2-3.Madonna of the Carnation



「マックスさんは何をしてたんですか?」


「僕の配信は見てない?」


「はい、全く」


「だろうね」



閲覧数はおおよそヒューガの十分の一程度だが、コメント数はさほど変わらないように見える。


だがスタンダードはマキシマのコメント数で、ヒューガは閲覧数のわりにコメント数が少ないのが特徴だ。



「僕はメンズ美容とトレーニングをコンテンツにしてる。さっきもランニングしてたらね、コメント欄でリスナーから君が近くを歩いてるって情報をくれたから来てみたってわけ」


「レーサーとしてだけじゃなく、そういう配信活動もしてるってことですね。頑張りすぎててえらすぎます」


「えらい……? うん、まあ頑張ってはいるけどね。でもレーサーがレース以外でも活動してるのは当たり前だよ」


「そうなんですか?」


「例えば、昨晩一緒にいたデレク」


「恥ずかしがり屋さんの可愛い彼ですね」


「ステージ上ではね。彼、カマロをDIYで改造していく過程を配信してるんだ。君ほどじゃないけど、閲覧数は僕よりずっと多い」


「なるほど……その車でレースに出てたら二重で楽しめるわけですね」


「鋭い。デレクはファン層が広いから、相対的にレーサーの中では女性人気も高いってわけだよ」



双方のコメント欄ではマキシマの発言を踏まえて、視聴者が各々の一押しレーサーの活動を語っている。


静かな街並みで二人が静かに話しているだけだが、その会話には世界中の人間が聞き耳を立て、そして横槍を入れていた。



「じゃあ、レオさんはどんな活動を?」


「気になるかい?」


「どちらかというと」


「レオは何もしてないよ。そもそもレア・ド・ライブのアカウントすら持ってない。本当にレースだけ」


「レースだけ? それでもあれだけの人気なんですね、すごい」


「ああ。ランキングのトップにしてレース以外では顔を見せない。彼のそういうところが神格化されてるから、配信なしでもフォロワーが稼げてるんだよ」


「へえ。普段何もしていないなら、今彼はどこに?」


「いるよ、家に」



マキシマは背後のドアを顎で指した。


ヒューガは首を傾げた。


二人の配信のコメント欄は双方ともに、レオを知るメディオの住人が納得し、それ以外の視聴者層は「?」を掲げるという、二極化が成されていた。



「ストリートレースのイベント中にもよくレオの日常が取り沙汰される。そんな時レオは必ず答えるんだよ。『昼寝をしてる』ってね」


「昼寝……? ずっと?」


「ずっとさ。フェラーリがこの場所から動いてるのを誰も見たことがない」



自分の目線と一緒にスマートフォンのカメラを向けることは、ヒューガにとってはもはや反射だ。


F40のリトラクタブルヘッドライトが閉じている様は、あたかも彼が「NOW SLEEPING」の札を掲げているようにも見えてくる……というコメントに対して、ヒューガは特に興味を示さなかった。



 

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