1-9. Annunciazione



「なんだ……?」



F40のヘッドライトは4つのテールランプを捉えていたはずだ。


しかしコーナー進入の瞬間、突如上がった白煙でそれらが掻き消される。


カマロとムルシエラゴと白い煙は一瞬でコーナーへと消えた。


廃棄ガスにしては激しい白煙だった。


トラブルだろうか。


だとしたらあのド素人女だろうな。


ムルシエラゴをどう壊したのかミモノだ。


アクセルを吹かしながらギアを落とし、F40は左折コーナーに進入する。


まずはムルシエラゴの様子を見て、その後にカマロをブチ抜…







「……はぁ!!!!????」



なんだあれは。


なんなのだ、あの白煙と赤い閃光は。


あの二台がコーナーに消えてから5秒か6秒。


ものの6秒。


それしか経っていないはず。


しかしアレは、ロータリーの反対側にいる。


レオがコーナー入り口で見えたのは、315度ロータリーを既に半分程も回り終えた赤い閃光だった。


白煙の尾ひれを舞い上げながら、凄まじいスピードでさらにロータリーを回り続けている。


ロータリーの全周およそ800メートル、コースはうち700メートル前後で、その半分程というと300メートル以上。


それを6秒で回り抜いたとすると、単純計算で最低でも時速180キロは出ているということか。


その速度で考えるに、あの赤い閃光がブレーキランプであるとは到底思えない。


レオはF40のメーターが150キロさえ振り切れないことに苛立ちを覚えている。


そしてさらに6秒後、赤い閃光はロータリーを回り終え、レオをあざ笑うかのようにして一瞬にして消えて行った。


白煙と粉塵を置き土産に。


あのカマロは、わずか12秒にしておよそ700メートルのロータリーを駆け抜けたのだ。


トラブルを起こしたムルシエラゴを差し置いて。









……というのは、間違いだったらしい。


レオはロータリーの終盤で前列二台のうちの遅れているほうに追い付く。


だがそれは、エンジントラブルを起こしたムルシエラゴではなかった。


至って正常なカマロ。


至って正常なカマロだ。


だが中のデレクの顔は正常ではない。


追い越し際に見たデレクの表情は、まるでガジラを目にしたかのように恐怖と驚愕に染まっていた。



 

 

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