1-11. Annunciazione
フィレンツェロータリーの次はチュニシオ通りをほぼ真東に直進してゆく。
おおよそ1.5キロの直線だがセンピオーネ通りとは異なり、途中で路面電車の駅を二度、弧を描いて避ける。
つまり途中で減速しなくてはならない。
しかしあの女は必要以上にアクセルを抜きやがる。
一つ目の駅はレースであるのを忘れたかのような安全運転のグリップ走行で突入する。
バカが、これはレースだぞ。
これだからド素人の運転は分からないのだ。
いや、待て。
ド素人?
なら、さっきロータリーで見せたコーナリングはなんだったんだ……?
駅を通過。
……並んだ。
直線はまだ三分の二、駅はもう一つある。
並行する路面電車の線路。
立ち並ぶ並木。
メディオの悠長な街並み。
そして左隣に並ぶ、ランボルギーニ・ムルシエラゴ。
ボディー全体がユラユラと赤く光るムルシエラゴ。
追い越せない。
レオがアクセルを踏み込むと、それに合わせるようにしてペースを上げてきた。
スピードは200キロ近く出ている。
レオは並行するムルシエラゴに必死に食らいついているが、向こうから聞こえるエンジン音に回転数が乗っていない分、ヤツからは余裕が感じられる。
オーバードライブだ。
ジジは、ドライバーがすり替わっているかもしれないと語っていた。
そんなタイミングはなかったが、もはやそうとしか思えない。
ド素人の運転ではないからだ。
現にレオが最も得意とする中高速コーナーで差をつけられ、遅れるレオに精密にペースを合わせるという荒技も見せつけられている。
いま左真横にいるのは、一体……。
レオはチラリと左を見る。
ムルシエラゴがいる左を。
「……なっ!?」
ゆっくりと開く、ムルシエラゴの助手席側のパワーウインドウ。
レオは前方確認と左方確認をあたふたと交互に行う。
三度目の左方確認でウインドウが開き切った。
あのクソ女がそこに居て、クソ女は小悪魔な笑みを浮かべ、舌を見せながらレオに向けウインクをしやがった。
0.5秒にも足らない。
それはすり替わりが行われていないこと、女に余裕があること、そして、レオが弄ばれていることを全て同時に悟った0.5秒であった。
間も無く二つ目の駅に入る。
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