おまじないを教えてもらう話
隅田 天美
おまじないを教えてもらう話
何が一体どうしてどうなった?
自分の意識が戻った時、私は泣いていた。
私の手を副担任の先生が握っていた。
「落ち着いたか?」
「はい……」
「お前の核が見えたよ」
「核?」
私は不思議そうに聞く。
「本音の部分……人一倍怖がりで泣き虫で無口なのにみんなのために幸も不幸も投げ出して世界を安定させようとした」
バレた。
私は『私』を演じるのを止めた。
「笑うんですか?」
自分でも信じられないほど低い声で聴く。
「笑わない。お前の選択も行動も笑わない」
先生も真顔で言う。
「でもな、もったいないんだぞ」
「……」
「誰かのために泣いたり怒ったりすることは悪い事じゃない。それに、お前は誰かを過度に批判したり褒めもしない。強いと思うよ」
私は眉一つ動かさない。
「だから、俺は荷物を捨てろとは言わない。というか、背負わせる」
「?」
「隅田天美、自分で自分を幸せにすることを諦めるな」
「……拒否する権利はありますか?」
先生は頷いた。
「お前は、自分を虐めていた奴らと同じになることを極端に恐れている。だから、自分を投げ出した。でもな、だったら、俺は何だ?」
私は顔を上げた。
先生の顔を見る。
「俺はお前の教師だ。お前が間違えた道を選んだらどんなことをしても止めてやる」
副担任の先生はこう言った。
「甘やかしていいんだ」
「……怖いです」
「まあ、現実問題。俺も担任のあの人も四六時中お前にはかまってやれないからなぁ」
と、先生は手を放し、胸に置いた。
「じゃあ、おまじないを教えてやる。隅田、右手を胸に当ててみろ」
「……はい」
先生の真似をする。
「それを時計回りで回してみろ」
回してみる。
「……少し心が落ち着きました」
副担任の先生は言った。
「隅田、お前は幸せになれ」
おまじないを教えてもらう話 隅田 天美 @sumida-amami
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