2-1.Madonna of the Carnation
───ガイア・メディオ。
メディオ市はその中心であるセンピオーネ公園を中心に放射状に街が広がっている。
そしてその中心よりおよそ3キロの範囲を主要道路が包囲。
だが世界の死を経てSSG主導で、メディオにおいてはワイルドウイングが、その主要道路に沿った“壁”を作った。
強化発泡スチロール製で、高さは3メートル。
壁と言っても壁の体裁は成していない。
着工当時道路を走りながらスチロールの原液をばら撒き、現在では薄汚れたグレーの発泡体が、アルプス山脈のミニチュアのようにそびえ立っているだけ。
それでもわずか一夜にしてメディオ中心部全体をこの壁で覆えたのだから十分だった。
ヤツらのいないセーフティーゾーン……SSGいわく“ガイア”をメディオ市に成すくらいならば。
ガイア・メディオの南端エリアを、南中した太陽に照らされながら歩く女がいる。
その女の純金色の長い髪は歩くたびにふわふわと揺れ、前髪が目にかかるたびにその女はやかましそうに髪をかき上げている。
「『髪切れよ』? 女の髪の毛を気にかけてくれるあなたはとても素敵です。でも最近行きつけの美容師が死んだんですよね、ラーメン」
その女の手にあるのはスマートフォンだ。
インカメラに映る自分の顔と、「Live」の赤文字が彼女の現状を表している。
「『どこに行くの?』知的好奇心が高いんですね、あなたはきっと大物になります。……友達の家です。大きな友達の」
左手にはボンクルス大学院。
曲線の美しい小さな建屋は広大なキャンパス敷地を贅沢に陣取り、屋根には全面ソーラーパネルを張り巡らせたと聞いているが、今は誰も足を踏み入れない。
ソーラーパネルも2年前からただの飾り。
スマートフォンの画面を流れていく文字の羅列直視しながら歩く金髪の女は、その大学院に目を配ることもなかった。
「あっ、スパチャありがとうございます。おかげでおやつがブラックサンダーからスナッパーズに格上げできそうです。……そろそろだと思うんですけどね、ジジさんから聞いた住所だと」
『ヒューガさん、愛しています。あなたは私の天使』。
ヒューガはそのコメントに満更でもなさげな表情を返すが、読み上げるほどのものではないとそのまま流した。
静かな昼時のメディオに、ヒューガの独り言とハイヒールがアスファルトを叩く音だけが響いている。
世界は死んだ。
メディオの人口は2年前の1パーセントまでに没落したが、画面の中にはこんなにも多くの人間がいる。
あくまでヒューガにとっての人間とは、数字でしかない。
世界の死を経て、それが都市人口だの世界人口だのの公民教養の一情報から、スマートフォンの中の閲覧数というステータスに変わったというだけ。
ヒールがピタリと止まった。
ボンクルス大学院から道路を挟んで西隣の、アパートの玄関口。
間違いない。
その玄関の真横の駐車スペースには、見紛いようもない真紅のフェラーリ・F40が居座っている。
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