからまたアキトは狩りに行くのだった。


 サラマンダーを狩った日は午後も獲物を探したが何も狩れなかった。次の日には違う方面に遠出して狩りに行った。運良くそこでワイバーンを3匹発見したのですかさず空中戦を仕掛けて3匹とも狩った。久しぶりの空中戦はエキサイティングだった。空中戦はたまにしかやらないから久しぶりにやると楽しかったりする。戦闘民族感があるが実際に思うように飛べて思うように魔物を倒せると楽しいのだ。それにたまにはしておかないと感覚が鈍る。


 ワイバーンを狩って、小屋に戻ってきて夕食を食べて風呂に入って寝るのだが、アキトは少しだけここを離れたくなかった。キサラと過ごした思い出、楽しかった日々の未練がまだアキトには残っていた。これ以上ここに居てはいけないということに気づき、明日の朝一で出ることにした。小屋の掃除も済んでいるし、キサラの墓も来た時よりもちゃんと掃除した。これで怒られないだろう。


 翌朝、朝食を食べてすぐにアキトは出ることにした。ここにいるとキサラのことを思い出してしまうから。


「………また来るよ」


 キサラの墓の前でそう呟き、アキトはその地を後にした。

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