3-11 Ginevra de' Benci



一周目の緊急事態からどういうわけかパーチェ広場のあの盛り上がりへ回復したのを考慮するに、今更イエローフラッグを再び振るとは考え難い。


むしろ観衆はヴィリス討伐とストリートレースの共演に湧いているまである。


ならばあの銃撃戦を突っ切るのは間違いない。


ただし向こうも動く死体といえど、このスピードで衝突でもすれば車へのダメージは免れないだろう。


つまり障害物のセクションが増えたといってもいい。


あれをかわすには高等なブレーキングとハンドル操作が必須。


いけるか、いいや、行くしかない。


このままの直線だったならばカマロにパスされるのは必然だった。


ルームミラーは見ない。


あのパイロンを全て避ければカマロからも逃げ切れる。


迫り来るヴィリスの群れと、応戦するワイルドウイングの戦闘部隊。


いいや、迫っているのはこちらのほうか。


にやりと口角を上げるマキシマは、左足をクラッチに置き、右足の踵でアクセルを踏みながら爪先をブレーキにかけた。


息を吸い、息を吐く。


そして、息を吸う。


酸素が肺に充満したのと同時に、マキシマはクラッチとブレーキングを踏み込んだ。



  ギャァァァアアアアアッ!!!!!!



けたたましいスキール音と、4本のタイヤから巻き上がる白煙。


ハンドルを左に回し切り、ギアをセカンドに入れてアクセルを踏み込む。


リアタイヤが暴れ出す。


その挙動を制するフロントタイヤ。


ハンドルを右に切りカウンターを当てると、フロントタイヤがリアタイヤを振り乱しながら弧の軌道を描いた。


まずは二体のヴィリスと戦闘員一人の番いをかわした。


リアタイヤのスキールは続く。


ドリフトの姿勢を保ったまま、ハンドルは再び左方向へ。


S字を描き、次の番いをかわす。


左へ、そして次は右へ、さらに左へ。


秒数にすれば5秒にも満たぬうち、銃撃戦のど真ん中、この障害物セクションの中央を抜ける。


カマロはようやくこのカオスに踏み入ろうというところだ。


その巨大な体躯でインプレッサと同じ挙動ができるか。


いいや、インプレッサでも抜けるのがギリギリだったのだ、できるわけがない。


あとは残りのパイロンもかわして、差をさらに広げてパーチェ広場に戻…、















  ダンッッッッ!!!!!!!!!!!!!!















それは衝撃音とも、破裂音とも受け取れた。


ワイルドウイング組員の銃声をも掻き消すほどの、破壊的な爆発音。


響いたのは音だけ、それも後方から。


手榴弾の類の兵器だろうか、いいや、違う。


響いたのは音だけ、閃光などを伴うことはなかった。


待て。


むしろ、暗い。


先程までミラーに写っていた光が、ない。


カマロのヘッドライトが、ない。



「……は……?」



代わりに視界に現れる、赤い光。


それはミラーなどではなく、前方だ。


前方上。


上空。


インプレッサのコックピットから見上げたところにあったのは、カマロの巨体だった。


「ガンッ!!」とさらに衝撃音。


宙を舞っていたカマロが自由落下で着地する直前、ヴィリスの一体の頭部を踏みつけて破壊したらしい。


弾かれる胴体。


その軌道を即座に計算できるわけもなく、マキシマのインプレッサのフロントが、カマロの倒したヴィリスに激突した。



 

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