ドMの錬金術師-駄メイドに踏まれて作ろう万能魔力-

@meruneko

1.メイドがやってきた?


 「よしよし。これだけあれば当分肉には困らんな」

 

 鬱蒼と生い茂る森の中、両腕いっぱいに小型の鶏を抱えながら家へと歩く青年――もとい俺。

 俺の名はベル=アヴニール。人からはベルって呼ばれている。


 この辺では珍しい黒髪に深い紅色の目、身長は平均より低め。

 町外れの小さな森で一人暮らしをしていて、簡単な狩りも行うからか体つきは一般人より少し筋肉質。そんな容姿だ。


 人がほとんど寄り付かない土地に小さな屋敷を構えてるということ、それとセルフ緊縛プレイが大好物なこと以外、普通の人間とそう変わりは無いだろう。


 「しかしもう、ほとんど魔力が残っていないな……」


 貴重な食料の重みを腕に感じながらも気分は暗い。鶏を捕まえるのに魔法を使ったせいだ。

 魔力を使い過ぎると人は精神的な負担を強く受ける。

 であれば魔力を回復したいところだが、この回復方法が厄介だ。


 魔力というのは個人によって回復方法が異なる。食事や睡眠、軽い運動や祈祷など少し手間のいるものまで、人によって千差万別な方法が存在するのだ。


 そして俺は魔力を回復するのに快感を得る――もといセルフ緊縛プレイを行う必要のあるちょっと特異な体質。両腕に食料を抱えている今の状態ではさすがに出来ない。


 「くっ、早く縛りたい……」


 そんな風に禁断症状に耐えながら森を練り歩いていると、目的の場所が見えてきた。

 陽が沈みかけて薄暗くなる森に佇む一軒の屋敷――つまるところ俺の家である。


 「よし、やっと休めるぞ――ん?」


 軽くあくびをしながら屋敷の正面玄関に回り込むと、何か影が見えた。

 注意してよく見てみると、そこには見知らぬ人が立っている。女の子だ。


 「……もう、ここしかないです」


 家の前でぶつぶつと何か唸っている。

 ……どうやら考え事に夢中で俺が来たことに気付いていないようだ。


 (来客の予定なんてあったっけ?)


 ここは小さな森とはいえ、町外れもいい所だ。人だって滅多に来ない。

 そのため、来客があるにしても普通は一報貰っているはず。


 (まさか泥棒とか……)


 少し警戒しつつ、俺は彼女を注意深く観察してみる。 

 そして、思わず息を呑んだ。


 ……腰まで届く桜色の長い髪に、長い耳。どうやら人間ではないらしい。

 更に目を引くのはその顔の美しさ。可愛い、なんて一言で表せるものじゃない。

 淡く輝くルビーの様な赤い瞳、若干憂いを帯びた表情。可憐で端麗。まるでこの世の美を詰め込んだかのような美少女で、俺は数秒の間釘付けになる。


 (特徴から察するに、これはエルフか? だが……)


 不思議な事に、彼女はエルフらしからぬ恰好をしていた。

 上下白と黒のメイド服で、スカートは短め。袖やスカート、エプロンの端には主張が強くなりすぎないよう上品な加減で付けられたフリルが確認できる。


 どう見てもただのメイドなのだが、俺は若干混乱する。


 エルフと言えば多大な魔力を持ち滅多に人前に姿を見せない、誇り高き種族……のはずで、奉仕を行うメイド姿なんて目撃例がない。

 聞いたことすら無いが、今この瞬間目の前にいた。 

 思わぬ美少女の登場に踊っていた心が、何だか珍獣を見ているような気分に変わる。そう思うと緊張も解けた。


 「ノック、してみるべきでしょうか……。うう、わたしなんかで大丈夫か不安です……」


 謎の少女は顎に手をやり思案顔で考え込んでいる。

 俺の存在にはまだ気付いていないようだ。

 それならばとこちらから話し掛けてみる。


 「うちに何か用か?」

 「んひゃあっ!?」


 すっとんきょんな声を出してこちらを向いたとと思えば、次の瞬間バランスを崩して彼女はこけた。

 

 「大丈夫か……?」

 「いったぁ……。もういやです死にたいです……」


 言いながら、地面にぶつけてしまったお尻をさする少女。

 エルフというのも身体のつくりはそんなに人と違わないらしい。ちゃんと痛いんだなと感心する。

 何と無しにそんな様子を眺めていると、ようやく彼女の視線がこちらを向いた。


 「うぅ、お見苦しい所をお見せしました……。急に声が聞こえたものですから」

 「いや、こちらこそ悪かったよ」


 脇に肉を下ろし、少女に手を差し伸べてゆっくりと起き上がらせる。

 掴んだ手は細く柔らかく、そして温かかった。

 ありがとうございます、と礼を述べる少女。服に付いた土埃を軽く払い、再び俺に向き直る。

 

 「ええっと、もしかしてあなたがこの屋敷の主人なんですか?」

 「ああ。まあ、他に住んでる奴もいないから主人も何もないんだけどな」

 「そうなんですか!?」


 聞くや否や、ぱぁっ、と目を輝かせる少女。


 「わ、わたしとかどうですか!? お安いですし!」

 「は、いや、何が?」

 「ちょっと食費は掛かりますが家事の知識だけはありますし! 料理で褒められたことはありませんが食べるのは得意ですし!」

 「ちょ、ちょっと落ち着け! 話が見えてこないぞ!」


 言いながら、きらきらした瞳でぐいぐい迫ってくる少女を押し退く。

 すると少女は我に返ったようで、おずおずと恥ずかしそうに頬を染める。


 「ご、ごめんなさい」

 「……それで、一体何の用なんだ?」


 先ほどの様子を見るに、どうやら訳アリのようだ。

 話を聞いてみる。


 彼女の名前はモニカというらしい。十四歳で、思っていた通りエルフだそう。

 里を出て街にある【メイド協会】なるものでメイドの修業を積んでいたようだが、数日前に修行の一環でほっぽり出されたようだ。


 どうやら外の家に仕えて生活してみろという事らしい。

 しかし行く先々で何故か雇ってもらえないため彷徨っていたところ、この屋敷に辿り着いたという。


 「いわゆる野良メイドってやつです」

 「いや、メイド協会ってのも野良メイドってのも初めて聞いた単語なんだが……」

 「いいじゃないですか。でも助かりました。これで空腹生活とはさよならできますし」


 言いながら、屋敷の扉に手をかける……って、ちょっと待て。


 「えへへ。お腹すきました、ご主人様。早速ご飯にしましょうか!」

 「いや、さらっと主人にするな。俺は雇うなんて一言も言ってないぞ?」

 「こ、こんないたいけな美少女を見捨てるんですか?」

 「自分で言うな自分で」

 「……そんな。だってわたし、もう三日も何も……」


 言いながら大きな瞳に涙を溜めていく。

 かわいそうだが、そうは言ったってうちにメイドなんかなぁ。


 (それにしても……)


 目の前で懇願するように俺を見るモニカ。

 惜しい。惜しいんだよなぁ。せめて今の状況が逆だったら……。


 「わたし、何でもしますから! 温かいごはんとごはんとごはんさえ頂ければほんとに――って、うひゃぁっ!」

 

 モニカが再びすっとんきょんな声を出し、すぐさま俺の陰に隠れるように屈む。


 「どうした?」

 「わ、あれあれあれあれっ!」


 そう言ってモニカが指差す。ちょうど俺の背後なので、振り返るような姿勢になる。


 先に見えたのは森にそびえる木々の背に追いつきそうなくらい大きな……それは大きな鶏の魔物がこちらを睨み付けている姿だった。

 俺の陰からおずおずと顔を出したモニカは、目前で今にも襲ってきそうな勢いの魔物を見て身体を震わせる。


 「な、なんですかあの大きいのは!」

 「あー、ここら一体に住む鶏の魔物の親玉だな。肉、取り過ぎたかなぁ……」

 「……ままま、魔物!?」

 「モニカだっけ。エルフなら魔法でどうにか出来たりしないか?」

 「む、無理です! 確かに正真正銘エルフなわたしですが魔法はお料理用の火魔法くらいしか使えないです!」


 背中側で泣き喚くモニカ。


 「まずいな……」


 万全な状態であればこんな相手どうってことないが、今は魔力が不足している状態。

 目前に魔物が迫っている中で自分を縛っている暇もないだろう。

 ならばわざと攻撃を受けて……しかし、狩りの疲れで体力に不安もある。魔力回復のつもりがうっかり昇天、なんて御免だ。


 「ギョオォォォ」

 「ほにゃあぁぁっ!」


 魔物が吠えて威嚇する。もう時間は無さそうだ。 

 万一このまま突進でもされたら屋敷に衝突してしまう。それだけは勘弁願いたい。


 何でもいいから、俺に快感をもたらしてくれる素敵な物は無いのか……?

 周りを見渡すが、あるのは先ほどの肉と怯え切ってるメイドだけ。


 (……いや、待てよ?)


 ――あるじゃないか。俺を満足させてくれそうな手段が。 

 にやり、と口元に笑みが浮かぶ。


 「よし、モニカ。俺にいい考えがある」

 「……いい、考え? もしかしてあいつをやっつけてくれるんですか?」

 

 モニカの震えが収まり、俺にわずかに希望を見出している事が伝わる。 

 俺はその期待に応えるように上着とシャツに手をかけると、一気に脱いでその場に跪いた。


 「俺を踏め」 

 「……え?」


 露になった俺の肉体の前で目をぱちくりさせるモニカ。

 そう、今この場には二人いる。

 そうとなれば、誰かに踏んでもらう事でより気持ちよく――もとい、魔力の回復に繋がる。


 「も、もうダメです……。魔物の次は変態ですか、わたしの人生もここまでですか」

 「落ち着け。言う通りにしなければ現状を打破できないぞ」

 「うぅ、冷静そうに見えて頭までやられてしまったですか……って、わあぁ!」


 モニカがそう叫ぶと同時、魔物がこちらに突進してくる。

 到達するまでそう時間は無いだろう。


 「さあ踏め! 一回でいいから思い切り力を込めて!」

 「あぅ……もうどうにでもなれです!」

 

 モニカが足を振り上げ、俺は衝撃に備えて身体を力ませる。

 次の瞬間、ずしん、と重く強い衝撃が頭を蹴った。


 「き、気持ちいい……!?」


 強い衝撃が走る。頭ではなく、もっとこう、脳に染み渡るような快楽が!

 自分の手足を縛って床を這いずり回っているのとはまるで違う。これが本物ってやつか……。


 まだこの快楽に溺れていたいがいつまでもこうしている訳にはいかない。

 俺はふらふらと身体を起こし、目前に迫っている魔物に両手を向けた。


 「悪く思うなよ――【肉体】を【硬貨】へ」

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