理想像
運歩小太郎
第一話兼、最終話
大学の講義を聞きに行くためだけに1時間も電車に揺られる生活に慣れてきた時、僕は同じ読書サークルの西村に恋をした。西村はチームワークで勝ち上がるバスケットボール部のような美人だった。一つ一つのパーツは特別整ったわけではないが、それらの調和により美人が形成されている。いつも仏頂面で何を考えてるのかわからない。初めて意識したのは電車でたまたま彼女を見かけた時だった。彼女は『人狼城の恐怖』という恐ろしい題名の小説を読みながら笑いを堪えていて、変わった女の子だなと思った。それからは彼女を眺めるのが長い電車通学の楽しみになり、夜に眠れないときは彼女についての妄想をするようになった。要約すると僕は西村のことが好きになったんだ。僕は行動に移すのは早い方なので、早速次にサークルで会った時、デートに誘ってみたが断られた。その後も2、3回デートに誘ったが全て断られた。ショックはもちろん大きかったが、それ以上にそのガードの硬さも西村っぽいなと思い、更に好きになった。そして4回目でやっとデートに誘うことに成功した。初めてのデートで緊張していた僕の前に西村はスカートを履いて現れた。西村のスカート姿!いつもズボンの西村が自分とのデートのためにお洒落をしてくれたのが嬉しかったが、同時にどこか落胆している自分がいた。それから何度かデートを重ねて、僕たちは付き合うことになった。付き合ってから、西村はメイクをするようになったし、前よりも表情が豊かになった。読む小説だって前はおどろおどろしい人が死にまくるような小説ばかりだったのが可愛い表紙の単純な恋愛小説になってしまった。彼氏としては喜ばしい成長のはずなのに僕はずっと満たされないでいた。普通の女の子になっていく彼女のことが腹立たしくなった。だってお洒落をしてニコニコしている西村は西村ではないじゃないか。それは西村に限りなく似ている誰かであって、僕が好きになった西村ではない。そんな事を言えば彼女は落ち込むだろうし最悪の場合別れる事になってしまうかもしれない。少しでも西村の要素が残っている限りは別れる事のは嫌だった。僕は西村に西村らしさを取り戻して欲しかった。
そして付き合ってから5回目のデートの時、二人で居酒屋で酔っ払った帰り、僕は一人暮らしをしている小さなアパートに西村を誘った。そこからすることなんて決まりきっている。西村は彼氏が出来たのは初めてと言っていたので、おそらく処女のはずだ。それは僕の描く西村のイメージに合っていたので嬉しかった。しかしそれなら僕が西村とセックスをしてしまったらそれは西村である要素を一つ失わせることになるのではないかというのは日頃考えていたことだった。しかし酒で酔っ払った僕は冷静な判断ができず、ただ性欲に流されるだけだった。初めて見る西村の裸は西村が女性であることを再認識させ、また女性の体というものによって西村が縛られ、つまらなくさせてしまっている気がした。前戯を済ませて挿入し、僕がゆっくりと動き始めると西山は頬を赤らめ嬌声を上げた。どうしてだろう。そのとき僕の興奮は一気に冷め切り、それと同時に沸沸と何かに対する怒りが湧いてきた。どうして人並みの性欲があり、行為により快感を得る西村に僕はこんなにも冷めきってしまっているのだろう。じゃあ僕の求めてる西村は不感の女なのだろうか。いやそんな単純なものではない。じゃあ僕の思い描いていた西村は一体なんだったのだろう。考えても考えても分からなくて、脳みそがねじれていくその気持ち悪さを僕は西村にぶつけていた。僕は挿入した状態で何度も何度も西村の腹を殴った。ただ僕は今の西村を壊してしまいたい、再構築したい。そう思った。枕には怯えきった西村の吐瀉物が染み込んでいった。
理想像 運歩小太郎 @kakudegu
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