1-3.Annunciazione
まぁ、俺がこんな登場をしたならこれくらいの歓声が上がるのは当然だろう。
仮面をスネアに置きドラムセットを後にする大男……レオは満足げに鼻を鳴らした。
実にこの会場にいる全観衆の8割が彼のフォロワーだ。
ジジとレオは楽器の後片付けをするバンドメンバーの前で固く手を握り合う。
壇上の二人の仲は、世界の死以降の世界と同じ歴。
ストリートレースに足繁く通う常連にとって、レオとジジはこのイベントの象徴とも言えた。
《よおレオ、まさかメンバーと入れ替わってたとはな。全く気が付かなかったぜ》
《ああ、ジジにもバレねえように徹夜で練習したんだ。もちろんテメェらにもな》
観衆を見下ろすレオと、それに応える観衆のレスポンス。
板に付いてきたレオのマイクパフォーマンスに、ジジは口角を上げた。
その身長は190にも及び、ミリタリーコートに隠れているが、その筋骨も隆々としている。
トレードマークの黒いバンダナに、周囲を威圧する強面な顔。
神経質なまでにアイロンを浴びたシワひとつないティーシャツ、質の良いデニムとトレッキングブーツ。
まだ三十路に足を踏み入れかけるほどの若さだが、彼はメディオのストリートレースにおいて2年前の創生以来ゲームポイント首位をキープし、今や実力でも人気でもレーサーの中ではトップだ。
ジジの言う《優勝最有力候補》という紹介文には誰もが頷くだろう。
《レオ、分かってるだろうが今日のレースで勝てば過去最高の商品が手に入る。今日の自信は?》
《言うまでもねぇさ。俺はストリートレースで一度も負けてない。優勝賞品がどうであれ、いつも通り勝つだけだ。俺のF40でな》
加えて、レオの徹底した完璧主義はフォロワーの中でも通った話だ。
決して多くないエントリー数でもポイント首位を維持できているのは、彼の出たレースは全て彼が優勝しているから。
愛車のフェラーリ・F40はいまだ敗北を知らず、メディオ最速の座に鎮座している。
《同じチームで活動できるのを楽しみにしてるぜ、レオ。……と言いたいところだが、お前だけ贔屓にするとヤツらが黙ってないもんでな》
《おう、分かってる》
《紹介が遅れてすまなかった。……フォロワー数はレオの次点だが、先週のフォロワー上昇率はレオの三倍!!!! ストリートレースのニュースター、ジェン・マキシマ!!!!》
ジジの紹介と共に、ステージ袖より現れる男が一人。
歓声は暖かいが、彼は少し不満げな表情だ。
躍進のスピードで言えばストリートレース界でも最速だが、彼はレオに一度負けたことがある。
いや、今夜の登場の盛り上がりを加えれば、これで二度目の敗北か。
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