2-19.Madonna of the Carnation



「幸い、全ての絵画が盗まれたわけではない。12枚目の絵画だけは別の場所に保管しておいたゆえに無事であった」


「どこにですか?」


「我輩のベッドの下である。奴らもその1枚がコンプリートしきれなかったから今も絵画の争奪戦が続いていると言う状況であるな」


「奴らが奪取のために元レーサーを雇い始めたのを受けて、テメエらは俺に目をつけた……ってことだな」


「うむ。客寄せパンダのヒューガが思いの外速くてメインディッシュが入れ替わったがな」


「……ふんっ」


「ありがとうございます。ということは、12枚全てが揃わないと絵画の謎も解けないってことなんでしょうか」


「どうであるかな。……ここからは我輩の憶測にすぎないのだが」



タブレットの大量のメモも役目を終えたらしく、JVはデスク上の絵画の上にタブレットを置いた。


可愛いらしい、だが恐ろしく鋭い双眸がレオとヒューガを見詰める。



「赤い数字が示しているのは13番目の座標である。そこにあるのは新たなジェネレーターか、または13番目の絵画なのかは分からぬ。盗難されるよりもさらに前、我輩は12個の数字を使っておおよその座標を割り出したのである」


「全ての組み合わせを試したってことか?」


「そう、全ての組み合わせの座標を弾き出した。現12台のジェネレーターの隠し場所は全て陸地、そして大陸および州の主要都市が満遍なく網羅している。その中で南ヨーロッパだけが空白であった。南ヨーロッパを示す座標の組み合わせという形でならある程度的を絞れるのである」


「なるほど」


「そしてその結果がこのメディオのどこかであるということであるな。世界の死よりも前、我輩がアメリカを出てワイルドウイングの新拠点にメディオを選んだのはそれが理由である」


「そこまで絞れたのなら結果は早そうですが」


「12個、という数が厄介なのであるよ。座標の秒以下があるせいで、その組み合わせでメディオのありとあらゆる場所が該当してしまうのである。それを回り切る前に世界の死が起こり、さらに絵画の盗難が起きたと言うわけであるな」


「なるほど……。しかし、謎を解いたのはその盗難犯のほうなんですよね? 絵画を取り返したところで尋問でもするつもりですか?」


「言い方が悪いであるな。説得を試みる」


「聞き出せる勝算はあるんですか?」


「勝算? 馬鹿なことを言うな、である。ヴェロッキオはジェネレーターに関与した英雄。彼が残した謎は必ず人類復興に差す光となる。我輩も、過ちを犯した我輩の部下も、そして貴様らも皆、世界が死から蘇ることを望んでいるはずである」


「…………」


「報酬は好きなだけやってもいい。その代わり貴様らがワイルドウイングの肩書きを名乗るのならば、人類の存亡までを背負う覚悟で名乗るがいい」



JVの瞳の色は変わっていた。


いいや、色が加わったという表現の方が近いだろうか。


可愛らしく、鋭く、そして夢を語る少年のように輝いている。


そして悟った。


JVは絵画を盗まれたことに、一切の負の感情を持っていない。


それどころか彼女の目には、希望が映っているのだ。



 

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