5.求められたもの
(・・・・ん・・・・つっ!)
ぼんやりとした意識に、強烈な痛みが突き刺さり、一瞬にして正気に戻る。
「やっと気づいたか。あれでも、手加減はしたつもりだったんだがな」
「・・・・な、なん、で・・・・?」
意識が混乱していた。
俺が寝かされていたのは、ベッドの上。
腕は後ろ手に縛り上げられ、手首の血流が圧迫されているせいか、指先が痺れ始めていた。
「何の冗談や?」
「冗談?俺は本気だぜ?」
口元に笑いを浮かべ、ベッド際へと後ずさる俺に、彼はじりじりとにじり寄ってくる。
「本気て・・・・せやかて、あんたほんまは」
「知りたいんだ」
恐怖を感じる程に、真剣な瞳。
その瞳に見下ろされ、俺はただただ、彼の目を見つめ返すだけ。
「知りたいんだ。俺も、愛される事ができるのか。男として、愛を受けられるだけの魅力が、この俺にもあるのか。なぁ、恩田、教えてくれ。こんな事を頼めるのは、お前しかいない。・・・・だいたい、お前が悪いんだぜ?この俺の寝込みを襲おうとしたりするんだからな」
「いや、それは・・・・んっ」
馴れた手つきで顎を持ち上げられ、押しつけられた唇は、予想以上の熱さを持って俺の体に火を灯し始める。
(一之瀬さん、あんた・・・・)
彼のしようとしている事は、間違っている。
分かってはいても、俺には彼を止める術がもう、無かった。
きっと彼だって、自分のしようとしている行為が正しいとは思っていないだろう。
けれど。
この手の事に、正しいも間違っているも、無い。それも事実。
想いの行き場をねじ曲げてまで、彼が俺を求めるのならば。
それほどまでに、彼が追いつめられていると言うのならば。
「一之瀬さん・・・・手、解いてもらえます?」
躊躇う彼に、俺は微笑んで、言った。
「そやないと、十分にあんたの魅力、味わえなくなってしまいますやん」
ややあって、感覚の無くなりつつあった指先に血流が戻るのを感じ、思わず苦笑が漏れる。
「くぅ・・・・さすがに痺れてしもたわ。こっちの方は、手加減してくれへんかったんやなぁ」
とたん。
ハッとしたように、彼の顔が歪む。
「すまない。だが・・・・っ!」
(ほんまにあんたって人は・・・・)
口に出すより先に、体が動いていた。
目の前で、視線を落とし俯く彼の体を抱きしめて引き寄せる。
今俺の腕の中にいるのは、キレ者でヤリ手と評判の、仕事上の一時的パートナー・一之瀬 怜司ではなく、抱えている苦しい恋の行き場を求めて縋り付いてくる、どこにでもいる1人の青年。
「まぁ、ええわ。この借りは、きっちり体で返してもらいますよって」
「おん・・・・んっ・・・・」
強がりの中に見える僅かな怯えを感じ、俺はそっとその唇を塞ぐ。
(愛される資格なんて、誰にでもあるんやで、一之瀬さん)
瞳を閉じ、素直に体を預けてくる彼が、無性に愛おしく感じられた。
(愛してばかりじゃ、疲れてしまう・・・・あんたが俺でもええっちゅーなら、目一杯愛したるわ。せやから、安心しぃや、一之瀬さん)
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