127話 別れ

 そして翌日。城に来て前と同じ部屋で待機だ。案内のリーネから今日は待ち時間が長くなるかもしれないと言われた。昨日の襲撃の件とかいろいろあるんだろう。仕方ないからのんびり待たせてもらおう。


 のんびり待っているのだが………さすがに長すぎる気がするな。リーネが替えの茶を出してくるほどだ。部屋で待機しているがずっと立ちっぱなしで疲れてきたんじゃないか心配になるくらいだ。


「なぁリーネ。ずっと立ってるのは疲れるだろ? 座ったらどうだ?」

「座るといい。普段あいつの相手してて苦労してるだろうから」


 フェリスまで気を使い始めた。姫さんを抑える仲同士だからな。といってもフェリスは話しかける前に物理的に止めるだけだが……


「いえ……仕事ですので」

「無理矢理座らせるぞ?」

「………そういうことでしたら座らせていただきます。ナニをされるかわかりませんからね」

「そうそう座って休んどけ」


 昼には終わるかなと思ってたけど、報告会合わせると多分こりゃ一日コースだな。


 リーネが座ってからというもの、リーネがフェリスに普段の姫さんの愚痴を話しているのだが止まらない。会った時から思ってるがやっぱり苦労してるんだな。フェリスもしっかりと聞いて共感している様だ。この2、3日で姫さんの厄介さをフェリスも感じたんだろうな。


 というかリーネ、そんなこと言っていいんか? ここ城やぞ? どこで誰が聞いとるかわからんぞ? 一応天井にも誰もいないのはわかってるんだが不安になるな。いきなり扉が開いて仕事モードのモニカとか来たらどうするんや? あ、仕事モードのモニカなら大丈夫か。ちゃんとノックするやろうし。


 そう思っていたら扉がノックされた。リーネが慌てて扉を開けに行った。扉が開くと王女リリィ王子ルーカスが部屋に入ってきた。その後に続いて国王オヤジと王妃に姫さんと宰相に騎士団長と兵士が何人かとヴィクトリアンの騎士が入ってきた。


「待たせたわね」

「すまない。かなり待たせてしまったようだ」

「昨日のあれがあるからなぁ。仕方ないだろ。あー俺らにそのことは何も知らせなくていいからな。面倒ごとはごめんだ」

「はっはっは。元から話すつもりもないわい。あれはワシらの問題だ。お主はあくまでワシらの依頼を受けただけだからの」


 国王オヤジがそういうんなら大丈夫だろう。いらない心配だったな。


「それで、俺たちは報告会っt「アキト様お疲れ様でした!」


 姫さんが空気を読まずに俺に突撃してくる。王妃がいるといつも捕まっているはずなのだが抜けてきた様だ。だがフェリスがいることを忘れてはいけない。


「ふん!」

「この! またあなたですかってキャアアアアアアアアアアア」

「ふんー!」


 フェリスはまたしても姫さんの頭を脇に抱え、そこから姫さんのドレスの腰のあたりを掴んで体が逆さまになるまで持ち上げ、姫さんの背中を容赦なく床に叩きつけるように倒れこんだ。前はソファーだったが今度は容赦なく床だ。ドレスを着ていようがお構いなしのブレンバスターだ。


「いたああああああああああああい!!」


 さらにそこから姫さんをうつ伏せにして跨り両手で顔を掴んで引っ張り上げる。キャメルクラッチだったかな? 本当に一体どこで覚えてきたんだ?


「ふぐぐぐぐぐ!」

「うるさい!」

「~~~~~~~!!」


 口を塞いで喋られなくした様だ。まあ放っておいていいだろう。王女リリィが必死に笑いを堪えている。宰相も必死に笑うのを堪えている様だ。国王オヤジは苦笑いしていて王妃は真顔だ。


「……改めて礼を言わせてくれアキト。昨日は助かった。ありがとう」

「んっ…んん。私からも言わせて。ありがとう皆。5日間楽しかったわ! 本当にサンドリアスに来て良かったわ」


 二人とも姫さんのことはスルーを決め込むようだ。


「どういたしまして。昨日のは仕事だから気にすんな」

「楽しんでもらえたなら良かったわ。私何もしてないけどね」

「私も何かした覚えないですけど楽しんでくれたなら良かったです~」


 実際何かしたかと言われると昨日のを除けば何もしてない気がするんだよなぁ。感謝してもらえるのはいいんだが、何か複雑だなぁ。


「そんなことないわ。アキトには魔導連接剣を含めていろいろ教えてもらったし、美味しいものを食べさせて貰ったわ! シエラたちも私に普通に話してくれて嬉しかったし楽しかったわ。あんな女の子同士の話なんてしたことなかったら凄く楽しかったわ!」

「ん~普通のことしかはなしてないんだけどねぇ」

「普通のことでしたねぇ」


 王女リリィが大げさに言うものだからシエラとレイが軽く困っている。これが王族と平民の感覚の違いだろうか。王族ってのはやっぱり感覚がズレてるのかね。


「アキト。君には本当に感謝している。君は僕の進むべき道を示してくれた。ありがとう!」

「示してねーよ。俺はただ助言しただけでお前が自分自身で決めたことだ」


 昨日までの王子ルーカスじゃないな。胸を張ってしっかりと前を見ている。自信に満ちているとでも言えばいいだろうか。優柔不断でうじうじしていた王子ルーカスじゃない。


「それで……一つお願いがあるんだ」

「私からもお願いがあるの。シエラたちにもね」

「聞ける内容ならいいが……さすがにヴィクトリアンに来てくれなんていうのは無理だからな」

「来てくれるなら来て欲しいけどね。絶対行かないって言うのわかってるもの」

「姉上の言う通りだ。それに、さすがに陛下の前でそれは言えないさ」


 冗談で言うのもありかもしれんなぁと思ってしまった。国王オヤジが焦るのを見るのも一興だな。なかなか面白そうだが、今は目の前の二人のお願いが何か聞くとしよう。


「それで…お願いなんだが……」

「言いにくそうにしてるが、とりあえず言ってみ? 意外とあっさりいいぞって言うかもしれんぞ?」

「じゃあ……その…………友達に……なってくれないか?」

「はあ?」


 何を言い出すかと思えばこれか。俺を含めシエラとレイもあまりにも今更なお願いに呆れている。驚く通り越して呆れてしまった。やっぱり王族というのは感覚が平民とズレている。こういうのはハッキリ言わんとわからんだろうな。


「ダメかしら? 私もアキトやシエラたちと友達になりたいんだけど……」

「ダメ………か?」

「「はぁ~~~……」」


 俺とシエラがデッカイため息をついた。


「あのな。やっぱりお前ら王族ってそういう感覚おかしいよな?」

「別におかしいつもりなんてないわよ~」

「いいえ。おかしいわ。私もそう思うもの」

「うっ……シエラに言われるとそう思っちゃうわね……」


 王女リリィ王子ルーカスは残念そうにしている。きっと友達になって貰えないとでも思っているんだろう。住んでいる国も違えば種族も違う。この世界では遠くの友達に会うのも一苦労だからな。一苦労どころか下手したら命がけで会いに行かないといけないくらいだ。とっとと伝えてしまおう。


「いいか。はっきり言うぞ。もう俺たちは友達だろ。今更改まって言うことじゃねーんだよ。恥ずかしいからわざわざ言うな」


 俺の言葉に二人は驚いた表情をしている。二人とも時が止まったかの様だ。王子ルーカスが先に立ち直った様だ。驚いた表情から嬉しそうな笑顔になった。


「はははっ。そうだな。アキトの言う通りだ。僕たちの感覚はおかしかったみたいだ」

「すっごく恥ずかしくなってきたわ」


 王女リリィは両手で顔を押さえて恥ずかしがっている。そこまで恥ずかしがらなくてもいいと思うがね。慣れてないんだろうな。


「不安に思ってたのがバカらしくなってきた。とにかく、ありがとうアキト。楽しかったよ。さっきはヴィクトリアンに来てくれなんて言えないと言ったが、いつか観光にでも来てくれると嬉しい。今度は僕たちがヴィクトリアンの王都を案内するよ」

「いつか気が向いたらな」

「私たちが生きてる間に来てよね! エルフの感覚で来られると私たち死んでるかもしれないから!」


 確かにエルフの寿命で考えれば人族の寿命は短い。100年後とかには二人とも死んでるからな。そのうち遊びに行こう。俺の前世の記憶があるからまだ感覚は人間だからな。10年以内には行くかもしれないな。


「それでこれを渡しておくよ。これをヴィクトリアンの王都にある城の門番に見せれば僕たちに連絡がいくから」

「冒険者ギルドのギルド証みたいだな」

「僕たちが懇意にしている相手という証明書みたいなものさ」


 名刺サイズの金属の板を二枚渡された。それぞれ王女リリィ王子ルーカスの名前が彫られており真ん中には紋章が彫られている。おそらくヴィクトリアン王国の紋章か王家を示す様な物だろう。


「ふ~ん。わかったよ。覚えてたら見せるよ」

「いや、見せてもらわないと困るんだが…アキトが来ても僕たちがわからないじゃないか」

「その時は門とか壊せばいいんじゃねぇか?」

「やらないでよ! 絶対にやっちゃダメよ! お願いだからそれ見せるのよ!」

「私がアキトを抑えるから大丈夫よ」


 シエラがそういうんなら大丈夫だと思うぞ。おそらくきっと多分。


「殿下。そろそろ……」

「もうそんな時間なのね」

「そうか………わかった」

「ああ、もう帰るのか。なら見送り行くかぁ。おーいフェリス! 王子ルーカスたちの見送り行くから姫さんなんて放っておけ」

「ん。わかった。フンッ!」

「ん゛っ!」


 何かしたのか姫さんが変な声を上げた。フェリスが姫さんを放ってこっちに来た。姫さん動かないけど死んでないよな?


「ちゃんと生きてるから大丈夫」


 心を読まれた様だ。生きてるんならいいか。姫さんしぶといからな。あれくらいじゃ何ともないだろう。リーネが近寄り生きていることを確認したようだ。


 そして俺たちは王女リリィ王子ルーカスを見送るために城の入り口にまで来た。国王オヤジたちは報告会のために待っているそうだ。こういうのは国王自ら見送りに来たりはしないようだ。


 入り口前の広場には馬車が複数台並んでおり、いつでも出発できる様な状態みたいだ。


「名残惜しいが……ヴィクトリアンに帰るよ」

「ああ~帰りたくないわぁ~。また面倒臭い奴らの相手しないといけないじゃない」

「そういう親の元に生まれたんだから仕方ねぇだろ。諦めろ」

「はあ……私も冒険者になろうかしら。うるさく言われそうねぇ」


 馬車の前で愚痴り出す王女リリィ。気持ちは分からんでもないが、その分贅沢な暮らしは保証されてるんだから我慢してもらうしかない。


王女リリィ。魔導連接剣だが、ちゃんと頭使って動きの練習しろよ」

「わかってるわ。帰りも休憩や野営の旅に練習するわ。どんな使い方が私に合ってるかいろいろ試すわ。シエラ、フェリス、レイ5日間ありがとう。楽しかったわ。いつかヴィクトリアンに来てね」

「こっちも楽しかったわ」

「覚えてたら行く」

「ええ~ちゃんといつか行きましょうよ~」


 女性陣は女性陣で別れの挨拶もあるだろう。俺は王女リリィには言いたいことは言ったからな。男は男同士だ。


「アキト。次に会う時を楽しみにしているよ」

「その時はお互いデカくなってるんだろうよ」

「そうだな。お互いまだ小さいし、これから大きくなる。アキトに会っていろいろ話せて楽しかったよ」

「まさかあんな話するとは思わなかったよな」

「ハハハッ。アキトから話して来たんじゃないか。あの時は驚いた」

「そういやそうだったな。ついでだ。最後に興味を持つかわからんがいいことを教えてやるよ」


 そう言って俺は王子ルーカスと肩を組んで小声で話す。


「お前まだ向こうの学園に通ってるんだよな?」

「? そうだが…それがどうした?」

「こっちの学園みたいに男女で制服はあるよな?」

「あるけど……」

「制服の上からデカイおっぱいを揉むのもいいぞ」

「ブフッ!」


 ルーカスが吹き出した。汚い。


「何を言い出すんだ!」

「想像してみろ。制服を着たまま、学園の教室で揉んでその先をすることを」

「…………興奮する」

「だろう? だからよ。妾を探すんなら同年代の学園生か、ちょっと歳上の学園を卒業した女を候補に入れておけ」

「何故歳上の学園を卒業した女性を!?」

「もしお前が初めてだったとしても年上なら補助して貰える。さらに歳上の女に制服を着せて、『もう似合わないわ……』とかって恥ずかしがっている所を想像してみろ。そういう恥じらいも良いものだぞ」

「アキト……天才か!」


 こっちの世界に”コスプレ”という文化はないだろうと思って言ってみたが王子ルーカスの反応を見る限りないだろうな。物好きな奴が隠れてやってるかもしれないが王子ルーカスは知らないようだ。あとで国王オヤジに言ってみよう。シエラたち用の制服を貰えるかもしれない。前世ではそんなこと出来なかったからな!


「ありがとうアキト。僕はかけがえのない友を得たようだ」

「大袈裟だな。そういうのを共感してくれる相手がいると楽しいからな」


 俺たちは固く握手を交わした。いつかまたこういう頭の悪いバカな話を肴に酒を飲みたいものだ。こういうバカな話をしようにも周りに男がいないから出来ないんだよな。居てもクローや国王オヤジだし、周りにも女性がいるから話せないのだ。今度王子ルーカスと話す時は経験済みだろうからもっと生々しくバカな話を出来るかな。


 王女リリィとも握手を交わして、遂に別れの時だ。


「それじゃあ………もう行くよ」

「名残惜しいけど……またね!」

「ああ。またな」

「道中気をつけてね」

「また遊びに来るといい」

「また一緒にご飯食べましょー!」


 そう言って二人は馬車に乗って、城を後にした。疲れたけど王女リリィ王子ルーカスと居るのは結構楽しかったから、少し寂しいな。


「言っちゃったわねぇ」

「そうだなぁ」

「寂しい? 同年代の男友達なんて王子ルーカスが初めてだったんじゃない?」

「さすがに初めてじゃないよ。育った村には何人かいたさ。でも王都に来てからは王子ルーカスが初めてだな」

「そのうち会いに行きましょうね」

「そのうちね」


 こうして王女リリィ王子ルーカスの二人と過ごした5日間は終わった。あとは報告会をして報酬を貰うだけだ。さっさと終わらせてしまおう。


 この依頼を一番楽しんでいたのはアキトだ。ああいう話をするのは久しぶりでとても楽しかったのだ。一人の男の性癖を歪めてしまった気がしたがあのくらいなら軽いものだし、アキトはまあいいかと流すのだった。

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