放課後ハントナイトディナーショウ
神無月もなか
Case.1 姫井璃羽と《緑眼の獣》
第一話 狩人の夜に出会う
1-1 狩人の夜に出会う
じじ、じじ、と街路灯が耳障りな音を立てている。
人生の中であまり経験したことのない、油断すると吐いてしまいそうなほどに強い獣臭で満たされた道の真ん中で、
頭上にはすっかり夜の色に染まった空が広がっており、周囲にも同様に夜の色が広がっている。
今、座り込んでいる道も日常生活の中で何度も歩いた見慣れた道だ。空の色も、周囲にしみしみと広がる夜の色も、全てが全て日常の中で見てきたもの――しかし、今、璃羽の目の前に広がっているのは完全な非日常の世界だ。
目線の先で、どろりとした液体が道に広がっている。ある程度の粘性を感じさせるそれは、夜闇の色と溶け合って黒く見える。しかし、周囲に満ちる獣臭の中に混じった鉄臭さが正体をはっきりと告げていた。
「……逃げたか」
璃羽が一言も言葉を発せない中、視線の先に立っている青年が呟いた。
街路灯の頼りない明かりに照らされた彼は、璃羽が通っている高校の制服を身にまとっている。だが、首の後ろで結われた長めの黒髪にも、制服にも、べとりとどす黒い液体が付着していた。肌にはところどころに切り傷ができており、そこから赤い血が滲んでいる。
青年が手元にある銀色のナイフを軽く振り、刃に付着していた黒い液体を振り落とした。
見た目こそは食事に使いそうなよくある銀色のナイフだが、よく知る用途で使われるものとは異なる目的で振るわれていたのを璃羽は目撃している。
「ねえ、お前」
青年の赤い瞳が璃羽の姿を捉える。
そして、ゆったりとした足取りでアスファルトの上に座り込んでいる璃羽へ歩み寄ると、黒い液体で汚れた手を差し出した。
「大丈夫?」
こちらへ語りかけてくる声は優しいものだ。
しかし、優しい声が目の前に広がっている非日常の光景と噛み合わず、かえって恐怖心をかきたてる。
青年へ何らかのリアクションを返したくても、彼の背後からこちらへ注がれる赤い獣の瞳から目が離せない。
彼の背後にいる人一人ぐらい簡単に飲み込めてしまいそうなほどに大きな虎のような姿をした獣も、明らかに異常事態が起きている中で平然と動けている青年も、全てが理解できず――全てが恐ろしかった。
(――どうして)
どうして、こんなことになったんだっけ。
すっかり遅くなってしまった帰り道の途中。
呆然とした気持ちが抜けないまま、璃羽の頭は現実逃避をするかのようにこうなる直前までの記憶を再生し始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます