第10話 キサラとの会話

「ああああああああああああああ!!」


 俺は空を高速で飛んでいた。否、自分が飛んでいるのではない。実際に飛んでいるのは俺の師匠たるキサラだ。抱えられキサラの家まで移動中なのだ。

 俺の反応が面白いのか無駄にアクロバットな飛行をするのだ。俺が叫ぶたびに大声で笑っている。


「ハッハッハッ! どうだー! 地球人憧れの空中飛行だぞー!」

「ああああああああああああ!!」

「そんなに喜ぶなよー!」

「喜んでなあああああああああ! 吐く! 吐く!」


 吐きそうになるのを我慢し続け、もう限界だというところで止まった。そこには小屋よりは少し大きめの建物があり、建物の前が10メートルほど木がない少し開けた場所だった。小屋の少し前にキサラは降り、俺を下ろしてくれた。


「ここが私の家だ。ここで一つ屋根の下、男女2人同棲生活を過ごして地獄の修行をする場所だー!」

「………オロロロロロ」

「吐くんじゃない。幸先悪いなー」

「………吐きますってあんなの」

「そうか? それでどうだった? 空の旅は?」

「………ゆっくりだったら最高でしたね。ていうか空を飛ぶのは魔法ですか?」

「うん。魔法だ。無詠唱できるんだったら多分アキトはすぐ飛べると思うぞ」

「え!? 本当ですか!?」

「うん。前世でアニメ見てたと思うし、空を飛ぶのなんて想像つくだろ? あれのイメージだ。一言で言うと『魔力で飛ぶ』だな。それくらいしか表現のしようがないんだけどな! やってみな!」

「………できるかな? …魔力を使って飛ぶ」

「最初は『魔力で浮く』のほうがいいかもしれないな」

「魔力で浮く………おおおお!」


 なんと浮いたのである。こんな簡単に飛べるなんて思わなかった!


「簡単だろ? じゃあそこまで。今日はもう日が沈むから修行は明日からにしよう」

「あ…はい」


 お預けである。せっかく飛べたのに!


「そんな残念そうな顔するんじゃない。魔法は逃げやしない。それよりも夕食だ!私の取って置きのビーフシチューをご馳走してやる!」

「作れるんですか!? ビーフシチュー!」

「調味料とか苦労したけどな! こっちの世界の食事はクッソマズイからな! これほど前世が料理人でよかったと思ったことはない! しかも三つ星の料理長だったんだぞ!」


 自慢するように胸を張り、凶器おっぱいが揺れる。たまらんな!


 前世が料理人だったとは! しかも三つ星! これは期待出来る! 小屋に入り俺のことやキサラのことを話しつつ料理ができるのを待った。9割キサラのことだった。こんな山の中に1人で住んでいるからかキサラはすごく喋った。


 実はキサラ・レインという名前は両親から英雄譚として聞かされていた。詳しく伝わっていないのか両親が知らなかったのかわからないが、内容はかなり大雑把で昔に国と国、大陸と大陸を巻き込んだ戦争を終わらせた英雄とのこと。キサラに聞いてもはぐらかされたのであまりいい内容ではないのだろう。

 どこに行っても英雄扱いされるのが嫌で山に1人住んでいるそうだ。


 昔は冒険者をやっていてかなり派手に活躍したそうで有名だったそうだ。内容は教えてもらえなかった。

 さらにこの国の生まれではないとのこと。ミドルネームがないことから予想はしていたが別の国どころか別の大陸の生まれらしい。海を渡って今の大陸に落ち着いたそうだ。


 他にも暇を持て余して色々遊んでいたそうだ。挙げ句の果てに超高級娼館で働いていたこともあるらしい。「1番人気だったぞ!」と自慢げにドヤ顔をされて言われた。病気とかはすでに対策があるそうで何ともなかったそうだ。辞めるときにはかなり引き止められたが暴力に物を言わせて辞めてきたらしい。


 そんな話をしているとビーフシチューができたようである。


「おかわりもあるからなー! 好きなだけ食え!」

「いただきます! ………うめぇぇぇぇぇえええええええ!」

「ハッハッハッ! 慌てなくてもたくさんあるからな!」


 前世を含めて一番美味い食事だった。体が小さいからたくさん食べることはできなかったが機会はたくさんあるだろう。


「ごちそうさまでした」

「お粗末! じゃあ修行は明日からだ。地獄を見せてやるぜ!」

「こんなに美味しい食事にありつけるなら耐えられるはず!」

「耐えれなくても無理やりやらせるけどな! 逃げられると思うなよ! 私は神様に頼まれてるんだからな!」


 地獄確定である。


「それで今アキトがどんな魔法を使えるかを知りたいから教えてくれ。私に聞きたいこともあるだろうし」


 面接のような形で現状を話すことになった。使える魔法と、魔法適正をまず話した。


「なるほどなるほど。うん。私と適正が似てるから詳しく教えられるぞ」

「おお! よかった!」


 ちなみにキサラの魔法適正はこうだ


 魔法適正:火 初級

 水 初級

 風 上級

 土 上級

 雷 中級

 光 中級

 闇 適正なし


 まさかの6属性である。


「さーて次はアキトのスキル何だが………”アイテムボックス”はいいよな?」

「”アイテムボックス”はいいです」

「一覧機能とかも気づいてるよな?」

「………マジっすか?」

「気づいてなかったのか。念じるだけでいいぞ。そしたら頭の中に一覧が出る。………出たか?」

「今小石しか入ってないんです」

「使ってなかったのか………」


 だって機会がなかったんだもん。隠してたし。


「じゃあ”簡易鑑定”だっけ? そっちだな。物に使うと名前と毒があるかどうかで、人物に使うと名前の他に成長性ってのが見えるんだったな?」

「そうなんですよ。神様が適当にいい感じにしてあげるって言ってたんですけど、何の成長性かさっぱりなんですよ。何かわかります?」

「わからん。わかるわけがない。あのアウラ様とアスラ様のやることだぞ?」


 即答でさらに、神様のことなどわからんと付け加えてきた。


「やっぱあの方々って………なんというか天然なところあるんですか?」

「むしろポンコツ?」

「………なんとなくそんな気はしてました。やっぱり適当だったのかぁ」

「だろうなぁ。でもよかったじゃないか。毒があるかどうかはわかるんだから。でもそれもアキトの体には意味ないけど」

「え? どういうことですか?」

「私たち転生者は9割9部の毒は効かん。例外はあるけどな」

「………マジっすか? ちなみに例外というのは?」

「アルコールだ。酒に毒混ぜられると効くそうだ」

「それは………実体験からですか?」

「他の転生者がそう言ってた。一度それで死にかけたらしい。そいつはもう死んでしまったけどな」

「僕らよくわからない体になってるんですね」

「うん。気にしたら負けだ。気にするな。そうだ。成長性っての見えるんだろ? 私はどうだ?」

「えーっと………Aってなってますね」

「アキトは?」

「Sです」


 不満がありそうな顔でこちらを見てきた。何故だ。


「………なんですか?」

「なんか………悔しい。アキトのほうが高いんだろ?」

「多分高いです」

「く~や~し~い~!」

「よくわからないものに駄々こねないでくださいよ。ああそうだ。向こうの世界の技術使っちゃいけないって言われたんですけど、どういうことかわかります?」

「あ~それな。大雑把に言うと化石燃料だ。あれ使うと環境問題とか出てきそうだろ? それによって生物がどうこうとかな。女神様方はそういうの好まないらしい」

「あーなるほど。そういうことですか」

「ちなみにこっちの技術で再現したものならいいそうだ」

「こっちの技術………魔力とかですか?」

「そうそう。魔法陣とかな。こっちには魔道具って呼ばれる道具が結構たくさんあるからな。コンロとかあるし。ビーフシチューもそのコンロの火使ったし」

「ほえー、まぁ俺学ないんで大して関係ないですね」

「私は料理がセーフでよかったよ。神様料理には何も言ってこないからな。そろそろ寝るか。アキトはそっちの部屋で寝てくれ。ちゃんと掃除してベッド置いてあるから」


 ドアが二つあるなとは思っていたが、もう一つはキサラの部屋のようだ。


「わかりました。おやすみなさい」

「あ! まだ子供だし一緒に寝る?」

「1人で寝てたんで大丈夫です」

「ちぇーつまんないの」

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