水曜日 その六

夜の道を歩いた。


夏の夜風は以外と涼しい。葉月を起こさせないように、僕はゆっくりと足を動かした。家に向かいながら、葉月が戦った事を思い返してみた。


院長が攻撃を仕掛けてきた時、葉月は避けずに僕の前に立った。一面の壁のように院長の攻撃を防いだ。


絶対とは言い切れないけど、おそらく僕を守るためだと思う。もし、僕があの場にいなかったら、葉月はもっと早く院長を解決したのかもしれない。葉月は自分はまだ子供だといった。確かに、子供の力で強力な黒魂と戦うのは大変なのかもしれない。そこに、何の助けにもならない僕がついていたら、葉月はきっと戦闘に集中できない。せめて、自分の身体を自分で守れたらいいのに。


いろいろ考え、思い悩みながらやっと家の前についた。両足はもうグタグタだ。背中も汗で濡れた。濡れた服超しに葉月の体が感じられた。いけない、ほかの事を考えながら頭を冷やそう。


ドアを開けようとしたけど、僕は思いとどまった。まるで、僕の思いをわかってくれたかのように、ママとパパの言い争っている声がドアの隙間から聞こえたから。頭はすっかり冷やされた。


「子供がまだ帰ってないのに、あんたはじっとも心配してないの!」


ママの甲高い声だ。


「心配している!それならお前はどうだ?ここでおれと言い争う暇があるなら、捜しにいけ!」


「私はこれから仕事なの。大事な仕事なんだから抜けないよ。あんたが捜しに行ったら!」


「こんな夜中にする仕事ってどんな仕事だ?!」


「あんた、それどういう意味?」


「お前こそ知っているだろう。おれの言ってる意味!」


僕はこれ以上聞きつらくなった。階段を一歩一歩としっかり踏みながら、屋上へ上がった。葉月をそっと壁に寄りかかるように置いた。一晩くらいここで寝ても風邪は引かないと思った。あったかい夜だから。それに、傍に葉月がいる。葉月の体温が感じれる。


汗も拭きたいのに、着替えもしたいのに。


僕は膝を抱え頭をその中に埋めた。


パパとママは僕にとって一体どんな存在なんだろう。一緒にいてくれたらもちろん嬉しい。でも、いなくだって別に悲しくもない。毎月、通帳の中にちゃんと金さえ振り込んでくれたらそれでいい。パパとママへの感謝は金を使う時にだけ思い出す。こんな僕は親不孝かな。


これ以上考えるのを僕はやめた。考えれば考えるほど、胸が苦しくなる。


葉月の寝息が聞こえてきた。


さっき戦った時に受けた傷がまだ体に残っている。手当でもしてあげようと思って、僕はいった家に戻った。でも、パパとママのケンカはまだ続いている。救急箱を取って屋上へ行こうとしたけど、今は無理みたい。


葉月のいる屋上へ戻って彼女の傍に坐った。気のせいか、体の傷が少なくなったような気がした。真っ白なワンピースは汚れている。洗わないと。


でも、このワンピースを洗ったら、何を着せよう?こんなことになるのとしっていたら、絶対予備の服を買ったのに。そしたら、まずママの服を見せて好きなのを着させよう。ママは服が多いから、一着や二着、見えなくなったって、気づかないだろう。


夜空には真っ白な月がかかっている。屋上で月を見ているだろうかな、とても近くにいる気がする。


かぐや姫は月へ言ってからずっと後悔したか。なんだか実感がわかない話だ。葉月がこんなにも近くにいるのに。


そういえば、ほかの十一名の『月』たちは今頃、別のところで戦って黒魂を食べ、強くなろうとしているところだろう。


彼女たちも自分の運命の人と一緒に幸せに暮らすため必死で戦うんだろう。


最後の十二名の戦争はいったいどんな形で始まった終わるかな。僕としては葉月が勝ってほしい。葉月は運命の人と一緒にいるために戦っていると言ったけど、僕と一緒にいると運命の人を探す時間がなくなるんじゃない?それとも僕と会っていない時間にもう探し出したってこと?


ここまで考えるとちょっと悲しくなってきた。もし、葉月の運命の人が僕だったらいいのに、なんてことを考えた。

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