1-16. Annunciazione
《───テメェら、まさかの展開が起こりやがった!!!! まさに天より与えられし才、優勝は天才インフルエンサー、ヒューガ・エストラーダ!!!!》
ステージ上でジジの手により左腕を掲げられるのは、金髪の女。
歓声には慣れている様子で、表情も晴れ晴れとしている。
きっと彼女の腕を掲げているジジは、この状況に困惑しながらマイクをとっていることだろう。
だがジジの本当の意味での困惑を知っているのは、彼本人を除けばもう一人のみ。
レオの、ワイルドウイングへの加入。
予想外のチャンピオンが生まれたことと同時に、難なく達成されるはずだったであろうその条件は霧に包まれた。
確かにレオは4分半を切っていた。
だがこの金髪の女は、規定タイムどころか、このコースの最速記録を大幅に塗り替えた。
俺達ワイルドウイングのボス様がこれをどう見るか。
このインフルエンサーを取り込むリスクを考えればレオを入れるのは自然なことだろうが、逆にこのイレギュラーを見過ごすとも思えない。
そして何よりも。
ヒューガに遅れてステージを登るレオ自身が、一番の問題だ。
「レオ、おいレオ! 待て!!」
「……うるせえ」
フラフラと、だが重く、地を踏み締めるように歩く。
そして近づいてくる、こちらに。
バンダナに隠れて表情は見えない。
だが並々ならぬ負のオーラは、同じ壇上にいるジジも、ステージ前の観衆も皆感じていた。
レオの不敗神話が終わった。
怒りに任せてヒューガを殴りかねない、ジジは危機感を覚えた。
ジジと観衆だけは、危機感を覚えた。
逆に言えば、この女だけは。
ヒューガの前で、レオが立ち止まった。
その禍々しい立ち姿のレオに、あろうことか。
この女は、握手を求めた。
「レオさん、お疲れ様でした。あなたのような素敵な殿方と同じコースを走れて…」
その握手に、レオが応じるわけはなかった。
ヒューガのパーカーの胸ぐらを掴む。
両手で。
誰もが殴ると思った。
だがレオの発する瘴気に、会場の誰もが凍りついていた。
ヒューガだけが、ヒューガの目だけが動く。
ヒューガはレオを見た。
レオは、こちらを見てなどいない。
不自然だった。
目線よりも下、胸元、ネックレス。
稲妻のネックレスを見ているのだろうか。
いいや、恐らく違う。
ヒューガには見えない何かを見ている。
悍ましい表情で。
悍ましい表情で、レオは何かを見つめている。
「……また来やがったか……」
ヒューガを突き放し、無言で背を向けてステージから降りるレオ。
観衆もジジも胸を撫で下ろした。
だがレオの登場時とは逆に、ヒューガだけが渦に囚われ続けている。
「また来やがったか」……初対面の自分に向けられた言葉ではない。
レオは一体何を見ていて、何に向かってそう言ったのか。
偶然にも、そう、偶然にも。
ヒューガはレオの見ているそれに、思い当たりの節があったのだ───。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます